すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

【サッカー・東アジアカップ】中国戦に試したい選手とチェックポイントは?

2015-08-07 07:42:34 | サッカー日本代表
韓国戦、選手は能動的に「どう戦うか?」を選び取った

 日本は初戦の北朝鮮戦では「タテに速すぎる」サッカーをした。また2戦目の韓国戦は逆にリトリートして低く構えたサッカーを演じた。さて最終戦の中国との試合では、彼らはいったいどんなサッカーを見せてくれるのか? これだけ1戦ごとに猫の目のようにスタイルがまるで違うと、お次はいったい何が飛び出すか、クイズみたいですっかり楽しくなってくる。

 え? ずいぶんのんきだなぁ、だって? いや話は最後まで聞いてほしい。

 過去いままでの日本代表チームは、決まって判で押したように同じサッカーをするか、あるいはまったく何も考えずになんとなく試合に臨んでいた。だが今大会のハリルジャパンは少なくとも試合ごとに明確な意図をもち、その都度イメージするサッカーをやろうとしている。その意味では狙いがはっきりしている。

 この点は(内容が悪いながらも)評価していいだろう。

 特に韓国戦は試合後の選手のコメントを見ると、ゲームの真っ最中に選手自身が声を掛け合い、やるべきサッカーを能動的に選択したらしい。この自主性は過去の代表になかったものであり、強く認められてしかるべきだ。監督が与えた教科書通りにやるならだれだってできる。だが実戦では相手のスタイルに臨機応変に対応すべき場面もあれば、1試合を通じ局面ごとにやるべきこともめまぐるしく変わる。

 ゆえに彼らが示した「自分の頭で考える」サッカーを高く評価したい。

 まとめれば初戦は監督の理想とする速いサッカーをめざし、2戦目は自分たちで修正を加えて北朝鮮戦のようにハイボールにやられない試合運びをした。前回の記事では結果(勝ち)が伴わない試合続きでつい頭に血がのぼり、「将来につながらない大会だ」などと書いてしまったが前言は潔く撤回したい。

 ロシア・ワールドカップの本大会ではヨーロッパや南米の強豪相手にリトリートした戦い方をせざるををえないかもしれず、その意味ではいい予行演習になった。繰り返しになるが、そのときやるべきスタイルを自分たちで自主的に選び取った経験は選手たちをめざましく進歩させるだろう。

最後の中国戦はどんなテーマを掲げて試合に臨むべきか?

 さて、クイズの時間だ。次の中国戦で日本はどんな戦い方をするべきなのか? 当たり前の話だが、相手のスタイルに応じて臨機応変に対応するのがベストである。いや「自分たちのサッカー」をもつのはいいことだ。だがそれとは別に、局面がそこからハズれた場合に応用問題を解けるかどうか? ここがヨーロッパや南米の一流たちと日本との埋められない差になっている。

 例えばとかく日本では「自分たちのサッカー」(=アクション・サッカー)か? それとも受け身で相手に対応するリアクション・サッカーがいいのか? などと極めて単純な二元論が語られる。だが、そんなものは局面の変化に応じて両方必要に決まっている。これってかつてトルシエ日本代表監督(当時)時代に一世を風靡した「個か? それとも組織か?」みたいな二元論とまったく同レベル。いや、そんなものは両方兼ね備えておくべきなんですってば。かくも日本人は常にモノゴトを単純化して考えがちな傾向がある。

 だがサッカーという芸術は、そんなわかりやすい二元論などはるかに超越した深淵な哲学だ。膨大な数の順列組み合わせパターンから成り立つ、途方もない複雑系システムである。シンプルな二者択一なんかでとうてい一面的に割り切れるものじゃない。

 そもそも勝負ごとには相手がいる。ならば対戦相手の「手」に対応するのは当然だ。将棋でいえば、相手が王手をかけてきているというのに、それとはまったく関係なしに自分は飛車が成り込もう、なんてありえない。そんなことをしたら自分の王様を取られてしまう。ゆえに「王様が逃げる」という「相手への対応」をするのが当然だ。

 だがそれとはまったく別の次元で、「オレはこの戦法がいちばん得意だ」、「局面がこの形にハマれば絶対に勝ち切れる」という必殺の飛び道具(=自分たちのサッカー)を持っておくことは矛盾しない。ゆえに、くれぐれも単純な二元論で思考停止してしまわないことだ。重要なのは柔軟性である。

局面に応じて複数の選択肢の中から選手が答えを選べるか?

 例えば次の中国戦、相手が最終ラインからグラウンダーのボールをつなぎ丁寧にビルドアップしてくるようなら、日本はハイプレスをかけて前でボールを取ってしまいたい。で、ショートカウンターである。逆にバックラインからハイボールを放り込んでくるやり方なら、ファーストチョイスとしては前でボールの出どころをつぶしたい。

 逆にそれができない局面では、ハイボールの受け手の側を挟み込んで強くせり、決して自由にさせないことが絶対条件になる。またもし相手が自陣に引き込みロングカウンター狙いでやってくるなら、日本はそのぶんポゼッションを高めてサイドを有効に使ってフィニッシュに持ち込むサッカーを選択すべきだ。

 さて次の中国戦でも韓国戦のように、選手自身がこれら複数の選択肢の中からベストな答えを能動的に選び取れるのか? 中国戦はその点に注目して試合を見たい。

 また個人的には最後の試合なので初心に帰り、状況が許せば監督がめざすツータッチ以内で第3の動きを入れながらテンポよくパスをつなぎ、タテに素早く切り裂くサッカーをしたい。国内組中心のいまのメンバーでそれがどこまでできるのか? そこをぜひ見極めたい。

 個人的には、おそらくそこそこは出来ると踏んでいる。ただしそれはメンバーの選び方次第だ。で、中国戦では以下のメンバーと布陣を試してほしい。タテに速いサッカー対応型のラインナップである。

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              ◯興梠

      ◯宇佐美    ◯じゃない武藤   ◯倉田

           ◯山口螢   ◯柴崎岳

      ◯太田   ◯槙野   ◯森重   ◯遠藤航

               ◯西川

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興梠で前線にポイントを作り宇佐美と武藤で点を取る

 ポイントははっきりいえば、川又と永井を使わないことだ。タテへの速さを求めるなら、前線でのボールの収まりは必須である。ならば前へ当てたボールをうまくさばくポストプレイが得意な興梠をワントップに置きたい。

 じゃない武藤と倉田の2人もぜひもう一度見てみたい選手だ。武藤に関しては運動量をしっかり維持し、試合から消えてしまわず90分間アグレッシブにプレイできるかどうか? そこをテーマに試合に臨みたい。これが実現できれば武藤のもつ技術、特にシュート力とキープ力、パス出しのうまさが生きるだろう。

 かたや倉田は運動量が非常に豊富だ。守ってはSBの位置まで引き、攻めてはペナルティエリアまで侵入できる。チームが苦しいとき、泣きながらでも踏ん張れる選手である。その責任感とキャプテンシーは、かつての柱谷哲二にさらに技術をプラスしたようなキャラクターだといえる。こういう選手は一家に一台、ぜひチームに置いておきたい。このタイプの存在はチーム全体のメンタルを圧倒的に引き上げてくれる。

 韓国戦を見る限り、彼は華麗なテクニックで勝負するというより、泥臭いハードワークでチームに貢献できる。そのため宇佐美のような華はないが、人が嫌がる汚れ仕事を率先的にこなしてくれる。いままでのハリルジャパンにはいなかったタイプだ。献身性のある頼もしい選手である。

 さて次のチェックポイントは、残念ながら試合によって出来不出来の差が激しい宇佐美が、アベレージで機能し続けられるかどうかだ。サイドで適度に守備をこなしながらも、だがあくまでも自分の最大の武器である攻撃力をしっかり発揮できるか? 攻守両面での貢献は現代的なフットボーラーとしては必須なだけに、その点に注意して試合を見たい。

 そして今大会ではまだ十分に実質的な「10番」としての力を発揮してない柴崎が、ゲームを作りチームの背骨になり切れるかどうか? 一方、左SBの太田は敵陣に深く切り込み、持ち前のマイナス方向に曲がる芸術的なクロスを入れられるかどうか? この点も試合の流れを大きく左右するだろう。

 以上にあげたチェックポイントを彼らがもし仮にすべてクリアできれば、このメンバーならかなりの試合ができるはずだ。ただ右半分の前の3人をいっしょに使うとタテに速いというよりポゼッション型になるかもしれない。だがそれならそれで試合支配率が高まるし、あとはSB太田と遠藤の効果的なオーバーラップがあれば攻めのスピードは加速するはずだ。

「武藤に長時間ハイプレスができるのか?」ってツッコミが入りそうだが、もし彼がバテたら柴崎を1列あげてトップ下にし、(1)替わりのボランチにFC東京の米本を。または遠藤航をボランチに回し、右SBに(2)ガンバの米倉恒貴か丹羽大輝を入れる。(1)、(2)のオプションを取れば、新しい選手も見られて一石二鳥だ。

山口と遠藤、森重、槙野は計算できる

 なお上にあげなかったスタメンの選手は、ある程度は計算できることがすでに実証済みである。例えば山口には今まで通り、中盤の底でボールを狩りまくってほしい。チャンスになったら思い切りのいい上がりも楽しみだ。

 また遠藤にはすでに見せてくれている効果的なオーバーラップと、強くて速いグラウンダーのロングパスをタテ方向に突き刺してもらう。さらに森重には持ち前の質の高いフィード力を、槙野には当たり負けしない力強い守備と熱いムードメイクを期待している。

 このメンバーなら十二分にやれる。またやってもらわなければ困る。さて最後の中国戦、大会の総仕上げとして圧倒的に押し込んで勝ち切ろう。君たちなら絶対にできる。

 ぶちかましてこい。

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【サッカー・東アジアカップ】苦肉のリトリートでクリンチを繰り返す弱気なボクサー 〜日本1ー1韓国

2015-08-06 02:20:43 | サッカー日本代表
引いて守ってロングカウンターの「新生日本代表」がお目見え

 まるであの引き分けに持ち込まれたシンガポール戦に学んだような試合だった。韓国を相手に、ベタ引きで少ないチャンスを狙うクリンチ戦法に徹した我らが日本代表。だがそれは結局、海外組がごっそり抜け、大幅に戦力ダウンした急場をしのいだだけにすぎない。ロシア・ワールドカップへ向けての「輝ける未来」は見えてこなかった。

 日本は前半25分に森重がペナルティエリア内でハンドを取られ、いきなりPKから韓国に先制を許した。いやなムードが漂う中、日本は我慢のサッカーで耐え続ける。そして迎えた前半39分。山口蛍がゴール左スミを撃ち抜く豪快なシュートを決め、1ー1のまま引き分けで試合を終えた。

 日本は最終ラインの前にアンカーを配した4-1-4-1。左SBに太田を入れ、右に遠藤航、センターに槙野と森重を配する最終ラインを組んだ。かたやサガン鳥栖の藤田直之がアンカーとして代表初出場し、インサイドハーフは山口蛍と柴崎岳。左SHは同じく代表デビューのガンバ大阪・倉田秋、右SHはグランパスの永井。ワントップは浦和レッズの興梠が務めた。

猛暑の中を90分間戦い抜く「省エネ戦法」

 日本は前半立ち上がりから試合終了まで、かなり低く構えて戦った。韓国の最終ラインがボールを持つと全員が自陣に引き込み、ハリルジャパン初のリトリート・スタイルで試合を進めた。

 パスを回す韓国のバックラインに対し、ワントップの興梠がほぼセンターラインあたりにポジショニングし、この低い陣形により無理せず自陣でボール奪取を狙うロングカウンター的な試合運びをした。

 必然的にボールポゼッションは高くないが、全体のバランスはそう悪くない。ハイプレス信者が見れば怒り狂いそうなゲームプランだが、猛暑の中を90分間戦い抜く「省エネ戦法」としては理にかなっていたかもしれない。

 現に後半30分以降、韓国の足がパッタリ止まったのに対し、日本はしっかりゲームの流れをつかんで最後は優勢のまま試合を終えた。

 ただしすでに1敗している以上、引き分けでなくどうしても勝ちたかったのが本当のところだ。その意味ではハッキリ評価が分かれる試合だろう。ボール運びのスムーズさは北朝鮮戦よりはマシになったが、限られた乏しい戦力でなんとかクリンチに逃れたようなかっこうである。

 ハリルホジッチ監督は「組織的だった」と胸を張ったが、果たして将来につながるような一戦だったといえるだろうか?

山口と遠藤は輝きを放った

 戦術的には見るべきものがなかった試合だが、光明といえるのは輝きを見せた山口蛍である。前半39分、韓国のバイタルエリアに一瞬スペースができた。中央でボールをもった倉田が、山口の前にそっと置くような柔らかい横パスを出す。山口は待ってましたとばかりに走り込み、まるでシュート練習のような美しいゴールを決めた。

 彼はこの得点だけでなく、積極的に前へ出る爆発的なプレッシングを見せた。北朝鮮戦に続き、エネルギッシュに躍動していた。彼がボランチのレギュラー争いに力強く名乗りをあげた意味は大きい。

 また同じく北朝鮮戦から右SBに抜擢された遠藤航も輝いた。クレバーな守備だけでなく前へのフィードもいい。後半に入ってすぐ、目の覚めるような強くて速いグラウンダーのロングパスを通したときには驚いた。このチームですでに彼は、「軸」とさえいえる存在感を示している。

 一方、左SHとしてチャンスをつかんだ倉田も、山口同様、意欲的でエネルギッシュなプレスをかけ続けた。彼は球際が強く守備に粘りがある。攻めては1アシストもし、リンクマン的な繋ぎ役としてスポットライトを浴びた。

 また最前線に目を移せば、ワントップの興梠はボールの収まりのいい捌きをしていた。ボールコントロールが明らかに川又より安定している。なぜハリルホジッチ監督はあそこまで川又にこだわるのか? この日の興梠のプレイを見て、ますますわからなくなってしまった。(ただし未来に向け手放しで喜べないのは、29歳という興梠の年齢ではあるが)

 ともあれこの試合限りで、もう川又と永井は見切っていいのではないか? そんな強い思いに囚われた。

ビルドアップ不全症は相変わらずだ

 一方、チームとしての問題点は相変わらずだ。日本は最終ラインからのビルドアップに苦しみ、韓国に前からプレスをかけられてはボールを失っていた。うしろの選手がボールを持つと、前へロングボールを放り込むか、GKにバックパスするかの二択になっている。現状は深刻だ。

 また守備面ではボールを保持する相手選手に対し、守備者が距離を取りすぎる。局面では間合いを詰めるプレッシングも見られたが、基本的には抜かれるのをこわがり、何メートルも離れてパスコースを切るだけだ。おかげで韓国にいいようにボールを回されていた。

 たまに柴崎や山口がプレスのスイッチを入れていたが、単騎の寄せでは効果がうすい。そのうしろの選手たちが連動してあとに続き、分厚い壁を作らなければ戦術的に意味がない。

 まだ中国との最終戦を残し総括してしまうのもアレだが、この大会は山口蛍を再認識し、遠藤航を発見しただけに終わりそうでこわい。

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【スクランブル発進】サッカー・東アジアカップはこのメンバーとシステムで勝ち切れ

2015-08-04 07:59:28 | サッカー日本代表
宇佐美を守備から解放する新システム

 ハッキリ言おう。

 今回の東アジアカップを「新戦力の発掘」のための大会と位置づけるなら、個人的には勝敗を問うつもりはない。1人でも多くの有能な新人を使い、選手の個性と適正を存分にチェックすればいい。そして未来につなげよう。

 だが大会として勝敗にこだわるなら、北朝鮮戦の惨状を見ればもはやスクランブル発進しかない。そこでとっておきのメンバーと布陣を考えてみた。攻撃的能力の高い宇佐美と柴崎をスナイパーに特化して使い、とにかく得点を狙う新システム。以下の通りだ。

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             ◯宇佐美

     ◯武藤      ◯柴崎      ◯浅野

         ◯谷口      ◯山口

     ◯太田   ◯槙野   ◯森重   ◯遠藤

               ◯西川

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 北朝鮮戦では前線でのボールの収まりが悪く、簡単にボールを失っていた。で、そこを修正したい。宇佐美と柴崎の守備の負担を少しでも軽くし、ポゼッションを高めてとにかく点を取ってもらう。

 今回選ばれている代表メンバーの中で、いちばんシュート精度が高いのは明らかに宇佐美と武藤である。ならば宇佐美はこのさい最前線で使い、守備はコースを切るだけでいい。猛暑の中でスタミナを温存させ、ゴールを取る仕事に専念してもらう。

 攻める宇佐美と守る宇佐美なら、どっちが対戦相手にとって嫌だと思います? そんなものは攻める宇佐美に決まっている。また彼が前でドリブルすればタメが生まれ、味方が上がる時間も稼げる。もちろん宇佐美は自己判断でシュートに行ってもらっていい。

 柴崎に関しても似たような理屈だ。宇佐美よりは守備をやってもらうが、彼を前へ一列上げてトップ下で使い、オフェンスに半ば専念してもらう。そのぶんボランチに負担はかかるが、山口と谷口のコンビならこなせるだろう。

 両サイドについては、北朝鮮戦を見た限りでは武藤の攻撃能力も十二分に高いので期待できる。右に関しては思い切りのよさを買って若い浅野で。ぶちかましてこい。浅野は永井よりはきっちりボールが止まるだろうし、なにより経験を積ませたい。

 最終ラインへ行くと、まず太田はケガ明けのコンディションが不明だが、今回は勝ちに行くスクランブルなので当然やってもらう。右の遠藤も北朝鮮戦ではすばらしいパフォーマンスを見せていただけに、大いに期待している。

 センターの2人は実績もあるし盤上この一手。森重には前への長く正確なフィードがある。槙野は北朝鮮戦でボールに対する寄せの甘さが出たが、自信を失わず思い切ってぶちかましてほしい。

 さあ次の韓国戦、相手に不足はない。この新システムで10点取ってこい。

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【サッカー日本代表】「教え魔」ハリルの呪縛を超えられるか?

2015-08-03 06:06:46 | サッカー日本代表
またゼロからスタートした日本代表の憂鬱と可能性

 日本が格下の北朝鮮に、1ー2でショッキングな逆転負けを食らった東アジアカップ初戦だった。いろんな意味で衝撃的なあの試合内容を見て、「ああ、また日本はゼロから作っていくのか…」と愕然とした人は多いだろう。

 急造チームで連携がない、控え選手ばかりの格落ちだ、Jリーグの疲労でコンディション不良だった、現地は猛暑で体力を奪われたーー。もちろんいろんなエクスキューズはできるだろう。だがハッキリ、いまの日本代表は「地力不足」と断定していい。

 まず基本的にボールが繋げない。2本以上の意図のあるパスが連続して通らない。そしてカンタンにボールを失ってしまう。基本的なことであり、これはかなり致命的だ。ではなぜそうなるのか? ちょっと選手の心理を分析してみよう。

「教科書」は局面打開の手段であり目的ではない

 監督からは「ツータッチ以内で」、「縦に速く」と指示される。すると判断を速くする必要があるが、ただし「まだしっかり判断できていないのに、エイヤッで目を瞑って適当にボールを離していい」というわけではない。ここのコミュニケーション・ギャップが監督と選手の間にありそうだ。つまり監督の指示を守ろうとするあまり選手がパニックに陥り、あわてて中途半端なパスを出してしまう。

 そうではなく、(監督の指示がどうあれ)もし自分が無理な体勢にあれば、別にひとつだけタメて確実に遠回りしてもいい。「過度なポゼッション重視」という意味ではない。急ぐあまり当てずっぽうに全く意味なくボールを失うより、確実にひとつボールキープできたほうがいいということだ。

 また「可能ならひとつ飛ばして遠くへボールを出せ」と監督に指示されれば、通る可能性がきわめて低い山なりのロングボールを放り込んでしまう。そうではなく、インサイドキックを使った「強くて速くて長いグラウンダーのパス」を狙って出せ、と監督は言っているのだろう。

 もしコースを切られてそれがどうしても無理な局面なら、味方の選手1人を経由し、2本のパスを繋いで同じ地点へ確実にボールを送り込むのでもいい。むろん一発で行けたほうが相手の守備体勢がまだ整わず、有効な攻めになるに決まっている。だが意味もなくボールを失うよりはいい。セカンドベストだ。このへんもボールホルダーが自分で能動的に判断する必要がある。

自分の責任で「赤信号」を渡れ

 だが日本人はマジメな上にマニュアル思考だ。ゆえに局面はどうあれ、愚直にいつも指示通りやろうとしてしまう。しかしかつてのトルシエ監督ではないが、赤信号だからといって車がこなきゃ渡っていいのだ。与えられた教科書をその通りなぞるだけでなく、「自分の頭で考えて」局面に応じ臨機応変にプレイするのがレベルの高いプロである。

 あのハリルホジッチ監督という「教え魔」を得て、逆に「だからこそ」いま日本人は自分の頭で考えることを要求されている。「俺が俺が」ないい意味でのエゴイズムがなく、責任回避型のプレイに陥りがちな日本人がこのハードルを越えられるのか? 「俺が決める」的な自己決定型の思考ができるかどうか? これはサッカーに限らず日本人全体が抱える一大テーマである。

 いやハリルホジッチ自身は別にそんなことは意図してないが、奇しくも彼を迎えたことにより発生した偶然の僥倖により、いま日本人は生き方そのものを問われている。ここで殻を破れるか? それとも日本人は相変わらず没個性的な文化の中に埋没するのか?

 ますます面白くなってきた。

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【サッカー・東アジアカップ】更地になったこの土地にどんな家が建つのか? 日本1−2北朝鮮

2015-08-03 00:01:12 | サッカー日本代表
値千金の先取点をフイにしたツメの甘さ

 なでしこジャパンの北朝鮮戦を、もう一度見せられているような試合だった。

 手が届きそうで届かない。とどめを刺せそうで果たせない。

 相手はチャンスを確実にモノにした。だが日本はずっと逃し続けた。手綱をゆるめれば勝ちはスルスルと逃げて行く。ひとことでいえばそんなゲームだった。

ビルドアップができない落ち着きのなさ

 天使は立ち上がりに舞い降りた。なんと前半3分の先制点だ。だが追加点を決められない日本のツメの甘さに、気まぐれな天使はすっかり心変わりした。ダメ亭主に叩きつけられた三行半は強烈だった。

 前半は日本が相手ボールをうまく追い込み、角度を限定し最後は網にかけるシーンも何度かあった。だが後半は北朝鮮がプレス逃れのハイボールを多用するようになり、日本のプレスがハマらなくなる。前半の日本はそれでもしのいだが、後半は相手の怒涛の攻めをはじき返してはまた攻められる、の繰り返しになり、最後はダムが決壊した。

 日本はアバウトな放り込みが目立ち、最終ラインから確実にビルドアップできない。監督の「縦に速く」という指示をはき違えたかのようなあわてぶりだ。ボールの繋ぎがたどたどしい。それでも前半はチャンスが何度もあったが決められず、みすみす相手に試合の流れをプレゼントしてしまった。

 宇佐美は立ち上がりからずいぶん守備をしていたが、帰陣する動きにスタミナを奪われ消耗して行った。かたや宇佐美と交代で後半に投入された柴崎は、逃げのパスばかりで軸になれなかった。柴崎はもっと決定的な仕事をしないと看板倒れだ。この日の彼には気持ちが見えなかった。川又と永井もあんなふうにチャンスを決め切れないとレギュラー取りはむずかしい。

ボールの収まりの悪さをどう解決するか?

 一方、「新戦力を発掘するための大会だ」という割り切った見方をすれば、それなりに収穫はあった。まず代表デビューの遠藤は対人能力が高く粘りのある守備を見せ、攻めては1点目のアシスト以外にもいいからみ方をした。谷口も守備が固く、もう少し組み立てに参加できれば期待がもてる。藤春も思ったより大穴はなくまずまずこなしていた。

 山口は立ち上がりから積極的に前へ出てプレスをかけ、意欲を示した。同じく実績のある森重もフィードのよさを見せてアピールした。また期待の武藤は先取点を取って以降途中消えかけたが、思い出したように現れては及第点の仕事をした。もっとアベレージで働ければ楽しみな選手だろう。

 さて最大の問題はビルドアップと、前線でのボールの収まりの悪さだ。日本代表はザック時代に、バックラインからグラウンダーのボールで丁寧に繋ぐビルドアップを完成させた。だがハリルは逆に速さを求め、それをいったんぶち壊した。

 更地になったこの土地に、果たしてどんなステキな家が建つのか? 日本中がいま、固唾を飲んで見守っている。

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