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再会と言えるのか3

2012年05月22日 17時19分13秒 | Weblog
経験のないことに遭遇すると人間はどう対処していいかわからなくなる。
マサルもいくつかの危機に遭遇したが、今回は勝手が違った。
どうなったのか、どうしたらよいのか解らなかった。
当然、スグリもわからなかった。
昨日まで、普通に動いていた人間が、突然、動けなくなるなどということはありえないことだ。
名前もわからない。
年齢もわからない。
所持品はない。
この状態で、どう対処するべきなのか。
かつてのマサルなら、金の力に物を言わせ、病院へ駆け込んだのかもしれない。
が、今のマサルには父親のカードも、ベンベーもない。

保険証も持っていない人間。
名前もない人間。
住所もない人間

識別不可能な人間

そんな人間は社会が拒絶する。
安心と安全のために識別不可能な人間は排除される。

スグリはジローさんとトコちゃんに電話した。
二人とも留守だった。
「いいよ。迷惑かけるから。」
「でも・・・・。」

フル回転するマサルの頭。

ヒロムのベッドの前で頭を垂れて座り込むマサル。
スグリは後ろからマサルを抱きしめた。
昨日とは違う思いがスグリの中にできていた。
マサルもスグリの暖かさを感じた。

「ありがとう。」

マサルの頭の中にヒカルの顔が浮かんできた。
「そうだ。」
「どうしたの。」
「「ベース」に電話してみるよ。」
「なにそれ。」
「そうなんだよ。「ベース」には看護婦が二人もいるんだよ。」
「わおう。それよ。」
二人は抱き合って喜んだ。

「ベース」はすぐに動いた。
マサルが拾った得体のしれない生き物でも「ベース」は受け入れた。
去る者は追わず、来るものは拒まず。
その態度、その姿勢に変わりはなかった。それがどんな状態でも。

ヒデオがハイエースの荷台にベッドを作り、諏訪を出た。
リツコとアキコが同乗した。

電話で体温、呼吸、心拍数、飲食の可否が問われ、スグリとマサルは動かないヒロムに体温計を突っ込み、胸に耳を当て、急須を口元にあてた。
体温も正常で、呼吸も問題がなく、心拍数は若干少なかった。
水は飲めた。
後でリツコがそれはしなくてよかったのだといった。
もし、呑み込めなくて肺に入っちゃったら、取り返しがつかなかいことになっていたと言われ、マサルとスグリは青くなった。

そんな中、マサルは金がないことの無力感を感じた。
また、動ける身体があることが「ベース」の活動を守っていることも感じた。