ルーツな日記

ルーツっぽい音楽をルーズに語るブログ。
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ザ・フー@武道館

2008-11-26 08:08:05 | ルーツ・ロック
THE WHO / LIVE AT THE ISLE OF WIGHT FESTIVAL 1970

昔からよく言われてきたことがあります。イギリスの3大ロック・バンドはビートルズ、ローリング・ストーンズ、ザ・フーだと。そして我が国日本において、ビートルズ、ストーンズに比べるとザ・フーの評価と人気が著しく低いのは、彼らが来日してないからだと。フーはライヴを観ずに始まらないと。ではフーのライヴとは?

79年の映画「THE KIDS ARE ALRIGHT」のサウンドトラック盤のライナーに、ピート・タウンゼントがデビュー当時のステージについて語った文章があります。そこで彼は最後をこう締めています。「and we fucking smash everything up!」。和訳では「全てをこっぱみじんにしてやるのさ!」

当時のライヴで、ザ・フーは最後に必ず楽器を破壊していたそうです。もちろんその“楽器破壊”は音楽的には何も成しません。ですがこの破棄行為こそ、ザ・フーの本質だったのかもしれません。

フーというバンドほど面白いバンドはなかなか居なかったと思います。60年代末から70年代の全盛期、ロック・オペラなどアーティスティック且つプログレッシヴで緻密な作品を作り上げながら、ライヴではまるでそれを破壊するかのごとく荒くれたステージを展開していました。

69年のロック・オペラの名作「TOMMY」とそれをたった4人で演りきったワイト島のライヴを聴き比べればそれは一目瞭然です。まるでピート・タウンゼントが作り上げるザ・フーの芸術は、スタジオで完璧に作り上げた作品をライヴで破壊することによって完成していたかのようなのです。ザ・フーのライヴは破壊であり、それが彼らにとってロックだったのかもしれません。

その破壊の要であったのはもちろん破壊神キース・ムーン。しかし彼の存命中にはザ・フーの来日は叶いませんでした。そして若い頃「歳をとる前に死にたい」という詩を書き、歌った二人も既に還暦を越えました。


08年11月17日、ザ・フー、武道館。もちろんキース・ムーンは居ません。何食わぬ佇まいで破壊の片棒を担いでいたジョン・エントウィッスルもこの世を去りました。残された二人はどういう思いでステージに立っていたのでしょう?

ピートのジャンプも決まった初っ端の「I Can't Explain」、観客の手拍子で盛り上がった「Who Are You」。ロジャーの堂々とした歌いっぷりとハープが素晴らしかった「Baba O'reily」。ピートの“これぞロック”なギター・サウンドが炸裂した「Won't Get Fooled Again」。昔とは違うと言え紛れも無いフー・サウンドが武道館に轟きました。

そして、観客の誰もが待ち望んでいたであろう出世作「My Generation」。例の「歳をとる前に死にたい」という歌詞が出てくる曲はこれです。この曲を演奏する二人の心境はどんなものだったのでしょうか? むなしかったでしょうか?

いや、40歳になった私にとって、60歳を過ぎてなおロッカーとしてサヴァイヴし、この曲を演奏し続ける二人の姿はとても眩しく、ただひたすら格好良く映りました。そして演奏自体も驚くほど若々しく、その攻撃的な音像には“破壊”すら感じました。では彼らは何を破壊していたのでしょうか?

「歳をとる前に死にたい」と言うパンキッシュな歌詞。それは多分に戦略的なものだったにせよ、当時の若者の空気としておそらく確かに有ったものなのだろうと思います。モッズの先頭を切らんとしていたザ・フーはそんな空気の真っ只中に居たのです。そして60歳を越えたピートとロジャーは、そんな若かりし蒼い時代に敬意を表しながらも、それをぶっ壊していたのではないでしょうか。あの演奏にはそんな彼らの心意気とロック魂を感じました。

ザ・フーの演奏が、ロックとしての“ハリ”をいまだに持ち続けているのは、やはりピートとロジャーがいまだにロック魂を持ち続けているからなのです!


*写真は70年のワイト島でのライヴを収めた2枚組みCD。もしタイムマシーンがあれば、真っ先にこの時代のフーのライヴを観に行きたい…。