カウンターに5人の老人(失礼!)が賑やかに並んで座っている。
昔話に花が咲いているようだ。
真ん中にいるのが春山さんで、時々顔を見せてくれるお客さん。
連れの4人は、春山さんが連れてきてくれた初見の方々である。
大学の同じサークルの仲間で、サークル創設50周年記念会の集まりがあったようだ。
当時の設立メンバーがここにいる5人だったらしい。
学生時代の話が盛り上がっていて、聞くともなく聞いていた中で面白かった話を二つ紹介しましょう。
上園さんの話 ー 井波消失の謎(と私が名付けさせていただきました)ー
ソルティドッグの残りをグッと飲み干して上園さんが話し始めた。以下敬称略で。
学生時代に上園は春山や後輩等と4人で一戸建てを借りて同居生活をしていた。
海に面したこの街では、住宅地になる平地が少ないので、傾斜地を削って造成している住宅地が多かった。
上園達が借りていた住居も同様の場所にあり、しかしあまり交通の便がよくなかったので、
2軒並びの家があるだけの、他はほぼ農地になっていた。
上園達が「下の道」と呼んでいた取り付け道は、家から4m位下を通っていた。
家の裏は傾斜地を削った裏山になっていて、まだ小さな雑木が混じった雑草地の小さな丘で、
居間の前は傾斜地の崖(といっても傾斜は50度くらいか)の部分にあたり、居間から3mほど先は細い竹がびっしり生えた崖になっていた。
崖の手前には横に細長く花壇が作ってあったが、学生4人の住まいでは花の一輪もなく、名前だけの花壇だった。
家が建っている土地の造りはこの話に深く関わることなので、少しクドいほど説明させていただいた。
上園は同級生と下級生2人の4人で暮らし、朝食と夕食は4人で当番を交代しながら作っていた。
「創志寮」などといういっぱしの大げさな名前をつけていた。
志って何処にあるの、まともな人から見ればそう言えるような生活をしている家ではあったが、大言壮語は学生の特権か。
4人の共同生活の場所は、サークル仲間の溜まり場でもあり、金がないときの飲み会の会場でもあった。
その夜はサークル仲間10人ほどが集まり、6時頃から飲み始めていた。
2時間ほど過ぎた頃、上園はふと気付いて春山に
「おい、井波は何処行ったんだ?」
その声に座を見回した春山は
「あれっ、さっきまで隣にいたはずだけどな」
と怪訝そうに答えた。
井波は上園の同級生だが、別にアパートに部屋を借りていた。
「創志寮」で飲むときは欠かさず来るような呑兵衛で、その割には早々と酔う、人のいい好漢だった。
「お~い、誰か井波を知らないか?」
と、春山が座にいる部員達に声を掛けると、
後輩の一人が、
「さっきションベン、ションベンって言いながら、そこの窓を開けて花壇の方に出ましたよ」
上園と春山が外を見るが、井波の姿はない。
念のためと、上園が居間の外にある花壇のところにまで行くと、どこからか声がする。
「誰か助けてくれ~!」
その声がどこからするのか瞬間分からなかったが、2度目の「助けて~」を聞くと、
どうやら庭先の竹藪になった崖下の方から聞こえる。
「井波!何処や~?」と大声で問うと、
「下!した!SHITA!」
と井波の必死の声がする。
花壇の端から崖下を見るが、竹藪が邪魔になって井波の姿は見つからない。
上園は春山と後輩3人ほど連れて、取り付け道路を回って家の崖下に着き、
上を見上げると、下から1mほどの竹の間に井波が見える。
酔っているせいもあるのか、竹藪の中で藻掻いている井波はなかなか抜け出せない。
5人で何とか井波を引きずり下ろすように竹藪から助け出した。
落ちたところが竹藪のクッションだったためか、2,3カ所の擦り傷で済んだのは幸いだった。
井波は酒席に戻ると、
「スマン、死ぬかと思った」
と真面目な顔で謝って、皆の笑いを誘った。
かなり酔っていた井波は、小用を足そうと居間の外の花壇から竹藪に向かって立っていたところ、フラついて落ちたらしい。
そのような弁解をする井波に上園が、
「落ちたのはションベンする前か、それともしている途中か、どっちや?その答え次第では服を着替えんで一緒に飲むのは罷り成らん!」
真剣な声で問い詰めるのに、
「あんまりビックリしてそんなことは分からん」
井波は憮然とした様子で言葉を返す。
そこに、後輩の女子部員が井波の側に寄って、仔細に井波の服、とくにズボンを点検していたが、
「大丈夫です!する前のようですウ」
と、全員に向かって宣言するや、座は大笑いに包まれた。
井波はますます憮然とした様子で、盃を傾けた。
「覚えとるや井波」
上園さんが隣の席に顔を向けると、
「そんな昔のことを覚えてるわけがあるか」
井波さんはやはり憮然として答えた。
どうやら、春山さんの奥の席が上園さんで、そのまた奥が井波さんか。
学生時代の仲間と会うと、50年経っても一瞬で当時まで時を超えるようだ。
あなたも学生時代のオモシロ話があるんですか。
では是非名も知らぬ駅に来て、ご披露ください。
昔話に花が咲いているようだ。
真ん中にいるのが春山さんで、時々顔を見せてくれるお客さん。
連れの4人は、春山さんが連れてきてくれた初見の方々である。
大学の同じサークルの仲間で、サークル創設50周年記念会の集まりがあったようだ。
当時の設立メンバーがここにいる5人だったらしい。
学生時代の話が盛り上がっていて、聞くともなく聞いていた中で面白かった話を二つ紹介しましょう。
上園さんの話 ー 井波消失の謎(と私が名付けさせていただきました)ー
ソルティドッグの残りをグッと飲み干して上園さんが話し始めた。以下敬称略で。
学生時代に上園は春山や後輩等と4人で一戸建てを借りて同居生活をしていた。
海に面したこの街では、住宅地になる平地が少ないので、傾斜地を削って造成している住宅地が多かった。
上園達が借りていた住居も同様の場所にあり、しかしあまり交通の便がよくなかったので、
2軒並びの家があるだけの、他はほぼ農地になっていた。
上園達が「下の道」と呼んでいた取り付け道は、家から4m位下を通っていた。
家の裏は傾斜地を削った裏山になっていて、まだ小さな雑木が混じった雑草地の小さな丘で、
居間の前は傾斜地の崖(といっても傾斜は50度くらいか)の部分にあたり、居間から3mほど先は細い竹がびっしり生えた崖になっていた。
崖の手前には横に細長く花壇が作ってあったが、学生4人の住まいでは花の一輪もなく、名前だけの花壇だった。
家が建っている土地の造りはこの話に深く関わることなので、少しクドいほど説明させていただいた。
上園は同級生と下級生2人の4人で暮らし、朝食と夕食は4人で当番を交代しながら作っていた。
「創志寮」などといういっぱしの大げさな名前をつけていた。
志って何処にあるの、まともな人から見ればそう言えるような生活をしている家ではあったが、大言壮語は学生の特権か。
4人の共同生活の場所は、サークル仲間の溜まり場でもあり、金がないときの飲み会の会場でもあった。
その夜はサークル仲間10人ほどが集まり、6時頃から飲み始めていた。
2時間ほど過ぎた頃、上園はふと気付いて春山に
「おい、井波は何処行ったんだ?」
その声に座を見回した春山は
「あれっ、さっきまで隣にいたはずだけどな」
と怪訝そうに答えた。
井波は上園の同級生だが、別にアパートに部屋を借りていた。
「創志寮」で飲むときは欠かさず来るような呑兵衛で、その割には早々と酔う、人のいい好漢だった。
「お~い、誰か井波を知らないか?」
と、春山が座にいる部員達に声を掛けると、
後輩の一人が、
「さっきションベン、ションベンって言いながら、そこの窓を開けて花壇の方に出ましたよ」
上園と春山が外を見るが、井波の姿はない。
念のためと、上園が居間の外にある花壇のところにまで行くと、どこからか声がする。
「誰か助けてくれ~!」
その声がどこからするのか瞬間分からなかったが、2度目の「助けて~」を聞くと、
どうやら庭先の竹藪になった崖下の方から聞こえる。
「井波!何処や~?」と大声で問うと、
「下!した!SHITA!」
と井波の必死の声がする。
花壇の端から崖下を見るが、竹藪が邪魔になって井波の姿は見つからない。
上園は春山と後輩3人ほど連れて、取り付け道路を回って家の崖下に着き、
上を見上げると、下から1mほどの竹の間に井波が見える。
酔っているせいもあるのか、竹藪の中で藻掻いている井波はなかなか抜け出せない。
5人で何とか井波を引きずり下ろすように竹藪から助け出した。
落ちたところが竹藪のクッションだったためか、2,3カ所の擦り傷で済んだのは幸いだった。
井波は酒席に戻ると、
「スマン、死ぬかと思った」
と真面目な顔で謝って、皆の笑いを誘った。
かなり酔っていた井波は、小用を足そうと居間の外の花壇から竹藪に向かって立っていたところ、フラついて落ちたらしい。
そのような弁解をする井波に上園が、
「落ちたのはションベンする前か、それともしている途中か、どっちや?その答え次第では服を着替えんで一緒に飲むのは罷り成らん!」
真剣な声で問い詰めるのに、
「あんまりビックリしてそんなことは分からん」
井波は憮然とした様子で言葉を返す。
そこに、後輩の女子部員が井波の側に寄って、仔細に井波の服、とくにズボンを点検していたが、
「大丈夫です!する前のようですウ」
と、全員に向かって宣言するや、座は大笑いに包まれた。
井波はますます憮然とした様子で、盃を傾けた。
「覚えとるや井波」
上園さんが隣の席に顔を向けると、
「そんな昔のことを覚えてるわけがあるか」
井波さんはやはり憮然として答えた。
どうやら、春山さんの奥の席が上園さんで、そのまた奥が井波さんか。
学生時代の仲間と会うと、50年経っても一瞬で当時まで時を超えるようだ。
あなたも学生時代のオモシロ話があるんですか。
では是非名も知らぬ駅に来て、ご披露ください。
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