ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

指久保ダム

2024-09-12 20:00:00 | 青森県
2022年10月23日 指久保ダム
2024年 7月26日
 
指久保ダムは左岸が青森県十和田市滝沢、右岸が三戸郡新郷村戸来の二級河川奥入瀬川水系後藤川にある灌漑目的のロックフィルダムです。
十和田湖を水源として青森県東部を横断して太平洋に注ぐ奥入瀬川は古くから流域の貴重な水源となってきました。
奥入瀬川右岸に当たる奥入瀬川南岸地区は奥入瀬川本流及び主要右支流である後藤川を取水源として農地開発が進められてきましたが、渇水による用水不足が常習化し安定した水源確保とかんがい排水設備の整備は地域農家の悲願となっていました。
これを受け1985年(昭和60年)より農林水産省の補助を受けた青森県営かんがい排水事業指久保地区が着手され、そのかんがい用水源として2011年(平成23年)に竣工したのが指久保ダムです。
運用開始後は青森県農林水産部が管理を受託し、奥入瀬川南岸土地改良区管内約900ヘクタールの水田に灌漑用水を供給しています。
ダム建設地点は十和田の火山活動による火山堆積物が堆積し特に右岸側では透水性の高い地質となっていました。
そこで建設に際して右岸上流面に全長372メートルのアースブランケットが、地山内には全長232.5メートルの連続地中壁が設けられるなど止水対策に重きが置かれています。

指久保ダム平面図(出典 県営かんがい排水事業指久保地区 事業概要書)

また、国営や県営の農業水利事業で建設されたダムは事業者が所有し、管理は関係自治体や土地改良区に委託するのが一般的ですが、指久保ダムについては完成後に奥入瀬川南岸土地改良区に移譲され管理は県が受託という珍しい形式となっています。
土地改良区が県営事業で建設されたダムを所有するというのは全国でも非常に珍しい事例です。
その後、2023年(令和5年)7月に利水放流を利用した指久保ダム小水力発電所(最大出力194キロワット)が増設されました。
こちらの事業者は奥入瀬川南岸土地改良区で、発電した電力はすべて売電され土地改良区の運営費用に充てられます。
 
指久保ダム構内は関係者以外立入り禁止となっており、ダム湖上流に架かる後藤川大橋から遠望するのみです。
2022年(令和4年)の初訪時は、ダム構内で撮影した画像を公開しないという条件で見学許可を頂きました。
その後2024年(令和6年)7月にダムマイスターとしての取材見学という形で再度訪問、この時には職員様同行でダムの監査廊内部や放流設備・小水力発電所などの見学が叶い、併せてブログへの写真掲載の許可もいただきました。
ここでの掲載写真にはそれぞれ撮影日時を記載しています。
また内部見学の詳細については『指久保ダム取材見学』の項をご覧ください。

まずはダム湖に架かる後藤川大橋へ
一見斜張橋のようですが、エクストラドーズド橋という斜張橋と桁橋の中間型となる型式で橋長230メートル、湖面からの高さは51メートルとなります。
(2022年10月23日)


後藤川大橋からダムを遠望
ダム中央に多段式取水塔、左手に管理事務所が見えます。
(2024年7月26日)


こちらはダム湖上流側の様子。
指久保ダムは灌漑期以外は水を抜き総貯水容量292万2000立米のうち堆砂容量85万2000立米分が貯留されているだけです。
初訪時は水が抜かれ上流側はご覧の眺め。
(2022年10月23日)

こちらは再訪時。
かんがい期のためインレットまで水が溜まっています。
(2024年7月26日)


この先はすべてダム構内、関係者以外立入り禁止エリアの写真となります。
左岸の管理事務所
365日職員さんが常駐されます。
(2024年7月26日)


左岸の横越流式洪水吐
試験湛水以来、豪雨等で越流したことはないそうです。
(2024年7月26日)


こちらは下流側。
斜水路手前にシルがあります。
(2024年7月26日)


減勢工を遠望
減勢工にも大きなシルがありその直下にはバッフルブロック
さらに下流にも背の低いシルが設けられています。
左手は放流設備と小水力発電所。
(2024年7月26日)


指久保ダムは後藤川のみならず山の北側の藤島川と小林川に藤島導水路を通じて補給します。
減勢工対岸の建屋は藤島導水路のゲートバルブ室。
(2022年10月23日)


天端からダム湖を超広角で撮影
こちらは初訪時でかんがい容量は抜かれ堆砂容量分だけ貯留されています。
(2022年10月23日)


取水塔と後藤川大橋。
こちらも初訪時の水が抜かれた状態。
(2022年10月23日)


再訪時のほぼ同じアングル
かんがい期なので上の写真と水位の違いがよく見て取れます。
(2024年7月26日)


右岸から下流面
奥は洪水吐斜水路
天端や地山には草が生えていますが、リップラップ上は非常にきれいな状態に保たれています。
(2022年10月23日)


左岸から上流面
見た目にはわかりませんが、右岸側(写真手前側)上流面は遮水処理のためアースブランケットが施工されています。
(2022年10月23日)


下流から。
こちらも立入り禁止エリアで一般には見れない眺めです。
(2024年7月26日)


減勢工と放流設備
放流設備向かって右手が旧来の放流設備、左手の放流口のあるのが2023年(令和5年)に運転開始した小水力発電所。
(2024年7月26日)


こちらは後藤川の山の北側を流れる小林川
藤島導水路からかんがい用水を補給します。
(2024年7月26日)


藤島川に架かる導水路管。
(2024年7月26日)


ダムを管理する青森県上北地域県民局地域農林水産部のご厚意により2度にわたりダム構内の見学が叶いました。
同局及び職員様には厚く御礼申し上げます。
ただし今回はあくまでもダムマイスターによる取材見学として対応していただきました。一般個人からの見学申請は一切受け付けていない旨明記しておきます。

(追記)
指久保ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、台風等の襲来に備え事前放流や水位低下運用を行う治水協定が締結されています。

0215 指久保ダム(1899)
左岸 青森県十和田市滝沢 
右岸  同県三戸郡新郷村戸来 
奥入瀬川水系後藤川 
 
 
37.8メートル 
200メートル 
2922千㎥/2070千㎥ 
青森県農林水産部
2011年
◎治水協定が締結されたダム


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