『甘噛み^^ 天才バカ板!』 byミッドナイト・蘭

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[『硫黄島からの手紙』短評]

2006-12-18 18:53:35 | 物語の感想
   [『硫黄島からの手紙』短評]

▼昨日、彼女と観にいった。

 私の彼女は、戦争について全くの無知である。

 が、何の予備知識もなく連れて行って、どういう感想を抱くか興味深かった。

 映画の完成度は非常に高かった。

 イーストウッドの硫黄島二部作が第一弾『父親たちの星条旗』では、過酷な戦闘シーンに捌く上映時間中の割合が少なく、硫黄島戦の過酷さの描写に物足りなさを感じたが、今回は、その物語の四分の三が戦争シーンに費やされる。

 アメリカ側の物語が、摺鉢山攻略に焦点があたっていたのに対し、日本側の戦いは、摺鉢山が攻略されてから、なのだ。

 私が、今まで経験した映画上の戦争(合戦)で凄いなあと思ったものに、『スターシップ・トゥルーパーズ』『プライベート・ライアン』『ブラックホーク・ダウン』『ロード・オブ・ザ・リング:二つの城』などがあるが、

 それらは、最新の技術を駆使して、映像や音響や表現で「ケレン」を醸していた。

 だが、イーストウッドの演出は淡々としている。

 西部劇の頃から変わらない、地に足のついた、土の匂いのする演出だった。

 しかし、その戦闘描写に費やす丈は長い。

 その長い時間の経験こそが、戦争なのであろう。

 恐怖も痛みも熱さも空腹も、二時間ちょっとの物理的苦しさでは済まない。

 渡辺謙の栗林中将は良かった。

 栗林中将には「達観」があり、自分の役割を厳然と認識していた。

 過酷な中で、至って明るく、自分の為すべきことを為していた。

 バロン西も、その演者(井原剛志)ともども良かった。

 洋行経験のある栗林中将とはまた違った西洋通でもあり、物語上で、伊達男である彼の存在が、米兵捕虜とのささやかな交流といい、物語に大きな道筋をつけていてくれた。

   ◇

「こ、これって、無理じゃない!?」

 と、私の彼女は、私に耳打ちした。

 凄まじい物量の米軍上陸シーンだ。

「うん。無理なんだよ。絶対に勝てないんだよ。彼らの目的は、一日でも長く、ここを死守することなんだよ・・・」

「ええっ!? ・・・一日でも長く・・・」

 私の彼女にとって、フィクションか実話かも知らないこの硫黄島戦、今まで戦争物などを見たこともなかったので、かなりの衝撃だったようだ。

 「自分が死ぬこと」は、逃れられぬ前提なのである。

 彼女には、自分が死んでも愛する者を守る、と言う思考にまで考えが行き着いてくれただろうか?

 戦闘序盤の、それでも厳しい攻撃の果て、自分らの前に単身で現われた米兵を、皆で銃剣を刺しまくるシーンがあった。

 それで、私の彼女の無知は打ち破られ、下腹部に強烈な衝撃を宿したそうだ。

 私が不満を感じたのは二点。

 栗林中将の作戦で、硫黄島は、蟻の巣が張り巡らされたかのようなトンネル群の地下大要塞になる訳だが、

 このトンネル群、かなりの岩盤をくりぬいて構築されたようだ。

 なんたって、アメリカ軍上陸に先立つこと数日間に渡って大爆撃が繰り広げられて、地表は草木の生えぬほどの荒野にされていたにもかかわらず、地下基地は無傷で健在だったのである。

 その大要塞の構築過程の描写が足りないように感じた。

 それともう一つ、

 5日間で容易に陥落すると考えられていた硫黄島は、その7倍の日数36日間持ち堪えたわけだが、その時間経過がこちら(観客)に分かりやすく伝わっていない気がした。

 他の説明不足の点は、二部作を通してみると、良く分かる。

 一作目で、ただの神出鬼没の幽鬼的存在であった日本軍が、二作目では血の通った人間と描かれ、

 されど、今度は、米軍が鬼畜米兵のように描かれると思いきや、くだんのバロン西と米兵捕虜のエピソードで、自分たちと同じく親の心配を背中に受けて出征した米兵の姿として描かれていた。

 イーストウッドは、必ずしも、この、日米双方を描いた二部作を「裏表」とは考えておらず、時間軸は平行しているが、そのテーマ性においては、ちゃんと前篇・後篇として作っているのだなあと感心した。

 指揮官、幹部、下士官、兵卒・・・。

 それぞれの立場での「正義」と、「人間の強さ・弱さ」が押しつけがましさなく、実に冷静に見つめられていたと思う。

 戦争というものは、多くの人の人生を覆い尽くしている。

 国家も、科学も、希望も絶望も、この世の全てを包括している事象だと思う。

 二部作を、順番通りに、なるべく時間を置かず観る事をお勧めします。

 やっぱり、戦闘シーンは、物語の「華」である。

 第二作目の『硫黄島からの手紙』にこそ、その戦闘シーンのクライマックスが死屍累々と横たわっている、栗林中将やバロン西の「爽やかさ」とともに・・・。

                              (2006/12/18)
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