背中にヒロムの重みを感じた。ヒトミは丸い回転椅子の上で緊張した。体が強張った。下げた手を握り締めて身構えていた。ヒロムは一度身体を離した。肩に手をそっと沿えた。
「ヒーちゃん。」
ヒロムなのに何を緊張しているのだろう。フーと息を吐いて、ヒトミは体の力を抜いた。力の抜けるのを感じて、ヒロムは背中から抱きしめた。ヒトミの胸の上にヒロムの腕があった。ヒトミは手をそっとのせた。
「どうしたの」
何も言わない唇、触れるか触れないかの距離で耳もとにヒロムの頬があった。ヒロムはゆっくりと身体を揺らし始めた。
「ヒーちゃんはセクスをしたことがあるの。」
この甘えた声がいけなかった。ヒトミはヒロムのこの声に弱かった。こんな唐突な話は失礼なことだが、ヒトミは答えてしまうのだ。
「セクスって」
「たとえば、「ベース」での行為もセクスだけど、・・・・・」
「どうしたの」
答えないヒロム。
「あるわよ。」
「そう、・・・「ベース」のセクスはそれ自体が目的ではなくて、共有する感覚のほうが大切な気がして。」
「それは同じじゃない。」
「いや、・・・・・」
ヒトミは同じ人とは思えない、と思うことがあった。皆の前で言葉を発するときのヒロムと今ここにいるヒロムは別人のようだった。ミサキから情報を得たいのだが旨く話しができない、と言ったときのヒロムもまた違う人のようだった。ヒロムは統一された存在ではなく、いくつかの人格が混在しているのではないか、と感じた。ヒロムの言葉にはヒトミも感動し、それ自体は尊敬していた。今日のヒロムは性に興味を持ち出した子供のように思えた。それでも母のように、または、教師のように性教育ができるわけでもなかった。
「ミサキさんとの話しは旨く行ったの。」
ヒロムは、一瞬、ビクとした。
「情報はそれなりに得れたけど・・・・・」
「けどって、ミサキさんと何かあったの。」
「なにもないよ。」
ヒロムの語気がいくぶん、荒くなった。女の直感で何かあったと思った。けれど、語気の荒さから、今日は触れてはいけないことだとも察した。
「性的な経験は「ベース」が初めてだったんだ。」
「そう。」
ヒトミは極力優しい声で答えた。ヒロムは身体の揺れを大きくしてきた。ヒトミは全身に力を入れて動きを止めた。ヒロムの腕を解いて、振り向いた。
「どうしたいの。」
視線が合った。ヒロムは視線をそらした。
「どうしたいって・・・・」
ヒトミはアップライトのピアノの丸椅子を回して体の向きを変え、ヒロムと向き合った。
「経験してみたいの。」
ヒトミは自分が年上の女性になったような気がした。自分が大胆なことを言っているとも感じた。でもなぜだろう。それでもいいか、と頭のどこかで声がした。ヒロムは何も言わなかった。ヒトミはヒロムの手を取った。
「ねえ、こっちを向いて。」
ヒロムの顔はけしていい男ではないが愛らしかった。
「キスして」
ヒトミは目を瞑って、待った。ぎこちなく遠慮がちな唇がヒトミの唇にぶつかった。ヒトミは回転椅子を降りた。膝を突き、唇の位置を合わせて、ヒロムの身体を抱いた。軽いキッスを唇や頬にした。ゆっくりと唇を重ね、今度は強く吸った。一度離して、もう一度強く吸い、舌先で力の入ったヒロムの唇を開いた。薄く開いた唇から舌を入れた。ヒロムの舌の裏側を刺激し、舌を回した。ヒロムが反応したところで、ヒロムの舌が入ってくるのを待った。ヒトミの唇から、ヒロムの舌が進入したとき、それをヒトミは強く吸った。フッと離して、唇をなめた。ヒロムが抱きしめてきた。また、最初からキッスを始めた。
「ヒーちゃん。」
ヒロムなのに何を緊張しているのだろう。フーと息を吐いて、ヒトミは体の力を抜いた。力の抜けるのを感じて、ヒロムは背中から抱きしめた。ヒトミの胸の上にヒロムの腕があった。ヒトミは手をそっとのせた。
「どうしたの」
何も言わない唇、触れるか触れないかの距離で耳もとにヒロムの頬があった。ヒロムはゆっくりと身体を揺らし始めた。
「ヒーちゃんはセクスをしたことがあるの。」
この甘えた声がいけなかった。ヒトミはヒロムのこの声に弱かった。こんな唐突な話は失礼なことだが、ヒトミは答えてしまうのだ。
「セクスって」
「たとえば、「ベース」での行為もセクスだけど、・・・・・」
「どうしたの」
答えないヒロム。
「あるわよ。」
「そう、・・・「ベース」のセクスはそれ自体が目的ではなくて、共有する感覚のほうが大切な気がして。」
「それは同じじゃない。」
「いや、・・・・・」
ヒトミは同じ人とは思えない、と思うことがあった。皆の前で言葉を発するときのヒロムと今ここにいるヒロムは別人のようだった。ミサキから情報を得たいのだが旨く話しができない、と言ったときのヒロムもまた違う人のようだった。ヒロムは統一された存在ではなく、いくつかの人格が混在しているのではないか、と感じた。ヒロムの言葉にはヒトミも感動し、それ自体は尊敬していた。今日のヒロムは性に興味を持ち出した子供のように思えた。それでも母のように、または、教師のように性教育ができるわけでもなかった。
「ミサキさんとの話しは旨く行ったの。」
ヒロムは、一瞬、ビクとした。
「情報はそれなりに得れたけど・・・・・」
「けどって、ミサキさんと何かあったの。」
「なにもないよ。」
ヒロムの語気がいくぶん、荒くなった。女の直感で何かあったと思った。けれど、語気の荒さから、今日は触れてはいけないことだとも察した。
「性的な経験は「ベース」が初めてだったんだ。」
「そう。」
ヒトミは極力優しい声で答えた。ヒロムは身体の揺れを大きくしてきた。ヒトミは全身に力を入れて動きを止めた。ヒロムの腕を解いて、振り向いた。
「どうしたいの。」
視線が合った。ヒロムは視線をそらした。
「どうしたいって・・・・」
ヒトミはアップライトのピアノの丸椅子を回して体の向きを変え、ヒロムと向き合った。
「経験してみたいの。」
ヒトミは自分が年上の女性になったような気がした。自分が大胆なことを言っているとも感じた。でもなぜだろう。それでもいいか、と頭のどこかで声がした。ヒロムは何も言わなかった。ヒトミはヒロムの手を取った。
「ねえ、こっちを向いて。」
ヒロムの顔はけしていい男ではないが愛らしかった。
「キスして」
ヒトミは目を瞑って、待った。ぎこちなく遠慮がちな唇がヒトミの唇にぶつかった。ヒトミは回転椅子を降りた。膝を突き、唇の位置を合わせて、ヒロムの身体を抱いた。軽いキッスを唇や頬にした。ゆっくりと唇を重ね、今度は強く吸った。一度離して、もう一度強く吸い、舌先で力の入ったヒロムの唇を開いた。薄く開いた唇から舌を入れた。ヒロムの舌の裏側を刺激し、舌を回した。ヒロムが反応したところで、ヒロムの舌が入ってくるのを待った。ヒトミの唇から、ヒロムの舌が進入したとき、それをヒトミは強く吸った。フッと離して、唇をなめた。ヒロムが抱きしめてきた。また、最初からキッスを始めた。