カワセミ側溝から

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

犬と共に生きることのしあわせ   猟犬物語

2025-01-03 | 読書

猟犬物語/谷口ジロー作画(ヤマケイ文庫)

 原作:稲見一良。原作者も漫画家も、両方故人となってしまった。漫画化にあたっても、既に原作者は亡くなった後のようで、息子さんの了解を得て描かれた作品らしい。いわゆるハードボイルド探偵ものなのだが、探偵が請け負うのは、居なくなった猟犬である。広大な山林を相続し、そこで狩猟などをして生計を立てている。犬を探す探偵の仕事で収入も得ながら、という事らしいが、限られた条件下で、なかなかに厳しいやせ我慢生活のようである。猟犬を探すのが仕事で、基本的にはそれ以外の仕事は受けないことにしているが、成り行き上、盲導犬を探すことになる顛末が一本で、その後馬とともに逃げた男が犬もつれていたということで、その犬を探すという条件で逃避行の人馬犬を探す物語との二本立てである。あとがきを見ると、やはり別々に描かれたものなのだが、連作小説などを膨らませて、繋がりのある物語になったようだ。
 はっきり言ってかなり素晴らしい出来栄えなのだが、この作家は、原作があるから絵の生きる不思議な能力を持っていて、漫画として実に見事なのである。もちろん原作無しの漫画も描いているが、それもやはり素晴らしいのだけれど、自分の描きたい題材があると、それを絵として膨らませることが、それなりに意味を持つ作家なのではないか、と思われる。本を読んでいて、自分なりに映像化して観るということは誰でもやっていることだと思うが、この漫画家のように、実際に自分の手でもって漫画として映像化できる人間は限られている。そうしてその作品が素晴らしいということができる人間は、さらに限られているはずである。死後何年も経過した後に、まだまだ評価され続けているということも驚きに値する。時代背景が古いにもかかわらず、なにも古くなってさえいない。ある程度の劇画タッチということもあるのかもしれないが、その迫力ある絵は、まるで息をのむようだ。
 人間のほかに、いつも犬がいるわけだが、犬がモノを語ることは無いにもかかわらず、犬がいるからこそある人間のしあわせのようなものが、ひしひしと伝わってくる。それは人間の独りよがりなところがあるにせよ、その一人ではわかり得ないものなのだ。狩猟がそもそもの出発点ではあるが、物語では盲導犬の理解も深まることだろう。きっかけは泥棒だけれど、盗んだものにも道理がある。主人公は厳しいまなざしを持ちながらも、そのかかわりを投げ出すことがどうしてもできない。結局妙なことになってしまうが、それがまた、心を打つのである。ちょっと泣けてしまって困ることになるが、名作だから仕方がないのである。
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