ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

戸崎ダム

2021-10-23 04:29:21 | 宮崎県
2021年10月16日 戸崎ダム
 
戸崎ダムは宮崎県児湯郡木城町石河内の一級河川小丸川本流にある九州電力(株)が管理する発電目的の重力式コンクリートダムです。
宮崎県は主要河川がいずれも包蔵水力豊富なことから、戦前から各河川で活発な電源開発が進められてきました。
小丸川水系では1938年(昭和13年)に県による小丸川河水統制事業が着手され宮崎県電気部(現宮崎県企業局)による電源開発が進められました。
まず1940年(昭和35年)に浜口ダム(現川原ダム)と川原発電所が完成、次いで1943年(昭和18年)に完成したのが戸崎ダムと石河内第二ダムです。
しかし完成直後に一連の発電施設は日本発送電に接収され、1951年(昭和26年)の電気事業再編成により九州電力が事業を継承しました。
戸崎ダムで取水された水は石河内第二発電所に送られ最大1万8000キロワットのダム水路式発電を行います。
なお小丸川河水統制事業として戦後、石河内第一発電所が県企業局の手で完成しました。この結果同水系の同名の第一発電所と第二発電所で事業者が異なる状況となっています。
さらに当ダムすぐ下流では2007年(平成19年)に最大出力120万キロワットの揚水式発電を行う九州電力小丸川発電所が完成しました。
地下の発電所から戸崎発電所に隣接して建設されたひむか変電所に通じる電気ケーブルが戸崎ダム直上をトラス橋で跨ぐことになり独特の景観を作り出しています。
小丸川発電所概要図(九州電力HPより)
 
全面越流式ダムで、対岸に発電所への取水口があります。

 
ダム左岸から伸びるコンクリート構造物がトラス橋で対岸へと渡ります。
てっきり職員用の管理通路かと思っていましたが、調べると小丸川発電所からひむか変電所へ通じる電気ケーブルでした。


 
取水口をズームアップ。
2門の取水ゲートはキャタピラゲート。

 
電気ケーブルのトラス橋直上にはアーチ橋の戸崎橋が架かっており、土木好きにはたまらない構図となっています。

 
アーチの戸崎僑
左岸に県道バイパスができたため、利用者は少なくなっています。

 
トラス橋越しに見た堤体上流面。

 
貯水池はほぼ満水。
左岸の様子を見るにかなり堆砂が進んでいるようです。

 
取水口と堰堤右岸のピア。
また堰堤右岸にはゲートピアが残りますがゲートはありません。
もとはゲート装備だったのが撤去され全面越流式になったようです。

 
(追記)
戸崎ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。

2813 戸崎ダム(1707)
宮崎県児湯郡木城町石河内
小丸川水系小丸川
25メートル
115メートル
544千㎥/408千㎥
九州電力(株)
1943年
◎治水協定が締結されたダム

石河内ダム

2021-10-22 23:45:04 | 宮崎県
2021年10月16日 石河内ダム
 
石河内(いしかわうち)ダムは宮崎県児湯郡木城町石河内の一級河川小丸川本流にある九州電力(株)が管理する重力式コンクリートダムです。
オイルショックに加え家電の普及に伴う電力消費の昼夜間格差の拡大を受け、電力各社は火力や原子力との連携が図れ余剰電力を有効利用できる揚水発電に着目します。 
九州電力も1980年代より積極的に純揚水発電所建設を進め、同電力3番目の純揚水発電所として2007年(平成19年)に小丸川発電所が完成しました。
石河内ダムは同発電所の下部調整池として同年竣工し、上部調整池である大瀬内ダム・かなすみダムとの有効落差646.2メートルを利用して水力発電では九州最大出力となる120万キロワットの純揚水式発電を行っています。 
また河川維持放流を利用した尾鈴発電所(最大出力350キロワット)で小水力発電も行っています。
 
小丸川ダム発電所概要図(九州電力HPより)
 
残念ながら石河内ダムを明確に展望できるポイントはありません。
小丸川沿いを走る県道22号東郷西都線のなかおづるトンネルと鈴音トンネルの間からダムが垣間見えます。
フェンス越しの撮影となったため写真には黒い筋が入ってしまいました。
 
ズームアップ
日本最大の油圧式ラジアルゲート4門を擁しており、ピアや巻き上げ機のないすっきりとした堤頂部。
 
石河内ダムからさらに上流へ向かうと、小丸川発電所入り口に到着します。
この奥に発電所へ通じるトンネルありますが、もちろん立ち入りはできません。
九電のPR館で見学の予約を受け付けていますが、残念ながら対象は団体のみ。
 
発電所正門前には発電所建設工事で使われたボーリングマシンのカッターヘッドが展示されています。
 
カッターヘッドの説明版。
 
(追記)
石河内ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。 

3302 石河内ダム(1706)
宮崎県児湯郡木城町石河内
小丸川水系小丸川
47.5メートル
185メートル
6900千㎥/5600千㎥
九州電力(株)
2007年
◎治水協定を締結したダム

大瀬内ダム

2021-10-22 22:01:17 | 宮崎県
2021年10月16日 大瀬内ダム
 
大瀬内ダムは宮崎県児湯郡木城町石河内の小丸川水系大瀬内谷川源流部にある九州電力(株)が管理するアスファルトフェイシングフィルダムです。
オイルショックに加え家電の普及に伴う電力消費の昼夜間格差の拡大を受け、電力各社は火力や原子力との連携が図れ余剰電力を有効利用できる揚水発電に着目します。。
九州電力も1980年代より積極的に純揚水発電所建設を進め、同電力3番目の純揚水発電所として2007年(平成19年)に小丸川発電所が完成しました。
大瀬内ダムは副ダムのかなすみダムとともに同発電所の上部調整池として同年竣工し、下部調整池である石河内ダムとの有効落差646.2メートルを利用して最大120万キロワットの揚水式発電を行っています。 
大瀬内ダムは大瀬内谷川源流部、標高800メートル地点にあり透水性の高い地質から上流面のみならず貯水池全般に渡ってアスファルトフェイシングによる遮水処理が施されています。
また西側鞍部に副ダムであるかなすみダムがあります。
 
小丸川発電所概要図(九州電力HPより)
 
九州電力のPR施設であるピノッQ館から大瀬内谷川に沿った山道を西北西に約8キロ走ると大瀬内ダム展望台に到着します。
この先、ダムへ通じるトンネル入り口から先は立ち入り禁止のためここから遠望するのみ。
ここから見る限りは普通のロックフィルダムですが、背後には全面アスファルトフェイシングフィルの貯水池が隠れています。
 
完成から約15年たちますがリップラップには草木一本見えません。
 
左岸に洪水吐と管理棟があり斜水路が一直線に伸びています。
 
展望台の案内板。
発電施設ということでガードが堅いのは止むをえませんが、トンネルの先、せめてダムサイトまで見せていただければなあ…。
 
(追記)
大瀬内ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。 

3300 大瀬内ダム(1705)
宮崎県児湯郡木城町石河内
小丸川水系大瀬内谷川
FA
65.5メートル
166メートル
6200千㎥/5600千㎥
九州電力(株)
2007年
◎治水協定を締結したダム

川原ダム

2021-10-22 20:53:57 | 宮崎県
2021年10月16日 川原ダム
 
川原(かわばる)ダムは宮崎県児湯郡木城町石河内の一級河川小丸川本流中流部にある九州電力(株)が管理する発電目的の重力式コンクリートダムです。
宮崎県は主要河川がいずれも包蔵水力豊富なため、戦前から各河川で活発な電源開発が進められてきました。
小丸川水系では1938年(昭和13年)に県による小丸川河水統制事業が着手され宮崎県電気部(現宮崎県企業局)による電源開発が進められました。
川原ダムおよび川原発電所は同事業初の発電施設として1940年(昭和15年)に完成、当初はダムのある地名から浜口ダムと呼ばれていました。
しかし翌1941年(昭和16年)にダムおよび発電所は日本発送電に接収され、1951年(昭和26年)の電気事業再編成により九州電力が事業継承しました。
ここで取水された水は約5.7キロの導水路で川原発電所に送られ最大2万1600キロワットのダム水路式発電が行われています。
また2011年(平成23年)には河川維持放流を利用した川原ダム維持放流発電所(最大出力150キロワットの小水力発電)が稼働しました。
 
小丸川沿いの県道26号線から川原ダムが遠望できます。
堤高23.6メートル、堤頂長150メートルの全頂長自由越流頂型式のダムです。

 
ズームアップ。

 
左岸から河川維持放流が行われています。
2011年(平成23年)に維持放流を利用した小水力発電所が増設されました。

 
左右両岸の作りは、まだ導流壁のない昭和10年代のダムの特徴を見せています。
減勢部も戦前らしいコンクリートの叩き。

 
こちらは2011年(平成23年)に完成した川原維持放流発電所の水利使用標識。

 
こちらは川原発電所の水利使用標識。

 
川原発電所向け取水口は2か所ありこちらは下流側の第二取水口
手前が沈砂池、奥にスクリーンがあります。


こちらは上流側にある第一取水口
奥が除塵機とスクリーン、手前は取水ゲートになります。

アングルを変えて。

 
貯水池は総貯水容量322万立米、堆砂が進み有効貯水容量は120万立米。

 
左岸の2か所の取水口をズームアップ
手前が第一取水口、奥が第二取水口になります。

 
(追記)
川原ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。

2809 川原ダム(1704)
宮崎県児湯郡木城町石河内
小丸川水系小丸川
23.6メートル
150メートル
3220千㎥/1200千㎥
九州電力(株)
1939年
◎治水協定が締結されたダム

切原ダム

2021-10-22 14:39:35 | 宮崎県
2021年10月16日 切原ダム
 
切原(きりばる)ダムは宮崎県児湯郡川南町川南の小丸川水系切原川にある灌漑目的の重力式コンクリートダムです。
尾鈴地区は洪積台地上に農地が展開されていますが、水源を小河川に依存しており安定した水源確保と灌漑設備の整備が求められていました。
1996年(平成8年)に農水省による国営かんがい排水事業尾鈴地区が着手されその灌漑用水源として2012年(平成24年)に完成したのが切原ダムです。
事業全体も翌2015年(平成27年)に完了し、既設の青鹿ダムと併せて約1600ヘクタールの畑地への灌漑設備が整備され尾鈴地区は県内有数の畑作地帯となっています。
ダムの管理は管理は尾鈴土地改良区連合が受託しています。
 
ダム下から
クレスト自由越流頂5門に漸縮型堤体導流壁といういかにも農水省のダムと言った体。
比較的新しいダムのため堤体の汚れも少なく、青空によく映えます。

 
左岸の管理事務所へ向かう道路から
ダムの全容が見えそうで見えない。

下流面。


水利使用標識
受益農地はすべて畑地・樹園地のため、年間を通して水利権が配分されています。

 
公共事業全体への風当たりが強い時代のダムらしく天端に余計な装飾はありません。

 
天端から
減勢工はエンドシルが1基
赤い屋根の建屋は放流設備、その右手は調圧水槽。
灌漑用水はすべて専用パイプラインを通じて供給されます。

アングルを変えて
現在河川維持放流を利用した小水力発電所が計画されています。

 
総貯水容量は204万立米
年間を通じて水利権が配分されているため10月でもほぼ満水。
切原川のほか右支流の頭首工から集水しています。


天端は徒歩のみ開放。
取水設備は半円形、対岸に立派な管理事務所があり日中は土地改良区の職員さんが常駐しています。


堤高61.3メートルと農業用ダムとしてはなかなかの高さ。
内側に傾斜した漸縮型導流壁がいい感じ。


上流面
取水設備と管理事務所を並べてみました。

 
(追記)
切原ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。

3067 切原ダム(1703)
宮崎県児湯郡川南町川南
小丸川水系切原川
61.3メートル
227メートル
2040千㎥/1900千㎥
尾鈴土地改良区連合
2012年
◎治水協定が締結されたダム

青鹿ダム(青鹿溜池)

2021-10-22 06:19:14 | 宮崎県
2021年10月16日 青鹿ダム
 
青鹿(せいろく)ダムは宮崎県児湯郡川南町川南の平田川水系平田川源流部にある灌漑目的のアースフィルダムです。
尾鈴山系東山麓地帯での農地開発を進めるため、1940年(昭和14年)に農林省(現農水省)による国営高鍋川南開拓事業・開墾事業が着手され、青鹿ダムはその灌漑用水源として1959年(昭和34年)に竣工しました。
同事業により約1800ヘクタールの田畑が開拓され当地区は宮崎県屈指の農業地帯となりますが、一方で畑地向けの用水不足や灌漑設備が未熟なことから1996年(平成8年)にあらたに国営かんがい排水事業尾鈴地区が着手されました。
同事業により青鹿ダムでも大規模な改修が行われるとともに、利水放流を利用した小水力発電所(最大47キロワット)が増設されました。
管理は尾鈴土地改良区連合が受託し、2012年(平成24年)に竣工した切原ダムと併せて約1600ヘクタールの田畑への灌漑設備が整備されました。 
なおダム便覧には『青鹿溜池』と記載されていますが、農水省や土地改良区のHPでは青池ダムと記され、また宮崎県のため池データベースにも掲載されていないことから当ブログでは『青鹿ダム』と記すことにします。
 
ダム下の放流設備
2016年(平成28年)の国営かんがい排水事業で刷新されました。
左手が放流設備、右手の鉄管部分が小水力発電所になります。

 
下流から
右下の建屋は調圧水槽と電気室。

堤体と正対
堤高31.3メートル、堤頂長140メートル
基部は石積みの擁壁で犬走を挟んで三段構成。
堤体上の黒い筋の正体がよくわかりません。

 
調圧水槽と電気室。
こちらも2016年(平成28年)の改修で刷新されました。

 
右岸から下流面。

天端。

水利使用標識
受益農地は過半は畑地のため年間を通じて水利権が配分されています。

天端からダム下を望む。

 
総貯水容量は94万立米
ダム湖沿いの道は九州自然歩道になっておりダム湖対岸の森には青鹿自然公園キャンプ場があります。

 
左岸の斜樋。
こちらも2016年(平成28年)の改修で刷新されたものです。

 
左岸の横越流式洪水吐。
満水で薄く越流しています。

 
アングルを変えて
擁壁のコケがいい味を出しています。

 
洪水吐越しの上流面。


2821 青鹿ダム(青鹿溜池)(1702)
宮崎県児湯郡川南町川南
平田川水系平田川
31.3メートル
140メートル
940千㎥/840千㎥
尾鈴土地改良区連合
1959年

高鍋防災ダム

2021-10-21 23:08:34 | 宮崎県
2021年10月16日 高鍋防災ダム
 
高鍋防災ダムは宮崎県児湯郡高鍋町上江の小丸川水系宮田川にある農地防災目的のアースフィルダムです。
小丸川水系では台風や豪雨による洪水被害が多発し流域の農地に多大な被害をもたらしてきました。
そこで宮崎県は農林省(現農水省)の補助を受けた防災ダム事業高鍋地区に着手、1968年(昭和43年)に高鍋防災ダムは竣工しました。
ダム便覧ではダムの目的は『FA(防災・灌漑)』となっていますが、現地で確認したところ灌漑容量の配分はなく、普段は流入量をそのまま放流する流水型防災専用ダムとなっています。
当ダムでは、建設の際に堤体の盛り立て用の土砂採取によりできた窪地に湧水が溜まり人工的な湿原が出現しました。
これが高鍋湿原で、希少なハッチョウトンボやサギソウなどが見られる九州を代表する低層湿原となっています。
 
高鍋湿原は遊歩道が整備され、豊かな植生物が見られる3月から10月にかけて一般に公開されています。しかし今回は午前9時から開園前の訪問となり湿原の見学はできませんでした。
天端は車道で右手が下流面
対岸(左岸)に湿原が広がります。

 
天端を走る車道
貯水池に水がないこともあり、ここを走るドライバーの多くはこれがダムだと気づかないかも? 
 
右岸の越流式洪水吐
珍しいY字型の洪水吐です。
 
アングルを変えて。
 
超広角で。
 
洪水吐導流部。
 
ちょっとわかりづらいですがこれが貯水池。
洪水時には約100万立米を貯留します。
 
左岸から見た天端と下流面。
 
ダムと湿原の案内板。
 
奥が湿原になりますが開園は午前9時から。
7時半ごろに到着したので中の見学はあきらめました。
 
いわゆる流水型防災ダムですが、中に入れなかったため事務所裏手にある放流管を確認できませんでした。

2832 高鍋防災ダム(1701)
宮崎県児湯郡高鍋町上江
小丸川水系宮田川
25.5メートル
179.1メートル
1194千㎥/996千㎥
高鍋町
1968年

一ツ瀬ダム

2021-10-21 14:10:18 | 宮崎県
2021年10月15日 一ツ瀬ダム
 
一ツ瀬ダムは宮崎県西都市の二級河川一ツ瀬川本流上流部にある九州電力(株)が管理する発電目的のアーチ式コンクリートダムです。
1951年(昭和26年)の電気事業再編令で誕生した九州電力は戦後の電力不足に対応するため各所で積極的な電源開発を進めます。
宮崎県では戦前より電源開発が進められていた耳川水系上流部に1955年(昭和30年)に日本初の本格的アーチダムとして上椎葉ダムを建設、この実績を活かし1963年(昭和38年)に包蔵電力豊富な一ツ瀬川に建設したのが一ツ瀬ダムです。
一ツ瀬ダムは堤高アーチダム7位、堤頂長同3位、総貯水容量はアーチダムでは2位、全ダムでも10位の2億6131万5000立米と我が国アーチダム屈指のスケールを誇り、日本ダム協会により日本100ダムに選ばれています。
ここで取水された水は一ツ瀬発電所に導水され最大18万キロワットのダム水路式発電を行いますが、これも一般水力としては全国10位の発電能力となっています。
さらに2013年(平成25年)には河川維持放流を利用した一ツ瀬維持放流発電所(最大330キロワット)が稼働しました。
また、1985年(昭和60年)に竣工した国営一ツ瀬川かんがい排水事業により一ツ瀬ダムは事実上約3500ヘクタールの田畑の水源としての役割も担っています。
 
一方当ダム完成後、一ツ瀬川では豪雨等による濁水がダム湖に滞留し下流の利水や河川環境への悪影響が顕在化します。
これに対し九州電力は一ツ瀬ダムの運用の変更や非常用放流設備の改造、下流の杉安ダムでは底部放流設備の設置等により対応を図っていますが抜本的な解決には至っていません。
 
一ツ瀬ダムは従来下流からの展望ポイントがないとされていましたが、国道バイパスの完成によりダムと正対できるようになりました。
堤高130メートル、堤頂長415.9メートルの巨大アーチは圧巻そのもの
左右両岸および中央部にクレストゲート各2門、計6門を配し、上椎葉ダム同様左右両岸にジャンプ台式洪水吐を備えています。
天端に巻き上げ機やピアがないので堤頂部は一直線、そして完璧なシンメトリー
ダム便覧には日本一美しいアーチという記述もあります。

 
中央のラジアルゲートをズームアップ。

 
右岸のジャンプ台式洪水吐。

 
洪水吐をズームアップ。

 
ダムサイトにある宮崎交通の『一ツ瀬ダム』バス停。

水利使用標識が2枚
こちらは一ツ瀬発電所向け最大出力18万キロワットを誇るため、取水量も毎秒137立米と絶大。


こちらは2013年(平成25年)に稼働した小水力発電所の水利使用標識。


左岸から
広角レンズでは収まりきらないので超広角で撮影。
構造物がなくすっきりした天端、そこから突き出たまるでロボットの2本の腕のような洪水吐斜水路が特徴的。

もう1枚。


残念ながら天端は立ち入り禁止。
スケールでは一ツ瀬に大きく劣る上椎葉ダムの人気・知名度が高いのはダムが広く開放されていることが大きいんでしょう。
一方ダム湖の米良湖は日本第10位の貯水容量を誇り、ダムから上流22キロ地点まで貯水池が続きます。
上記のように発電のみならず下流域約3500ヘクタールの灌漑用水の事実上の水源にもなっています。

 
後付けのコンジットゲート
この位置に設置したことで濁水対策として活用できます。

 
一ツ瀬ダムのもう一つの目玉は右岸下流側のこの巨大なコンクリート工
右岸ジャンプ台式洪水吐の水叩きで1982年(昭和57年)に施工されました。

 
いかにもドーム型アーチと言った風の上流面。

 
さらに上流から
左右中央の6基のゲートを一望します。

 
右岸の発電用取水設備。
発電用ダムとしては珍しい選択取水設備で、農繁期には表層取水を行うほか、濁水対策として濁水の状況に合わせて清水を取水できるようになっています。
同様の取水設備は同じく濁水に悩む徳島県の長安口ダムでも採用されています。

正面から。


こちらはダムから水を送る一ツ瀬発電所
一般水力としては日本第10位の18万キロワットの発電能力を誇ります。


なお一ツ瀬ダムが通算1700基目のマイルストーンとなりました。
1600基目が昨年11月23日の山口県の深坂ダムですので、100基積み上げるのに約11か月かかりました。
2000ダムへの道はまだまだ遠い。

2829 一ツ瀬ダム(1700)
左岸 宮崎県西都市中尾
右岸     同市片内
一ツ瀬川水系一ツ瀬川
130メートル
415.9メートル
261315千㎥/155500千㎥
九州電力(株)
1963年

杉安ダム

2021-10-21 06:44:38 | 宮崎県
2021年10月15日 杉安ダム
 
杉安ダムは左岸が宮崎県西都市南方、右岸が同市方内の二級河川一ツ瀬川中流部にある九州電力(株)が管理する発電目的のアーチ式コンクリートダムです。
1951年(昭和26年)の電気事業再編で誕生した九州電力は戦後の電力不足に対処するため各所で電源開発を進めます。
一ツ瀬川では1959年(昭和34年)より九州最大規模となる一ツ瀬ダム・発電所の建設に着手し、併せて一ツ瀬発電所の逆調整池として1963年(昭和38年)に杉安ダムが竣工しました。
杉安ダムは一ツ瀬発電所の出力調整による水位変動を緩和するとともに杉安発電所(最大出力1万1500キロワット)でダム水路式発電を行います。
さらに1985年(昭和60年)に竣工した国営一ツ瀬川かんがい排水事業により杉安ダム貯水池には一ツ瀬川土地改良区杉安取水口が設けられ約3500ヘクタールの農地への灌漑用水がここで取水されます。
 
一方で一ツ瀬ダム完成以降豪雨等による濁水がダム湖に長期間滞留し下流の利水や河川環境への悪影響が顕在化します。
これに対し九州電力は一ツ瀬ダムの運用の変更や非常用放流設備の改造、当ダムでの底部放流設備の設置等により対応を図っていますが抜本的な解決には至っていません。
 
西都市中心街から一ツ瀬川沿いの国道219号線を北上すると、左手に杉安ダムが姿を現します。
堤高39.5メートル、堤頂長156メートルの小ぶりなアーチダムです。
クレストにはラジアルゲート7門を装備していますが、建屋の陰になり5門しか見えません。
 
訪問時は河川維持放流として右岸ゲートから放流中。
 
ゲートをズームアップ。
アームの傾斜がきつくゲートがそっくり返っているようです。
手前にはきれいな虹が見えます。
 
左岸ダム下流にあるこの設備は、濁水対策として新設された底部放流設備放流口。
 
ダムサイトの宮崎交通『杉安ダム』バス停。
 
ダム上流左岸には二つのゲートが並びます。
こちらは濁水対策として新設された底部放流設備取水ゲート。
貯水池の環境整備のため、貯水池低部の濁水の放流や排砂を行います。
 
こちらは杉安発電所への取水ゲート。
 
ダム上流面。
 
さらに上流から
総貯水容量は876万5000立米
一方有効貯水容量は堆砂が進み224万7000立米に留まり堆砂率は74%。
 
上流から遠望
左手が発電用取水口、右手が底部放流設備。
 
2828 杉安ダム(1699)
左岸 宮崎県西都市南方
右岸     同市方内
一ツ瀬川水系一ツ瀬川
39.5メートル
150.6メートル
8765千㎥/2247千㎥
九州電力(株)
1962年

長谷ダム

2021-10-20 22:29:47 | 宮崎県
2021年10月15日 長谷ダム
 
長谷(はせ)ダムは宮崎県西都市三納の一ツ瀬川水系三納川にある宮崎県県土整備部が管理する治水目的の重力式コンクリートダムです。
建設省(現国交省)の補助を受けて建設された補助治水ダムで、三納川の洪水調節、安定した河川流量の維持と不特定灌漑用水(既得灌漑用水)への補給を目的として1981年(昭和56年)に竣工しました。
 
下流からダムへ至る道路沿いは杉林が続き、ダムを下流から見ることはできません。
左岸から。

概要説明板
石板です。

 
管理所前では猫ちゃんがお出迎え。
不心得者がここに捨てた猫を管理人さんが世話しています。
捨てられたショックでまだ人間不信のようで一定以上の距離を詰めません。


非常用洪水吐としてクレスト自由越流頂2門、常用洪水吐としてオリフィスラジアルゲート1門を装備
グリーンのゲートはオリフィスの予備ゲート。

 
天端上流側にある低水放流設備操作バルブ。

 
洪水吐導流部と減勢工
オリフィスから越流中
左に屈曲した減勢工の先に副ダムがあります。

 
ダム湖は総貯水容量225万立米
見た目は溜池程度ですが奥に長く続いています。

 
天端と管理道路を跨ぐ管理事務所。
宮崎県営ダムでは民間人にダムの管理を委託しており、当ダムでも管理人さんがここに住み込んでいます。

天端高欄
簡易ですが意匠が施されています。

 
洪水吐導流部脇の低水放流設備。

 
オリフィス予備ゲート。
奥は低水放流設備取水口。

 
右岸上流面のインクライン。


2837 長谷ダム(1698)
宮崎県西都市三納
一ツ瀬川水系三納川
FN
65メートル
143メートル
2250千㎥/1650千㎥
宮崎県県土整備部
1981年

立花ダム

2021-10-20 18:26:58 | 宮崎県
2021年10月15日 立花ダム
 
立花ダムは宮崎県西都市寒川の一ツ瀬川水系三財川(上流部は蛇籠川)上流部にある宮崎県県土整備部が管理する多目的重力式コンクリートダムです。
建設省(現国交省)の補助を受けて建設された補助多目的ダムで、三財川の洪水調節、安定した河川流量の維持と不特定灌漑用水への補給、宮崎県企業局立花発電所(最大出力1万3400キロワット)でのダム水路式水力発電を目的として1963年(昭和38年)に竣工しました。
 
ダムへ通じる蛇籠川沿いの道は舗装はされているものの離合困難な隘路が続くうえに、に至る所に尖った石が落ちておりパンクに気を使う難路です。
ダムの手前1キロほどで樹間からラジアルゲートが遠望できます。
残念ながら樹林が茂り、ダムを下流から望めるのはここだけ。
 
ダムサイトでは「たむ」君がお出迎え
宮崎県営ダムは民間人にダム管理を委託しており、管理人さんはダムに住み込みで管理をしています。
たむ君は管理人さんが飼育しているワンちゃんです。
 
立花ダム建設事業では殉職者ゼロを達成しました。
ダムサイトにはダム建設事業概要銘板と無死亡記念碑が建っています。
 
立花ダムは天端への立ち入りは禁止されていますが、今回は管理人さんのご厚意で中を見せていただくことができました。
堤体は右岸が屈曲。
 
左手は水位計建屋、右手はゲートピア。
 
洪水吐導流部と減勢工 
非常用洪水吐としてクレストラジアルゲート2門、常用洪水吐としてコンジット高圧ラジアルゲート1門を装備。 
減勢工には2基の副ダムがあります。 

貯水池のたちばな湖は総貯水容量1000万立米。 

天端から
急峻な崖に張り付くように管理事務所があります。
管理事務所からは屋根がついた巡視用階段がダム下に伸びています。
 
ゲートピア。
 
右岸の立花発電所への取水ゲート
約1.3キロの導水路で立花発電所に送水し最大1万3400キロワットの発電を行います。
 
左岸から
襟の高い堤頂部
霧が多いのか?堤体には苔。
 
上流面。
 
宮崎県はどの川も谷が深く、特に難路の先にある立花ダムはまさに秘境のダム。
今回は管理人さんのご厚意で天端を見学でき感謝の言葉以外の何物もありません。

2830 立花ダム(1697)
宮崎県西都市寒川
一ツ瀬川水系三財川
FNP
71.3メートル
193.5メートル
10000千㎥/8480千㎥
宮崎県県土整備部
1963年

寒川ダム

2021-10-20 10:56:25 | 宮崎県
2021年10月15日 寒川ダム
 
寒川(さぶかわ)ダムは宮崎県西都市寒川の一ツ瀬川水系三財川上流部にある宮崎県企業局が管理する発電目的の重力式コンクリートダムです。
1951年(昭和26年)の電気事業再編により、新たに九州電力が誕生します。
同社は戦後の電力不足を補うために積極的な電源開発を進めますが、包蔵水力豊富な河川が集まる宮崎県では同社だけでは開発の手が足りず公営発電である県企業局による電源開発が併せて進められました。
一ツ瀬川右支流の三財川では建設省(現国交省)の補助を受けた県の三財川総合開発事業に県企業局が発電業者として参加し、1963年(昭和38年)に三財発電所の取水ダムとして建設されたのが寒川ダムです。
ここで取水された水は三財発電所(最大出力8800キロワット)に送られダム水路式発電を行います。
同年には補助多目的ダムである立花ダムおよび立花発電所も完成し、県企業局の三財川での発電能力は最大2万2200キロワットとなりました。
 
 三財川に沿って県道319号線を遡上すると左手に三財発電所が姿を現します。
 
発電所からさらに約5キロ、川沿いの隘路を進むとと寒川ダムに到着します。
発電施設ということでダムの敷地は立ち入り禁止。
 
残念ながら下流側からラジアルゲートを見ることはできません。
霧が多いのか?堤体のみならず扶壁や高欄も苔。
 
堤高は33.5メートル、堤頂長63.2メートルで狭い峡谷を閉め切っています。
洪水吐導流部末端にシュートブロックが見えます。
 
こちらは管理事務所
右岸の道路に沿ってしがみつくように建っています。
 
右岸から上流面 
対岸に三財発電所への取水ゲートが見えます。 
取水口は水中。 

ちょっとズームアップ
 
さらに上流から
ここで初めてラジアルゲートが見えました。
貯水池は総貯水容量71万6000立米、有効貯水容量37万2000立米で堆砂率は5割強。
 
ゲートをズームアップ。

2831 寒川ダム(1696)
宮崎県西都市寒川
一ツ瀬川水系三財川
33.5メートル
63.2メートル
716千㎥/372千㎥
宮崎県企業局
1963年

籾木溜池

2021-10-20 00:46:34 | 宮崎県
2021年10月15日 籾木溜池
 
籾木溜池は宮崎県東諸県郡国富町八代南俣にある灌漑目的のアースフィルダムです。
当地は元は山林原野でしたが、明治以降開拓が進み1914年(大正13年)に受益者で組織された水利組合の事業により籾木溜池が建設されました。
その後数度の改修があり、直近では1992年(平成4年)の県営土地改良総合整備事業を経て現在に至っています。
管理は水利組合を改組した薩摩原土地改良区が行っています。
 
池はアジサイの名所やヘラブナ釣りスポットとして知られており訪問時も多くの釣り師が糸を垂れていました。
下流から遠望
堤体は堤高23.6メートル、堤頂長129メートルで犬走を挟んで3段構成。
下流面はきれいに草が刈られています。
 
天端は狭い車道
上流面にアジサイが植えられています。
 
国富町と土地改良区による説明版。
 
左岸の斜樋。
 
天端に建つ改修記念碑と由来碑。
 
碑の隣には改修によって交換された樋管が展示されています。
 
ダム下の様子。
ダム下への道は荒れていたので自重しました。
左岸ダム下に底樋管があります。
 
総貯水容量16万7000立米
西日本の溜池としては標準サイズでしょうか?
 
右岸から下流面。
 
上流面
アジサイの植栽の横に道が伸びます。
写真ではわかりませんが、上流面下部はコンクリートで護岸。
 
斜樋を遠望。
 
ところでこの池、どこを探しても洪水吐が見当たりませんでした。

2803 籾木溜池 (1695)
宮崎県東諸県郡国富町八代南俣
大淀川水系田野川右支流
23.6メートル
129メートル
167千㎥/167千㎥
薩摩原土地改良区
1914年