軽井沢からの通信ときどき3D

移住して10年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

ガラスの話(11)ガラスの色とネオジムガラス

2018-09-21 00:00:00 | ガラス
 ガラスは、水晶と比べられるクリスタルガラスの無色透明の美しさととともに、さまざまな色もまたその魅力のひとつに数えられる。3500年ともいわれる、長いガラス工芸の歴史の中で、着色ガラスを得る技術は、すでにその初期の、紀元前15世紀前半にメソポタミア地方で作られた壺や、エジプトで作られた杯や壺に見ることができる。

 今、手元に「世界のガラス3500年史」と銘打たれた、「ぐい吞み」のセットがある。これは、ガラス工芸史の研究者であり、ガラス工芸家でもある由水常雄氏の監修・製作によるもので、これまでの様々なガラス器の製造技法を再現したものである。

 全部で、16種類の特徴あるガラス器の製造技術が再現されていて、紀元前1500年のメソポタミアで作られたミルフィオリガラスから、19世紀の日本で作られた江戸切子や薩摩切子、20世紀前半のアール・デコの時代に現在のオーストリアで作られた、黒色エナメルを被せたものまでが、現代の技術により製作されている。


由水常雄氏監修・製作の「世界ガラス3500年史」ぐい吞みコレクションの全体

 これらのうちから代表的なものを見ていただこうと思う。


古代メソポタミア(前)16世紀「ミルフィオリ・グラス杯」:ミルフィオリ技法


古代エジプト(前)15世紀「トトメス三世杯」:コア・グラス技法


古代中国1世紀「劉勝の耳杯」:パート・ド・ヴェール技法


古代ローマ1世紀「縦稜杯」:特殊吹きガラス技法


ササン朝ペルシャ4~5世紀「白瑠璃杯(正倉院所蔵)」:吹きガラス・カット技法


ビザンチン12世紀「コリント・グラス杯」:宙吹きブラント付技法


イスラム13世紀「エデホールの杯」:宙吹きエナメル絵付技法


ドイツ15世紀「森林ガラス」:ヴァルト・グラス技法
 

アメリカ18世紀「スティーゲル・グラス杯」:型モール吹き技法


イギリス19世紀「銅赤被せカット・グラス杯」:被せガラス・カット技法


日本薩摩19世紀「薩摩切子杯」:被せガラス・カット技法


フランス19世紀末「アール・ヌーヴォー杯」:カメオ・ガラス技法

 
オーストリア1925年様式「アール・デコ杯」:型吹き・カット・エナメル彩色技法

 ほとんどが着色ガラスを使用して作られている。ガラスの着色技術については、現在ではよく理解されているが、主に金属酸化物をガラス原料に添加する方法でおこなわれていて、次のようである(「ガラス工芸」由水常雄著 1975年ブレーン出版発行より)。

 鉄(酸化鉄)・・・青、青緑、黄
 銅(酸化銅)・・・緑、赤
 マンガン(酸化マンガン)・・・緑、赤褐色、黒
 コバルト(酸化コバルト)・・・濃紺
 ニッケル(酸化ニッケル)・・・青紫、紅
 クロム(酸化クロム)・・・橙、黄、緑、暗緑
 ウラニウム(酸化ウラニウム)・・・黄~緑(緑色の蛍光を発する)
 セレニウム(酸化セレニウム)・・・黄、橙、紅、褐色
 金・・・紅、紅紫
 銀・・・黄、赤黄
 硫黄・・・黄~褐
 炭素・・・黄~褐(ただし硫黄分が含まれていないと発色しないという)
  
 これらの発色には、金属イオンによる発色と、金属元素、および非金属元素のコロイドによる発色とがある。コロイド発色は、均一溶解後一旦冷却したガラスを再加熱することで得られるもので、上記中、金による紅・紅紫、銀の黄・赤黄、銅の赤、セレニウムによる紅などが該当する。

 同じ金属酸化物を用いて、種々の色が得られているが、これらはガラスの組成、溶解する(酸化還元)雰囲気、溶解温度などの違いによる。また、上記の主成分のほか少量の添加物の影響もあって、目的の色を得ることはなかなか難しく、経験的な要素もあるとされている。

 リキュールグラスやワイングラスなど、こうした方法で様々に着色され、赤色から紫色までの各色がそろったものが販売されていてなかなか楽しい。


サン・ルイ社のリキュールグラスセット


モーゼル社のワイングラスセット

 古くから知られていた前述の金属酸化物のほかに、20世紀になって新たに希土類元素が着色剤に用いられるようになった。セリウム、ネオジム、エルビウム、プラセオジムなどである。

 酸化セリウムは、酸化チタンとともに添加されると、ガラスを黄色に着色させる。酸化エルビウムは、非常にきれいなピンク色を与える。酸化ネオジムは、可視光の550~590ナノメーター(黄色光)の波長域を強く吸収し、青色域と赤色域とに可視域を分割している。そのうえ、ネオジムで着色されたガラスは、その厚みが薄いと青色が目立ち、厚いと赤色が目立つ吸収を示し、これは二色性と呼ばれている。プラセオジムは単独では淡緑色を与えるが、ネオジムと共に用いると(ジジウム)二色性が最も著しくなるとされる。

 二色性のこのガラスは光源の色調変化によりその色が極めて鋭敏に変化する特徴がある。その様子は次のようである。ここでは、都合で最近発売されたLEDランプと蛍光灯による差を撮影したが、赤色の光をより多く含んでいる太陽光下では、さらに紫色が強く感じられる。


ネオジムガラス製のデキャンタ・セット(左:白色LEDランプ照明、右:蛍光灯照明)


ネオジムガラス製花瓶(左:白色LEDランプ照明、右:蛍光灯照明)


ネオジムガラス製ワイングラス(左:白色LEDランプ照明、右:蛍光灯照明)

 光源のスペクトルが違っていれば、こうした現象が見られるのは当然のことと思われるかもしれないが、酸化マンガンで着色したと思われるアメジスト色のガラス器と比べると、ネオジムガラスの変化が際立っていることが実感される。



酸化マンガン着色(推定)によるアメジスト色のガラス(左、右)ととネオジムガラス(中央)の比較(上:白色LEDランプ照明、下:蛍光灯照明)

 ネオジムが570ナノメーターにピークを持つ強い吸収を示すことと、我々が通常使用している昼光色や昼白色の蛍光灯は、太陽光や、この場合は白色LEDランプに比べて赤色光の割合が少ないことがこの原因であるとされ、一応理解はするものの、なかなか分かりにくい。そこで、CIE色度図の助けを借りて、より直感的に理解できるよう試みた。

 次の図で、ネオジムによる吸収色の位置を【黄〇】で示した。われわれが見るネオジムガラスの色はその補色と考えられるので、太陽光、白色LED、蛍光灯などの白色光源の位置【白〇~青〇】と、【黄〇】とを結ぶライン上の、【黄〇】と反対側のマゼンタから青色になる。今ではほとんど姿を消したが、照明光源に白熱電球を用いた場合には、色温度が3000度程度と低くなるために、ネオジムガラスの色は更に赤く見えることになる。



 ネオジムによる吸収である黄色の補色域は、マゼンタ色と青色のちょうど境界にあり、僅かな光源の色調、即ち図の黒体輻射のライン上の色温度の僅かの違いが増幅される形となり、我々の目には大きな色の差として感じられることがわかる。

 今回使用したものを含め、実際の白色LED光源や蛍光灯光源は波長の異なる光(2ないし3波長)の混色になっているので、図のように単純ではないことに注意が必要であるが、直感的な理解ができるのではと思っているがいかがだろうか。

 このネオジムガラスは、アレキサンドライトガラスとも呼ばれている。宝石のアレキサンドライトは、太陽光下や蛍光灯下では暗緑色を示すが、赤色系スペクトルの強い白熱灯や蝋燭の明かりの下だと色が鮮やかな赤色に変わる。

 これは黄色系スペクトルを吸収するクロムを含有し、また石が反射する光に赤色要素と緑色要素の両方が平均的に存在し、青みが強い光線の元では青色系の色を、赤みが強い光線の元では赤色系の色を反射するためであるとされている。

 ネオジムガラスとはその色変化の様子は異なるものの、類似している両者はとても興味深い。



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ヤママユ(2)2~4齢幼虫... | トップ | ヤママユ(3)繭作り »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ガラス」カテゴリの最新記事