GALACTIC / YA-KA-MAY
さて、ギャラクティックの東京公演が間近に迫ってまいりました。ある意味、先日のボブ・ディラン以上に楽しみなライヴです。なんてったてゲストにリバース・ブラス・バンドのトロンボーン奏者コーリー・ヘンリーと、ネヴィル・ブラザーズの末弟シリル・ネヴィルですよ。 シリル・ネヴィルがきちゃうんですよ! 昨年のフジロックに一人来なかったあのシリル・ネヴィルが! ギャラクティックとシリル・ネヴィルの共演。心が躍りますね~。しかもまたギャラクティックの最新作「YA-KA-MAY」が最高の出来映えなんです! という訳で今日はギャラクティックの「YA-KA-MAY」です。
ギャラクティックと言えば、デビュー当時はまるで「ミーターズがジャズ・ファンクをやったらこうなるんじゃないか?」的なサウンドに、セリル・デ・クロウ(vo)のソウル色が合わさり、それは新時代のニューオーリンズ・ファンクを予感させるもそでした。そして前々作「RUCKUS」からヒップホップ的なファンク表現へ移行。さらにセリル・デ・クロウの脱退を機に、前作「FROM THE CORNER TO THE BLOCK」ではチャリ・ツナやギフト・オブ・ギャブなどのラッパーを招いて一層ヒップ・ホップ色を強めました。
で、今回の「YA-KA-MAY」です。今作は、アラン・トゥーサン、アーマ・トーマス、ジョン・ブッテ、ウォルター・ウルフマン・ワシントン、リバース・ブラス・バンドなど豪華なゲストを招いた、これまでにない程ニューオーリンズを意識した作品になっています。じゃあ、ヒップホップ色が薄れたのか?と言うとそうでもありません。まあ、前作に比べれば表面上は薄れたかもしれませんが、ヒップでファットなリズムやクラブ的なミクスチャー感はかえってディープになっています。
リバース・ブラス・バンドが参加した「Boe Money」。ギャラクティック流ファンクとニューオーリンズ産ブラス・バンドのリズムが見事にガンボされています。格好良いですね~。これを聴いた時、思わずガッツ・ポーズしちゃいましたよ! そしてアーマ・トーマスが圧倒的な存在感を見せる「Heart Of Steel」。これなんかもヴードゥー的な怪しさとヒップ・ホップが合わさったようなミドル・ファンクで、“間”を生かした展開にアーマのどっぷりとした歌声が痺れますね。酋長ボ・ドリスが参加した「Wild Man」はまるでスワンプ・ジャングルへ迷い込んだよう。そしていかにもアラン・トゥーサンなピアノ・フレーズと彼の優しい歌声が深淵な世界へトリップさせてくれる「Bacchus」。ギャラクティックを現在のミーターズと例えるならば、彼らとトゥーサンの共演にはワクワクさせられますね。
トロンボーン・ショーティとコーリー・ヘンリーが参加した「Cineramascope」は今作中最もジャズ・ファンク寄りですが、地を這うベース・ラインが強烈。そしてジョン・ブッテが歌う「Dark Water」。ギターでアンダース・オズボーンが参加し作曲クレジットにはポール・サンチェスの名も。中毒性の高い隙間ファンクに絡むブッテの歌声が素晴らしい。彼が歌えば些細な隙間もブルージーな空間へと染められてしまいます。さらにブルース・ギタリストのウルフマン・ワシントンをフューチャーした「Speaks His Mind」もトリッピーで面白い。
もちろんラッパー陣も多数参加しています。しかも敢えてニューオーリンズ勢で固めている。ビッグ・フリージア、ケイティ・レッド、シシィ・ノビー、チーキィ・ブラック、など。ヒップ・ホップに疎い私は、正直馴染みのない方ばかりでしたが、これがかなり良いんですよ! 彼らをフューチャーした「Double It」、「Katey Vs. Nobby」、「Do It Again」などが思いのほか格好良い。前作「FROM THE CORNER TO THE BLOCK」で感じたヒップ・ホップ感とは明らかに違う、もっと猥雑で、エグ味やグロさが半端ない代物になってます。むしろM.I.A.とかディプロとかブラカ・ソム・システマ辺りを想起させられる、無国籍なファンク。でもそれがかえってニューオーリンズ的なガンボ感を産み出していて、他の楽曲と見事なまでに相互作用を繰り返します。
で、この相互作用の源は、やはりギャラクティックが産み出す変幻自在のファンク・サウンドでしょうね。曲が進めば進む程その懐の深い強靭なリズムにハマっていきます。これは間違いなく、ギャラクティックの最高傑作でしょう! ヒップホップに代表される現代的な感覚と、古き良きニューオーリンズの空気感、それをジャム・バンドならではの実験精神で見事に結実させた素晴らしい作品です。
いや~、これは本当にライヴが楽しみですね。豪華ゲスト陣が参加したこの作品をどうライヴで表現するのか? シリル・ネヴィルがどれだけフューチャーされるのかも気になるところ、せっかく来るんですから、がっつり歌って欲しいですね。そしてコーリー・ヘンリーのトロンボーンにも期待です。せっかくなので、コーリー・ヘンリーとシリル・ネヴィルもちょこっとご紹介。
KERMIT RUFFINS WITH THE REBIRTH BRASS BAND / THROWBACK
今やニューオーリンズを代表するトランペッター、カーミット・ラフィンズが古巣のリバース・ブラス・バンドと組んだ05年作。これぞブラス・バンド!な傑作ですね。たぶんコーリー・ヘンリーはこの頃からリバースに加わるようになったのではないでしょうか?違ってたらごめんなさい。
CYRIL NEVILLE / NEW ORLEANS COOKIN'
ご存知ネヴィル兄弟の末弟シリル・ネヴィルによる00年のソロ作。ニューオーリンズ・クラシックを中心に収めた作品で、これも良いんですよね~。そしてここにもアラン・トゥーサンやエディ・ボなどの大御所に混じってコーリー・ヘンリーが参加しています。ちなみに彼、この頃はリルラスカルズ・ブラス・バンドで活躍していました。それと先日亡くなられたばかりのマーヴァ・ライトも素晴らしい歌声を聴かせてくれています。