『三越小僧読本』の知恵青野 豊作講談社このアイテムの詳細を見る |
『三越小僧読本』は明治末に従業員教育用に編纂されたもので、本書はそれの解説書的な一冊です。
私が特に気を引かれたのは、おそらく日本で最初に、マーケティングを意識して商売をしたと思われる三井高利のお話でした。
この人、三越の前身越後屋呉服店を創業した人です。
その時、52歳です。
高利は伊勢松坂の人です。
長兄が江戸で商売をしていましたが、66歳で他界したため、代わって江戸へ出ることになります。
江戸進出が決まると、長男に京都に呉服仕入れ店を開かせ、次男と三男には江戸に間口わずか一間半ですが、呉服店越後屋を開かせます。
その間。僅か一ヶ月足らずです。
そして、開業に備えて、日本最古と思われる、二十八箇条からなる店則・店員心得「越後屋・定」を作っています。
曰わく
公儀の御法度を厳守しなさい。
博打や遊女遊びをしてはいけない。
店売り、町売り、卸売りなどにも精を出しなさい。
30日間も売れないものは仕入れより安くても良いから処分しなさい。
商売のことに熱心な者は、新参・古参の区別無く抜擢しなさい。
と云うようなものです。
当時の呉服販売は得意先を回って注文を取り、後から品物を届けるか、品物を先にいくつか届けておいて、後日お買いあげに成らなかった物を回収すると云うやりかたで、代金回収は盆暮れの二回か年末の一回のみでした。
高利はこれを店前(みせさき)現金売りと卸売りのふたつにしました。
江戸店開店から10年後、(1683年)裏通りから表通りへ店舗を移し、世界初の正札販売を始めます。
この時ばらまいた引き札(チラシ広告)に「工夫をしたので安くしました。現金です。掛け売りはしません」と云うことが書かれています。
因みに世界初の百貨店と云われる、パリのボン・マルシェ百貨店でアリスティード・ブシュコーが定価販売を始めたのは、1852年のことです。
そして、なぜ安売りが出来たのかと云えば、先に触れましたが、江戸店を開く前に京都に仕入れの店を開いていたんです。
直接仕入れ、現代の流通革命ですね。
後には、長崎店を開き唐物(中国産)仕入れを行い京都・大阪店と共に流通販売のネットワークを築いて行きました。
その他にも、雨の日に傘の無料貸し出しをして川柳に、
「江戸中に、越後屋の花が咲き」と詠われたり、
沢山の日本初・世界初というマーケティングを行っていました。
他の人がやったことがない事をやる、新たな発想と周到な準備で商売を切り開く、そして従業員にはキチンと社会的ルールを守らせる。
そんなお話しが載っている本が「三越小僧読本の知恵」知人に薦められて読んでみました。