ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

新宮川ダム

2024-06-13 08:00:00 | 福島県
2016年5月29日 新宮川ダム
2024年4月13日
     4月26日
 
新宮川ダムは福島県大沼郡会津美里町松坂の一級河川阿賀野川水系宮川にある灌漑目的の重力式コンクリートダムです。
会津宮川地区は会津盆地南西部の会津美里町から会津坂下町に至る宮川流域に位置し、江戸期より本格的な新田開発が進められ寒暖差の大きな気候を生かし良質な米の産地として知られてきました。
しかし主要水源となる宮川は灌漑期の渇水が多くその他の小河川や溜池も水源としては不安定で、安定した水源確保や灌漑施設の整備は地域農家の悲願となっていました。
1980年(昭和55年)に農林水産省による国営会津宮川農業水利事業が着手され、灌漑排水設備の整備や圃場整備が進められました。
そしてその灌漑用水源として2004年(平成16年)に竣工したのが新宮川ダムで、事業全体も同年完了し、約4500ヘクタールに及ぶ当地区の農業水利事情は大きく改善しました。
また事業に併せて営農面でも改革が進み、特に直播水稲栽培の導入による生産の効率化は顕著で稲作のほか畜産・畑作・果樹栽培など大規模かつ多角的な農業経営が実現しています。
宮川流域には新宮川ダムのほか鶴沼川防災ダムと呼ばれる3基の農地防災ダムがあり、一体した運用を行うため4基のダムは福島県農林水産部が管理主体となり、受益組織である会津宮川土地改良区が操作を行っています。

新宮川ダム建設に際しては農林水産省のダム事業としては初めてRCD工法が採用されたほか、プレキャスト監査廊や利水放流を利用した小水力発電所の併設など新技術が積極的に導入され、その後の農業ダム建設に大きな影響を与えました。
一方、例年4月~5月の融雪期には18門のクレスト自由越流頂から融雪放流が行われ、その美しさ故に『東の白水堰堤』とも呼ばれ、ダム愛好家間では春の風物詩になっています。
新宮川ダムには2016年(平成28年)5月に初訪、2024年(令和6年)4月には融雪放流とダム見学会に合わせて2度、計3度訪問しています。
掲載写真にはそれぞれ撮影日時を記載しています。
2024年4月26日のダム見学会の詳細については『新宮川ダム ダム研見学会』の項をご覧ください。

2024年(令和6年)は記録的な少雪のため例年よりも早く貯留を開始し、融雪放流も前倒しとなりました。
訪問時の放流量は毎秒5立米程度、例年に比べれば水量は少なめですがほぼ全門で越流が見られました。
(2024年4月13日)

 
美しい転波列が示現。
(2024年4月13日)


こちらは初訪時。
すでに灌漑期に入り越流はありません。
堤高69メートル、堤頂長323メートルの堤体にクレスト自由越流頂が18門並びます。
農業用ダムでこれほどの数の自由越流頂が並ぶダムはほかにはありません。
(2016年5月29日)

 
ここから先は2024年(令和6年)の見学会の際の写真で、普段は立入り禁止箇所での写真となります。
左岸から
農業用ダムでは珍しい堤趾導流壁を装備。
(2024年4月26日)

 
天端は幅4メートル。
(2024年4月26日)


上流面
四角い建屋は表面取水設備で右奥は艇庫。
(2024年4月26日)

 
艇庫をズームアップ
巡視艇のほか、豪雪地帯ということで除雪機やスノーモービルも格納されています。
(2024年4月26日)


左岸ダムサイトの記念碑
ちょっと見づらい写真になりました。
(2024年4月26日)


隣には会津美里湖の石碑。
(2024年4月26日)

 
水利使用標識
会津宮川土地改良区管内4490ヘクタールの農地が受益地となります。
水稲向けが主となりメインの灌漑期は5月6日~9月10日ですが、畑地や果樹園地も受益対象のため、水利権は年間を通して配分されています。
(2024年4月26日)


監査廊を下りてダム下へ
豪雪地帯のため、積雪期用として堤趾導流壁に沿ってシェルターつき通路が設けられています。
(2024年4月26日)

 
向かって左手が小水力発電所で最大出力は1100キロワット。
管理は会津美里土地改良区が行い施設管理用電力として利用され、余剰電力は東北電力に売電します。
右手は放流設備。
(2024年4月26日)

小水力発電所の水利使用標識
最大取水量は2.6立米/秒、最大出力は1100キロワットですが、平時は1.8立米/秒を取水し約600キロワットの発電を行います。
(2024年4月26日)


ダム直下から
残念ながら見学会の際の放流はわずか。
間近で美しい転波列を見たかった!
(2024年4月26日)


右岸から
堤頂長が323メートルに及ぶため、超広角じゃないとフレームに収まりません。
(2024年4月26日)


上流面
5月10日からの本格的な灌漑放流に備え満水。

 
天端から減勢工を見下ろす
減勢工には副ダム、左手は小水力発電所と放流設備
放流された水は下流の頭首工で取水され幹線水路を通じて受益農地に送られます。
(2024年4月26日)


天端から1.4キロ下流の宮川ダムを遠望
1962年(昭和37年)竣工の農地防災ダムです。
(2024年4月26日)

 
こちらは宮川ダムから見た新宮川ダム。
(2024年4月26日)


ダム湖は会津美里湖で総貯水容量1032万立米と本州の農業用ダムとしては屈指のスケールを誇ります。
(2024年4月26日)

新宮川ダムの構内は関係者以外立入り禁止となっており、一般にはダム下左岸側とダム湖上流から遠望するのみです。
しかし平日限定・事前予約で職員様同行による見学が可能です。
詳細は下記リンクをご覧ください。
 
(追記)
新宮川ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。
 
0531 新宮川ダム(0426)
福島県大沼郡会津美里町松坂
阿賀野川水系宮川
69メートル
323メートル
10320千㎥/9300千㎥
福島県農林水産部
2004年
◎治水協定が締結されたダム


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