しろみ茂平の話

郷土史を中心にした雑記

坊ちゃん     (愛媛県ターナー島)

2024年04月25日 | 旅と文学

愛媛県の松山沖に大小の島々が浮かび、それを中島諸島と呼んでいる。
その中島諸島の興居島(ごごしま)は、
いちばん松山から近い島で三津浜港の目の前にある。
興居島は今、ミカンや船踊りで有名だが、伊予富士という名山でも知られる。

フェリーで興居島に向かうと、「あれがターナー島か」
とすぐに気づくほどに、たしかに名画を思い浮かばせる無人島がある。

 

旅の場所・愛媛県松山市興居島
旅の日・2011.7.14
書名・坊ちゃん
著者・夏目漱石
発行・集英社文庫 1991年

 

君釣りに行きませんかと赤シャツがおれに聞いた。
赤シャツは気味の悪るいように優しい声を出す男である。
まるで男だか女だか分りゃしない。
男なら男らしい声を出すもんだ。

 

向う側を見ると青嶋が浮いている。 
よく見ると石と松ばかりだ。
赤シャツは、しきりに眺望していい景色だと言ってる。
野だは絶景でげすと言ってる。
絶景だか何だか知らないが、いい心持には相違ない。
ひろびろとした海の上で、潮風に吹かれるのは薬だと思った。

「あの松を見たまえ、幹が真直で、上が傘のように開いてターナーの画にありそうだね」
と赤シャツが野だに言うと、野だは「まったくターナーですね。
どうもあの曲り具合ったらありませんね。ターナーそっくりですよ」と心得顔である。
ターナーとは何の事だか知らないが、聞かないでも困らない事だから黙っていた。

舟は島を右に見てぐるりと廻った。
波はまったくない。
赤シャツのお蔭ではなはだ愉快だ。
すると野だがどうです教頭、これからあの島をターナー島と名づけようじゃありませんかとよけいな発議をした。
赤シャツはそいつは面白い、吾々はこれかそう言おうと賛成した。
この吾々のうちにおれもはいってるなら迷惑だ。
おれには青鳴でたくさんだ。

 

 

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坊ちゃん     (愛媛県道後温泉)

2024年04月25日 | 旅と文学

広島県に行けば(備後よりも特に安芸)、みんな生まれながらの広島カープファンで、
カープの悪口は滅多なことでは言えない。
鹿児島県に行けば、みんな♪西郷隆盛おいらの兄貴、で西郷どんの悪口はご法度。
そして、愛媛県の松山に行けば「坊ちゃん」を市民みんな愛している。
松山は「坊ちゃんの町」で、お城も温泉も、坊ちゃんとのからみを抜きには語れない。

だが作者の漱石先生は、坊ちゃんほどに愛されていない。
なぜなら、物語では温泉以外は見るほどのものはないといいきっている。
無理もない。

 

旅の場所・愛媛県松山市道後温泉
旅の日・2022年5月18日
書名・坊ちゃん
著者・夏目漱石
発行・集英社文庫 1991年

 

「乗り込んでみるとマッチ箱の様な汽車だ。
ごろごろと五分許り動いたと思ったら、もう降りなければならない。
道理で切符が安いと思った。
たった三銭である。」

(坊ちゃん)

 

四日目の晩に住田という所へ行って団子を食った。
この住田という所は温泉のある町で城下から汽車だと十分ばかり、歩行いて三十分で行かれる、
料理屋も温泉宿も、公園もある上に遊廓がある。
おれのはいった団子屋は遊廓の入口にあって、大変うまいという評判だから、温泉に行った帰りがけにちょっと食ってみた。
今度は生徒にも逢わなかったから、誰も知るまいと思って、翌日学校へ行って、 一時間目の教場へはいると団子二皿七銭と書いてある。
実際おれは二皿食って七銭払った。
どうも厄介な奴らだ。

 


二時間目にもきっと何かあると思うと遊廓の団子旨い旨いと書いてある。
あきれ返った奴らだ。
団子がそれで済んだと思ったら今度は
赤手拭というのが評判になった。
何の事だと思ったら、つまらない来歴だ。
おれは ここへ来てから、毎日住田の温泉へ行く事にきめている。
ほかの所は何を見ても東京の足元にも及ばないが温泉だけは立派なものだ。
せっかく来たものだから毎日はいってやろうという気で、晩飯前に運動かたがた出かける。
行くときは必ず西洋手拭の大きな奴をぶら下げて行く。
この手拭がちょっと見ると紅色に見える。
おれはこの手拭を行きも帰りも、汽車に乗ってもあるいても、常にぶら下げている。

 

 

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