『悪の教典(Lesson of the evil)』上・下
貴志祐介 著
文春文庫、2012年
ウッカリ記事のタイトルを「読書感想文」とかしちゃいましたけど、こんな本を夏休みの読書感想文に使ったら三者面談強制執行確定でしょうね。
本日ご紹介いたしますのは、そんくらいヤバい(けど私が現役学生だったらマジで感想文書きそうな)ステキな作品でございます。
つい最近映画化もされましたので、この作品をご存知の方も多いかもしれません。
私は映画では観ていないのですが、幾つか相違点もあるようですので、一応あらすじを載せておきます。
ああ、たとえネタバレしてもこの作品の面白さはまったく損なわれませんからご安心を
主人公の「ハスミン」こと蓮実聖司は高校の英語教師。
才色兼備で担任するクラスに親衛隊があるほどの人気の持主です。
しかし、これはあくまでも表の顔。
実はこの男、これまでの人生で自分にとって邪魔な人間を躊躇いなく殺してきた、とんでもないヤツなのです。
おそろしく頭が切れるため、自らの犯した罪を巧妙に隠蔽しており、なんだかやたら周囲に死人が出ているにも関わらず、不幸な事故とか集団自殺とかで片付けられており、警察もまったく尻尾をつかめません。
ハスミンが高校教師になったのも、実は自分が意のままに支配出来る王国を作るため。
彼が今赴任している高校にも、教師・生徒・保護者などに目障りな人間がいればバッサバッサと殺し、あるいは失脚させ、理想の王国を建設なうなハスミンなのです。
もちろん、お色気たっぷりな保健室の先生や、自分にピュアな好意を寄せる教え子など、いろんな意味で利用出来るものはしっかり味方につけてゆきます。
色仕掛けはもちろん、弱みを握って脅して無理やり味方に付けるのだって、ハスミンにかかれば朝飯前です。
とはいえ、これだけ大量の悪事を重ねていれば、誰にも気づかれない訳がない。
中にはひょんな事をきっかけに、あるいは持ち前の直感で、ハスミンの怪しさに気づく人も出てきます。
そんな彼らをいつものように軽快な口笛を吹きながら殺っていくハスミンでしたが、彼の恐ろしい事実がクラスの教え子全員にバレる危険性が生じたその時、ついに血塗られた一夜が幕を明けるのでした………。
いやぁ、こんな面白い小説、久しぶりに読みましたよ。
何が面白いって、この主人公ハスミンが底抜けに面白いキャラクターなのです。
文庫版の解説を書いている三池崇史監督もハスミンの虜になった読者の一人だったようで、「私は蓮実聖司の奴隷として映画の監督を務めた」と書いていらっしゃいますが、その気持、ものすごくよくわかる。
そういう、人を惹き付けてやまない力を、このキャラクターは持っているのです。
殺人鬼が人を惹き付ける?そんなわけない!と思う方も多いでしょう。
しかしこのハスミン、「裏の顔が」「正体が」とは言ってるけど、じつはこれほど裏表のない人間はいないと私は思います。
たとえば、他人に対して「こいつさえいなければ」と思ったり、他人が不幸になってでも自分が幸せになりたいとか、自分さえ良ければ他人の苦しみなど構わないと思っている人間は非常に多い事でしょう(この作品にもゴマンと出てきます)。
ところが、これらの感情は醜い…というより「世間で醜いとされているので、周りから醜いと思われたくないために」、殆どの人間はこういった感情を巧妙に隠します。
世間体はもちろん、自分自身に対してでさえ、自分が醜いと認めるのは堪え難いからという事で、そういう感情がある事を気づかぬフリしてる人、きっとそうとう多いんじゃないですか?
でもね。私の個人的な意見を言わせていただくなら、「他人の不幸なんか知るもんか、アタシが幸せならいいんだよ」と思う人それ自身よりも、それを隠して善人ちゃんの仮面を被り、アロハ・スピリ…おっと失礼、平和だの博愛だのと上っ面の綺麗事を並べ立てる事の方が余程醜いと思う訳ですよ。
そういう人見ると、もうサブイボ立っちゃってダメなんだよ、私ゃ。無駄にイイ印象残そうとするのやめろよと思うね、マジで。
正直に「私は自分さえ良きゃ他人なんざどうでもいいです」と言ってもらった方が、余程スッキリします(笑)。
その点、ハスミンは自分の感情に実に正直。
気に入らなきゃヤっちゃいます。
「気に入らない」のレベルも実に様々で、自らの生命や生活を脅かすMAXレベルの敵は必殺なのは言うまでもなく、「オレと人気者キャラが被りそうでウザイ」程度の人にもけっこう酷いコトしちゃいます。
しかも、自分の野望を成し遂げるためのプロセスが、実に痛快です。
何しろ頭の良さがハンパないですからね。計画の立て方といい、実行の仕方といい、万一の時のトラブルシューティングといい、ひたすら巧みで見事としか言いようがありません。
そして、よからぬ目的で習得した知識や技術を、ちゃっかり平然と日常生活で活用しているところがものすごく笑える!
特に上巻は、道徳とか倫理とかそういうのをとりあえず脇に置いといて読むと、声上げて笑えるくらい愉快なところが大変多く、年末年始で絶望的に混雑している中でこれを読んだ私は、この本のおかげでだいぶ精神的に救われました(笑)。
ま、流石に下巻は息もつかせぬシリアスな展開ですし、内容的にもハスミンヤッホーな気分にはなりにくいですけどね。
個人的には、上巻~下巻の序盤くらいまでに留めておいてあの高校からは姿を消し、全国各地を渡り歩く逆水戸黄門(ってオイ)みたいなシリーズ物にしてもらいたいくらい、前半の軽やかでユーモラスな作風が好きでした。
教師だけでなく、そうとうな種類の仕事が出来そうだからねこの人は。いろんな職業やいろんな偽名に身をやつしつつ、各地に出没していただきたいものです。
貴志祐介 著
文春文庫、2012年
ウッカリ記事のタイトルを「読書感想文」とかしちゃいましたけど、こんな本を夏休みの読書感想文に使ったら三者面談強制執行確定でしょうね。
本日ご紹介いたしますのは、そんくらいヤバい(けど私が現役学生だったらマジで感想文書きそうな)ステキな作品でございます。
つい最近映画化もされましたので、この作品をご存知の方も多いかもしれません。
私は映画では観ていないのですが、幾つか相違点もあるようですので、一応あらすじを載せておきます。
ああ、たとえネタバレしてもこの作品の面白さはまったく損なわれませんからご安心を
主人公の「ハスミン」こと蓮実聖司は高校の英語教師。
才色兼備で担任するクラスに親衛隊があるほどの人気の持主です。
しかし、これはあくまでも表の顔。
実はこの男、これまでの人生で自分にとって邪魔な人間を躊躇いなく殺してきた、とんでもないヤツなのです。
おそろしく頭が切れるため、自らの犯した罪を巧妙に隠蔽しており、なんだかやたら周囲に死人が出ているにも関わらず、不幸な事故とか集団自殺とかで片付けられており、警察もまったく尻尾をつかめません。
ハスミンが高校教師になったのも、実は自分が意のままに支配出来る王国を作るため。
彼が今赴任している高校にも、教師・生徒・保護者などに目障りな人間がいればバッサバッサと殺し、あるいは失脚させ、理想の王国を建設なうなハスミンなのです。
もちろん、お色気たっぷりな保健室の先生や、自分にピュアな好意を寄せる教え子など、いろんな意味で利用出来るものはしっかり味方につけてゆきます。
色仕掛けはもちろん、弱みを握って脅して無理やり味方に付けるのだって、ハスミンにかかれば朝飯前です。
とはいえ、これだけ大量の悪事を重ねていれば、誰にも気づかれない訳がない。
中にはひょんな事をきっかけに、あるいは持ち前の直感で、ハスミンの怪しさに気づく人も出てきます。
そんな彼らをいつものように軽快な口笛を吹きながら殺っていくハスミンでしたが、彼の恐ろしい事実がクラスの教え子全員にバレる危険性が生じたその時、ついに血塗られた一夜が幕を明けるのでした………。
いやぁ、こんな面白い小説、久しぶりに読みましたよ。
何が面白いって、この主人公ハスミンが底抜けに面白いキャラクターなのです。
文庫版の解説を書いている三池崇史監督もハスミンの虜になった読者の一人だったようで、「私は蓮実聖司の奴隷として映画の監督を務めた」と書いていらっしゃいますが、その気持、ものすごくよくわかる。
そういう、人を惹き付けてやまない力を、このキャラクターは持っているのです。
殺人鬼が人を惹き付ける?そんなわけない!と思う方も多いでしょう。
しかしこのハスミン、「裏の顔が」「正体が」とは言ってるけど、じつはこれほど裏表のない人間はいないと私は思います。
たとえば、他人に対して「こいつさえいなければ」と思ったり、他人が不幸になってでも自分が幸せになりたいとか、自分さえ良ければ他人の苦しみなど構わないと思っている人間は非常に多い事でしょう(この作品にもゴマンと出てきます)。
ところが、これらの感情は醜い…というより「世間で醜いとされているので、周りから醜いと思われたくないために」、殆どの人間はこういった感情を巧妙に隠します。
世間体はもちろん、自分自身に対してでさえ、自分が醜いと認めるのは堪え難いからという事で、そういう感情がある事を気づかぬフリしてる人、きっとそうとう多いんじゃないですか?
でもね。私の個人的な意見を言わせていただくなら、「他人の不幸なんか知るもんか、アタシが幸せならいいんだよ」と思う人それ自身よりも、それを隠して善人ちゃんの仮面を被り、アロハ・スピリ…おっと失礼、平和だの博愛だのと上っ面の綺麗事を並べ立てる事の方が余程醜いと思う訳ですよ。
そういう人見ると、もうサブイボ立っちゃってダメなんだよ、私ゃ。無駄にイイ印象残そうとするのやめろよと思うね、マジで。
正直に「私は自分さえ良きゃ他人なんざどうでもいいです」と言ってもらった方が、余程スッキリします(笑)。
その点、ハスミンは自分の感情に実に正直。
気に入らなきゃヤっちゃいます。
「気に入らない」のレベルも実に様々で、自らの生命や生活を脅かすMAXレベルの敵は必殺なのは言うまでもなく、「オレと人気者キャラが被りそうでウザイ」程度の人にもけっこう酷いコトしちゃいます。
しかも、自分の野望を成し遂げるためのプロセスが、実に痛快です。
何しろ頭の良さがハンパないですからね。計画の立て方といい、実行の仕方といい、万一の時のトラブルシューティングといい、ひたすら巧みで見事としか言いようがありません。
そして、よからぬ目的で習得した知識や技術を、ちゃっかり平然と日常生活で活用しているところがものすごく笑える!
特に上巻は、道徳とか倫理とかそういうのをとりあえず脇に置いといて読むと、声上げて笑えるくらい愉快なところが大変多く、年末年始で絶望的に混雑している中でこれを読んだ私は、この本のおかげでだいぶ精神的に救われました(笑)。
ま、流石に下巻は息もつかせぬシリアスな展開ですし、内容的にもハスミンヤッホーな気分にはなりにくいですけどね。
個人的には、上巻~下巻の序盤くらいまでに留めておいてあの高校からは姿を消し、全国各地を渡り歩く逆水戸黄門(ってオイ)みたいなシリーズ物にしてもらいたいくらい、前半の軽やかでユーモラスな作風が好きでした。
教師だけでなく、そうとうな種類の仕事が出来そうだからねこの人は。いろんな職業やいろんな偽名に身をやつしつつ、各地に出没していただきたいものです。