ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

稲葉ダム

2023-01-05 17:32:52 | 大分県
2022年11月18日 稲葉ダム 
 
稲葉ダムは左岸が大分県竹田市久住町白丹、右岸が同市刈小野の一級河川大野川水系稲葉川にある大分県土木建築部が管理する治水目的の重力式コンクリートダムです。
竹田盆地は三方をくじゅう山系、阿蘇外輪山、祖母傾山系に囲まれ竹田市街を軸に大野川から稲場川と玉来川が分岐しています。
このため豪雨のたびに洪水を繰り返し、とりわけ1982年(昭和57年)7月および1990年(平成2年)7月の二度の豪雨災害では長期にわたる都市機能の喪失を伴う甚大な被害が発生しました。
これを受け1991年(平成3年)に大分県は『竹田水害緊急治水ダム建設事業』を採択、稲葉川および玉来川への治水ダムの建設に着手しました。
ちなみに緊急ダム事業は長崎大水害を受けて着手された『長崎水害緊急ダム事業』に次いで全国2例目です。
稲葉ダムは2003年(平成15年)に本体工事が着工されますが、ダム建設地点は阿蘇火砕流による火山堆積物で形成され透水性が高く地盤強度にも問題がありました。
そこで提体両岸の軟弱地盤対策として造成アバットメントを採用、また貯水池内の漏水対策として全面的な表面遮水処理を施すなど問題点を克服し、2010年(平成22年)に竣工しました。
稲葉ダムは国交省の補助を受けた補助治水ダムで、洪水時にはダムで毎秒290立米をカットすることで下流の基準地点で毎秒280立米の洪水調節を行い竹田市街を洪水から守ります。
また、安定した河川流量の維持と既得灌漑用水への補給のための不特定利水容量も配分されています。
その後2021年(令和3年)に河川維持放流を利用した稲葉発電所が完成、九州電力のグループ企業である西技工業(株)の運用により最大出力420キロワットの小水力発電が稼働しました。 
さらに、2022年(令和4年)の玉来ダム完成により『竹田水害緊急治水ダム建設事業』も竣工し、竹田市街の治水機能は大幅に向上しました。  

ダム下は左右両岸共に立ち入り可能で、左岸側は公園になっています。
非常用洪水吐としてクレスト自由越流頂3門、常用洪水吐として自然調節式オリフィス2門を備えています。
右岸(写真向って左手)に維持放流ゲートがありますが、小水力発電所の完成により発電所休止時のみの使用となります。
オリフィスは2門ともに同じ高さのはずですが越流は右岸のみ
高さが違っちゃったんですね。補助ダムとしてはちょっと恥ずかしいかも…。


一般にデフレクターは三角が多いのですが、ここは縦長の四角
なんとなくテングザルの鼻っぽい。


右岸ダム下からは既得灌漑用水である井路が流れています。
奥のトンネルは仮排水路。


2021年(令和3年)に稼働した西枝工業稲葉発電所
奥に水圧鉄管が見えます。


左岸側の造成アバットメント。
堤体接続部に軟弱地盤があるため、コンクリートで人工岩盤を作り地盤の安定を図っています。


造成アバットメントの側面。


左岸ダムサイトから
堤高55メートル、堤頂長233.5メートルの横長堤体
左岸は公園になっており、ダムサイトから歩いて下りられます。


上流面
対岸にも造成アバットメントがあります。


天端から
右岸手前の建屋は従来の放流設備、奥は発電所。


貯水池は総貯水容量727万立米
堆砂容量および不特定利水容量計163万立米だけ貯留し、これで常時満水位。
貯水池は漏水対策として全面コンクリートなどで表面遮水処理されています。


天端は車両通行可能
左手が管理事務所で、一階は資料室として開放されています。


上流から
左岸造成アバットメントに繋留設備があります。


同様の地質に農水省の事業で建設された大蘇ダムは、地盤の亀裂や漏水などで30年を超える長期事業となりましたが、対照的に稲葉ダムは万全の準備と新工法の採用により諸問題を見事に克服しました。

(追記)
稲葉ダムには洪水調節容量が配分されていますが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が配分されました。

2917 稲葉ダム(1934)
左岸 大分県竹田市久住町白丹
右岸     同市刈小野
大野川水系稲葉川
FN
55メートル
233.5メートル
7270千㎥/6190千㎥
大分県土木建築部
2010年
◎治水協定が締結されたダム


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