進む博多駅の解体と、現駅ビル建設時のエピソード。

　現博多駅ビルの解体工事が本格化する。博多井筒屋などが退店して
はや２ヶ月半、駅ビル部分もホーム部分も本格的な工事が進んでいる。
我が家には、現博多駅に関する書籍もいくつかある。博多ステーショ
ンビルが1999年末に発行した非売本「明日を創る人～博多ステーショ
ンビル意外史」には、建設前から建設時の写真やエピソードが多数掲
載され、就寝前に読む本のベスト５に入る個人的人気本だ（笑）。

　完成してしまうと、どうやって建設されたかは全く想像がつかない
が、建設過程を追って解説されているので、現状と見比べて非常に興
味深いのである。この本を古書店で見つけた時は、本当に小躍りして
喜んだ。内容的にお堅い本ではなく、思わず微笑んでしまうような、
楽しいエピソードもたくさん収録されているのが嬉しい。

　現博多駅は幾度も水害に遭っている。記憶に新しいのは２００３年
や１９９９年の水害であるが、現駅ビル完成直前の１９６３年（昭和
38年）にも大水害に遭っている。当時は駅周辺は大半がまだ田んぼで
農業用水路にはどじょうがいたとの事。工事中の風景写真はその通り
周囲は何も無い田園風景である。

　当時の工事は「最新工法ＪＶ方式」によるものだったとのことで、
博多駅以後に建てられた多くの民衆駅は「博多方式」で建築されたそ
うである。昨年、１００周年史への資料提供などでお手伝いした清水
建設九州支社などが当時建設を担当しているが、同社は二代目博多駅
も手がけており、代々博多駅の建設に携わっていることになる。新ビ
ルも日本初の駅ビル方式になるという（ホームの上も駅ビルで、ホー
ムと直結）。

　新駅ビルは阪急百貨店や東急ハンズが早々と出店表明し、順調に建
設が進みそうだが、現駅ビル建設時はＪＲ（当時は国鉄）ではなく、
今まで駅ビルを所有してきた博多ステーションビルという企業体が建
設しテナントを集めていた。開業直後に開店した大光百貨店（渕上百
貨店の出店）は僅か数ヶ月で退店し、苦慮の末に井筒屋が救いの手を
さしのべて出店に合意した経緯があり今回の退店交渉が難航した訳だ。

　現駅の開設時、まわりは田んぼだらけで市街地からは６００ｍも離
れていた。市内電車がルート変更して現博多駅前へ到達したのも数年
後であり、今では想像できないが周囲には何も無い状態だったから、
お客が来なくてテナントの廃業・退店が続いたのも当然であった訳で
ある。

　本の中には、西日本一の大規模民衆駅としての「誇り」以上に、田
んぼを埋め立て未舗装だった一帯には風が吹くと「ホコリ」が舞い上
がり「ホコリ高き博多駅」と揶揄されたとある。今では想像がつかな
いが、水害への弱さを知っているだけに（水害時は川の泥が一帯を覆
い再び「ホコリ高き博多駅」になった）、妙に納得もできる。

　現博多駅で個人的に忘れられない？のは、昭和の終わりまで駅ビル
の奥に「ステーションシネマ」があったことである。現在はスーパー
などが入る一角に小さな映画館があったのだ。デザインの専門学校に
通った時期に何度かここで映画を観た記憶がある。

　新しい駅ビルにもシネコンが入るという。現在も隣接するバスセン
ターの小さな映画館にはよく通っているが、シネコンが出来ても小映
画館は残ってほしいと思う。ここで上映される映画はマイナーだけど
良い映画が多いからである。

今日の写真は、現博多駅開設間もない昭和40年頃の絵葉書。
のちに駅ビルに入居する博多井筒屋の出展前である。
自動車のデザインも当時を象徴していて興味深い。

所有する絵葉書のデジタルアーカイブを進めている。
「アンティーク絵葉書にみる懐かしの博多駅」ページを用意。
二代目・三代目博多駅の秘蔵写真で紹介。
http://www.asocie.jp/memory/hakatastation/