2023年5月20日 水呑ダム
水呑ダムは福岡県筑紫野市平等寺の筑後川水系山中川にある筑紫野市環境経済部が管理する上水道用水目的の重力式コンクリートダムです。
1955年(昭和30年)に5町村の合併により誕生した筑紫野町は直後より町営水道事業に着手し、1958年(昭和33年)に上水用水源として建設されたのが水呑ダムです。
その後、筑紫野町は利便の良さから福岡のベッドタウンとして人口が急増、1972年(昭和47年)には市制を施行し筑紫野市となります。
町の発展に伴い水需要も急増し、1979年(昭和54年)に水呑ダム下流約1キロ地点に福岡県営の山神ダムが竣工しました。
水呑ダムはダム便覧には掲載されていますが、経緯度は記載されておらず位置未確認扱い、またフォトアーカイブスへの写真提供もありません。
今回は山神ダム左岸ダムサイトから、車両進入禁止の林道を約1.6キロ歩いて水呑ダムに到達しました。
山神ダムから歩くこと20分弱で水呑ダムに到着です。
ダム直下には杉が伸び撮影の邪魔になる一方、寂れた雰囲気に趣を加えています。
堤高17.8メートル、堤頂長62.2メートルの小ぶりなコンクリートダム
放流設備は自治体管理の上水ダムらしくクレスト自由越流頂3門だけ
まるで馬ヶ城ダムのような美しい転波が見られます。
木が茂り撮影するスペースがないのが難ですが、美しい越流に見入るばかり。
薄暗くシャッタースピードが中途半端になってしまいました。
ダム下にプールがあります。
水呑ダム建設時に下流の既得灌漑用水向けに作られましたが、山神ダムに不特定灌漑用水容量が配分されたことで、現在は使われていません。
ダム下の記念碑
銘は『筑紫野町平等寺上水ダム』。
裏には当時の山口川水利組合との灌漑用水補償についての契約大要が刻されています。
こちらは天端に通じる階段
かつては立ち禁表記がありましたが、今はフリー。
天端高欄の『水呑ダム』のプレート
ビンテージ感溢れるダムですが、これは漫画チック。
昭和らしい5角形のバルブ操作室。
越流部は一段高くなっています。
上から見ても美しい越流です。
堤体から木が伸びていますが、これはご愛敬。
総貯水容量8万5000立米の小さな貯水池。
山神ダム完成後も増加の一途をたどる上水需要に対応するため、新たに平等寺ダムや山神ダム再開発事業が検討されましたが、バブル終焉による社会情勢の変化もありいずれも中止。
もし両事業が着手されていれば、水呑ダムはダム湖に沈む運命にありました。
命拾いした水呑ダムは主役の座こそ山神ダムに譲りましたが、未だ老兵死なずの意気が感じられる堰堤です。
3695 水呑ダム(1990)
福岡県筑紫野市平等寺
筑後川水系山中川
W
G
17.8メートル
62.2メートル
85千㎥/85千㎥
筑紫野市環境経済部
1958年
超える水・・ロマンチックな響きに感じられるのは、まっちさんの感想通り「美しさ」故でしょうね。
個人的には「5角形のバルブ操作室」の画像が、まるで物語のワンシーンみたいで好きです。
緑の湖面に映る木々の色・・本当に美しい。
戦後の自虐史観では暗黒の時代とされた戦時中でさえ、ダムをはじめとした土木建築物には相応の芸術性が加味されていました。
美しい越流は「結果」ですけど、tibineko様が気に入られた5角形の建屋をはじめ、バブル以前のダムにはどこかしこに「芸術」が潜んでいました。
でも最近のダムはどこも似たり寄ったりの「大量生産品」。
何世紀かのちに平成後期から令和は建築的には文化財が生み出されることのない無機質な時代と評されるかもしれません。