ルーツな日記

ルーツっぽい音楽をルーズに語るブログ。
現在、 フジロック ブログ と化しています。

ルーツな日記09総決算

2009-12-31 23:15:09 | 2009年総括


さて、毎年恒例の年間ベストアルバムですが、今年は年明けにベスト30を発表したいと思います。対象作品は基本的に今年発売されたCDで、リイシュー作品や発掘音源、映像物は除外しました。もちろん何かのデータを集計したり、客観的に分析し項目ごとに点数を付けたり、そんなことはいっさいしない、私の気分一つのベスト30です。お楽しみに!

で、そのベスト30から除外した作品の中で、あまりの素晴らしさ故にどうしても触れておきたい作品が2つあります。それはビヨークの「VOLTAIC」(写真左)とビヨンセの「I AM ... YOURS(写真右)」。どちらも映像ありきの作品ということで対象外とさせて頂きました。でも年間ベストな出来映えなのです。

ビヨークの「VOLTAIC」は、単なる付録つきのライヴ・ボックスではなく、「VOLTA」というアルバムがほんの序章に過ぎなかったような、あのアルバムの奥に横たわる広く深い世界をたっぷりと見せてくれる、しかもボックスとしての芸術性も高いという、ビヨークならではのアートを感じさせてくれる作品。やっぱりこの雑然としたボリュームに必然性と芸術性を持たせ、一つの作品として高い完成度で纏められるのは、世界広しと言えど、現在はビヨークぐらいしか居ないんじゃないですかね。デラックス・エディションが流行っているなか、こういう作品をドーンと出すビヨーク。あっぱれです!

そしてビヨンセの「I AM ... YOURS」 これはもう、いかに今年のビヨンセがシンガーとして最強かを世に知らしめるような作品。09年8月、ラスベガスのウィン・アンコール・シアターでのステージで、観客数はわずか1500人。サマソニや日本ツアーのショーとはまるで違いますが、それでもビヨンセはビヨンセ。何度も書きますけど最強です。やっぱ声が凄い!! まず尋常じゃない声量。そしてハリがあって勢いがある。もちろん多彩な声音の使い分け、驚異的なフェイク、震えるようなビブラード、どれをとっても最強としか言いようが無い! さらに百面相のようにコロコロと変わる大げさな表情や大仰な踊りには、演技力とか表現力を遥かに越えたブラック・ミュージックならではの“濃さ”がある。これがまた堪らないんです。序盤の「Halo」から鳥肌物のライヴ。


さて、今年も昨年に続き、異様なほどライヴに恵まれた年でした。ベストはやっぱりビヨンセですよね。あのライヴは凄かった。サマソニでのファーストインパクトも驚嘆でしたが、最前列で見れた埼玉スーパーアリーナはさらに圧巻でした。私の脳には「09年のビヨンセ」としてその凄まじさが永遠に刻まれた感じがします。

そのビヨンセを夏フェスに読んだサマソニこそ今年の夏のハイライトでしたが、もちろんフジロックもヤバかった。なにせファンキー・ミーターズとネヴィル・ブラザーズが揃って来てくれましたからね。彼らを野外フェスで観れた喜び。これも永遠に忘れられませんね。シリルが来なくても、雨が降っていても、彼らは最高でした! あとはプリシラ・アーン。徐々にフェスの記憶が薄れていく中、あのプリシラ・アーンの静謐な空気感だけは未だにふっと甦り、その都度甘味な気分にさせられます。

その他で印象に残っているライヴと言えば、まずは8月のマリーナ・ショウ。これは夏フェスに忙しくってレポートを書きそびれたライヴだったんですけど、素晴らしかったです。マリーナ・ショウが74年の大名盤「WHO IS THIS BITCH ANYWAY」そのままのバック・メンバーを引き連れて行ったスペシャル・ライヴ。特にギターのデヴィッド・T・ウォーカーに参りました。ソロではジャズ寄りの作品が多い彼ですが、この日はブルージー&ソウルフル。体をクネクネと揺らしながらスウィートなフレーズを連発。時に甘味なトーンでメロウに、時に強いアタックでブルージーに。ある時はマリーナに語りかけるように、またあるときは挑みかかるように。とにかくデヴィッドのギターは良く歌い、良く語る。ソウル系セッション・ギタリストとして間違いなく最高峰の匠を観た感じです。もちろん主役マリーナの歌声も素晴らしかったです。

ギタリストと言えば、大好きなシカゴ・ブルースのカルロス・ジョンソンも最高でしたし、ウッドストックのエイモス・ギャレットもありました。しかしライ・クーダーに行きそびれたのは痛恨の極みです。

メリッサ・ラヴォーとモリアーティを観た「LAFORET SOUND MUSEUM 2009」も忘れられません。特にモリアーティはライヴ以外にもランデブーというスペシャルなイベントにも参加させていただき、メンバー達と楽しいひと時を過ごせたのは一生物の思い出です。

あとはドニー・フリッツ&ザ・デコイズ、こちらも奇跡の来日でしたね。南部の香りをたっぷ堪能させていただきました。そして年末の上原ひろみ!!!

なんだかんだで今年も充実した1年でした。


来年はキャロル・キング&ジェイムス・テイラー、さらにボブ・ディラン!!! そしてフジロックはどんな面子を呼んでくれるのか?おそらく元旦にあるであろう開催発表を間近に控え、そわそわしています。早く来い来いフジロック!!


では皆様、良いお年を!!

ライヴ納め

2009-12-30 19:18:02 | 余話
年末恒例のゆらゆら帝国を観に、リキッドルームに来ています。ここ数年、毎年最後をゆらゆら帝国でしめています。坂本さんがボソッと呟く「良いお年を」を聞かずして年を越せない感じです。ゲストの巨人ゆえにデカイもめっちゃ気になります。

今年のブライテストホープ

2009-12-30 16:01:48 | 2009年総括
第1位:モリアーティ!!!!

MORIARTY / GEE WHIZ BUT THIS IS A LONESOME TOWN
フランス・デビューは08年だそうですが、日本に紹介されたのは今年ということで。いやはや、このアルバムは相当聴きましたよ。いにしえのジャズやブルースが持っていた魔力をシアトリカル且つ謎めいた雰囲気で甦らせる不思議なバンドです。来日公演も素晴らしかった。


第2位:ジョシュア・ジェイムス

JOSHUA JAMES / THE SUN IS ALWAYS BRIGHTER
男性シンガーの歌唱にここまで胸を打たれたのは本当に久し振り。最近の男性シンガーは優しく歌うのが流行のように思われますが、そういった趣向とは無縁のリアリティを感じさせる歌声です。ライヴはタワレコでのミニ・ライヴしか見たことが無いのですが、生歌はさらにエモーショナルで染みました。次はフジロックで観たいです!


第3位:SARAH JAROSZ

SARAH JAROSZ / SONG UP HER HEAD
最近手に入れたこのアルバムにもやられました。まだ10代の女性シンガー・ソング・ライターで、ギター、マンドリン、バンジョー、ピアノを弾きこなすマルチ・プレイヤー。古き良きフォーク&ブルーグラスな息吹を匂わせつつ、卓越した演奏力でジャム・グラス的な広がりをも持ちます。何せバックにはジェリー・ダグラス、スチュアート・ダンカン、マイク・マーシャルなど、錚々たるメンバーが参加していますからね~。飾らない歌声がまた心地良いです。生で観てみたいですけど、このジャンルでの来日は難しいかな~。

第4位:ダイアン・バーチ

DIANE BIRCH / BIBLE BELT
SSW系ではおそらく今年一番の大型新人でしょうね。70年代を伺わすこの歌声は素晴らしいですね。ニュー・ソウルっぽい雰囲気があるのも堪りません。来日公演に行きそびれたのが悔やまれます。

上原ひろみ@ブルーノート東京

2009-12-29 13:28:22 | ジャズ
上原ひろみ / PLACE TO BE

12月27日、ブルーノート東京へ上原ひろみを観に行ってきました! 私が観たのはこの日の2ndショー。「プレイス・トゥ・ビー」日本ツアーの最終公演であり、上原ひろみにとって今年最後のライヴ。最高でした! 生々しく躍動する彼女の動き、表情、音色。まるで彼女の身体の奥底から音楽が沸き上がるようで、その現場を間近で堪能してまいりました。


先日のサントリーホールは後方の席だったので、今回は出来るだけ近くで体感したいなと、気合いを入れて朝から並びに行ったんです。そのかいあって上原ひろみの表情や体の動き全てが目の前で見える最前列をゲット出来ました。見えないのは手元だけ…。肝心の鍵盤捌きだけはピアノ本体の陰になって見えないという席。でもピアノを弾けない私が彼女の指の動きを見ても仕方ないな、みたいな感じでそこは無理矢理納得することに…。って言うかこんな良い席で贅沢は言えません。

さて、上原ひろみが登場。フロア後方から客席の間をぬって、拍手喝采を受けながらステージへ向かってきます。ブルーノートはこの登場の雰囲気が良いですよね。そしてピアノの前に立つ上原ひろみ。近い!! ほとんど手を伸ばせば届くような距離です。こんな近くで上原さんのライヴを観るのは同じくブルーノートでのチック・コリアとのデュオ公演以来です。

狭いクラブ公演ということもあり、熱狂的なお客さん達が集まったようで、彼女を迎える拍手や歓声には、期待とか、感謝とか、愛とか、そんな熱い物がギューっと込められてるような盛り上がり。まさにホームグラウンドでサポーターに囲まれたライヴのよう。まだピアノに触る前から上原さんの瞳はうるうるしてる感じ。だいたい涙もろいと言うか、感激やさんなんですよね。でもその多感さが彼女の演奏スタイルに刺激を与えてるんだろうとも思います。

1曲目は「I’ve Got Rhythm」。先日のサントリーホール公演と同じ曲でスタート。サントリーホールの時は、いかにもホールに響いた音、って感じで、ピアノというよりホールが鳴っている音を聴いてるような印象でしたが、今回は目の前にピアノがあるわけですから、ダイレクトにピアノの鳴りが耳に入ってきます。あのサントリーホールのピアノの音は本当に素晴らしかったですし、その響きで上原さんの演奏を聴けたのは幸せの極致でした。ですが上原さんらしい切れ味のあるアタック感や左手が繰り出すファンキーなグルーヴ感はやはり今夜の方がビンビンに伝わってきました。この曲の後半も凄かった! 音の跳ね方が半端ありません。

次は「Green Tea Farm」だったかな? 実は今回はメモを取らずにライヴを観ていたので、曲目についてはよく覚えてないんです。すいません。記憶にあるのは「Green Tea Farm」、「Islands Azores」、「Berne Baby Berne」、「Desert On The Moon」、「Pachelbel's Canon」など。数曲では曲の頭に即興っぽい演奏を入れたりしていましたね。でやっぱりどの曲でもその集中力と言うか“入り方”が凄い。いや凄まじい。特に「Berne Baby Berne」のようなアップテンポの曲でのどんどんアヴァンギャルドに入っていく様が圧巻。まるで何かの限界を目指すかのようにアグレッシヴに入っていく。これでもか!と入っていく。そしていよいよ限界値に達したときの爆発力! その瞬間に観客がドワー!!っと沸く。それまで固唾を飲んで見守っていた観客達が一斉に「ヒュー!!」だの「ギャー!!」だの歓声を上げるんです。この一体感はクラブならではでしたね。

「Green Tea Farm」のような静かな曲も最高でした。特にスモーキーなトーンを絞り出すよう弾く時の彼女の感情移入はことのほかブルージーで惹き込まれました。まるで曲と一体化したような彼女のしっとりとした表現力に、会場全体が溶け込んで行くかのようでした。そして曲が終わり、最後の低音がスーっと消え行くまで待っての大喝采。騒ぐ時は騒ぐ、聴く時は聴く、という意識の高いお客さん達も素晴らしかったですね。

緊張感の高い曲が続くなか、「Pachelbel's Canon」は独特の“間”を活かした緩いグルーヴとじゃれ合うよな感じで弾いてたのが印象的でした。そんな上原さんに対し、客席からは自然と手拍子が。それとこの曲はピアノの弦に何か金属の棒のような物を乗せてミュートするのですが、ミュートというより金属的な共鳴を得ている感じで、ちょっとチェンバロのような響きがするんです。たぶんその棒の置き方によって毎日響き方が変わってくるのだと思われるのですが、その微妙なニュアンスを、上原さん自身も楽しんでいるような表情をしていました。

そして本編ラストは「Viva! Vegas」の3部作。左手が産み出すハネたリズムが最高な「Show Cuty, Show Girl」、続くメロウな「Daytime In Las Vegas」も素晴らしかったですが、やはり最後の「The Gambler」でしょう。冒頭のルーレット(スロット?)を表現したパートでは照明もぐるぐる回るといういきな演出。観客も手拍子やらかけ声やらで当たりを願う。2回はずれたあと3回目で大当たり。やんやの喝采の中ジェットコースターのようなスピーディーな曲へとなだれ込む。この瞬間が圧巻でした。さらにこの曲も左手のリズムが驚異的。バウンシーにうねりながらどんどん加速していく感じ。もう堪りません。終わったあとはスタンディングオベーション。

アンコールは異例の3回! 1回目は「Brain Training」。予定ではここで終わりだったのでは?と思えるのですが、その後も拍手が鳴り止まない。再び登場した上原さんはもう涙をこらえきれない様子。そのまま「Place To Be」へ。高揚したアンコールでもスローでは最後の一音の余韻まで堪能して大拍手。そしてそのまま拍手が鳴り止まない。流石に一部のお客さん達は帰り始めたようでしたが、熱狂的な方々は諦めない。もう仕方ない雰囲気を感じさせつつ上原さんが戻って来る。歓喜に包まれる会場。彼女はステージに足を一歩踏み入れた瞬間にピアノに駆け寄り、飛びつきざまに「The Tom and Jerry Show」。ロックでした!

終わったあと、時計を観たら22時55分。開演予定時刻が20時45分でしたから2時間越えですか? 2部制のブルーノートにしては長丁場でした。といっても開演時間は多少押してたようですし、2度目と3度目のアンコールの間には相当な時間が流れてましたけどね。10分ぐらいは拍手し続けてたのではないでしょうか?

上原さんの演奏はいつでも素晴らしい。即興主体ながらはずれはない。そしてピアノを弾く上原さんと、それを聴く観客達の間に、気持ちの上でのコール&レスポンスが確実にある。サントリーホールでの広い会場を巻き込んでいく高揚感も素晴らしかったですが、それとはまた違う、狭い空間ならではの親密な一体感がまた、素晴らしいライヴでした。

さて、今後の活躍がますます楽しみな上原さん。来年はどんなスタイルでの演奏を聴かせてくれるのか? 今回のピアノ・ソロでは、上原さんが根源的に持っているようなポリリズミックに跳ねるリズム感を実感したので、そんなリズムに重点を置いた作品を作って欲しいな~なんて思ったり。



~関連過去ブログ~ お時間有ったらぜひ!

 09.12.19 上原ひろみ@サントリーホール
 09.09.11 上原ひろみ@表参道ヒルズ
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@ブルーノート

2009-12-27 19:12:06 | ジャズ
今日は上原ひろみを観にブルーノート東京に来ています。朝早くから並んで寒かったです。あまりにも沢山の人が列びすぎたせいか、予定より早く整理券を配布してれたので、助かりました。2ndステージの開場までまだ少しありますけど、既にドキドキしています。ジャパン・ツアー最終公演なので盛り上がりそうです!しかもクラブ公演ですしね!

サム・カーを偲ぶ

2009-12-26 21:20:10 | ブルース
SAM CARR'S DELTA JUKES / LET THE GOOD TIMES ROLL

今年も悲しいことに沢山のアーティストが逝ってしまいました。忌野清志郎とマイケル・ジャクソンの訃報には本当に驚き、しばらく呆然としてしてしまいました。

でも私にとって一番の喪失はスヌークス・イーグリンでした。大好きなギタリストでした。そしてエディー・ボーも。この二人のニューオーリンズ・レジェンドの死は悲しすぎます。

レス・ポール。学生時代ギタリスト志望だった私はストラトより断然レス・ポール派でした。

さらにピーター・ポール&マリーのマリー・トラヴァース。

ザ・フラミンゴス~ザ・デルズのテナー、ジョニー・カーター。

メンフィスの名鍵盤奏者にしてかのディキシー・フライヤーズの中心人物ジム・ディッキンソン。

スワンプやカントリー・シーンでの名演も光った西海岸の名キーボーディスト、ラリー・ネクテル。

ニュー・ロスト・シティ・ランブラーズのメンバーで60年代フォーク・リヴァイヴァルの立役者マイク・シーガー。

チェス時代のリトル・ウォルターをはじめ、70年代以降もボビー・ブランドやジョン・メイオールなど数々のセッションをこなした名ブルース・ギタリスト、フレディ・ロビンソン。


悲しいですね。「ルーツな日記」としてもとても無視出来ない方達が沢山亡くなられてしまいました。なのに満足な追悼記事を書かずじまいのうちに年を越えてしまいそうです…。そしてもう一人、個人的に大好きだったアーティストが亡くなられています。それはサム・カー。サザン・ビートはこの人にあり!って感じの南部ブルース・ドラマーです。9月21日、ミシシッピ州クラークスデイルの養護施設で亡くなられたそうです。心不全だったとか。享年83歳。

1926年ミシシッピ州生まれ。父親はかのロバート・ナイトホーク(ロバート・リー・マッコイ)です。サム・カーと言えば、名サザン・ハーピスのフランク・フロスト、ギタリストのビッグ・ジャック・ジョンソンと組んだジェリー・ロール・キングスが有名ですね。3人のローカル色濃厚な演奏が堪らなくディープで、特にサム・カーの叩くいなたいシャッフル・ビートは、聴く者を瞬時に南部へとトリップさせてくれました。

そしてサム・カーはフランク・フロストと共に来日もしています。97年のパークタワー・ブルース・フェスティヴァルでした。今思えばよくぞ呼んでくれました!って感じですね。あの頃のパークタワーのブッキングは神がかっていました。もちろん私も観に行きましたよ。もう彼らのライヴは完全に異空間。新宿の高層ビルの中なのに、ほとんど自分家の庭先で演っているような雰囲気でした。それがまた良い味わいなんですよ。南部の空気をしっかり感じさせてくれました。

その後サム・カーはフランク・フロストと二人名義のアルバムを出したり、フロストが亡くなられた後はSAM CARR'S DELTA JUKES名義で作品をリリースしたりと、地味ながらも確実にサザン・ビート・マスターとしての存在感を示しくれていました。でもそんなマニアックな活動の他に、実は最近、意外なところで彼の名を見つけたのです。それは今年のフジロックを熱いファンク魂で沸かした、イーライ・リードのデビュー作「ROLL WITH YOU」の日本盤解説。

それによりますと、イーライ・リードは18歳でクラークスデイルに移り住み、そこでサム・カーから個人授業を受けていたそうなのです。デビュー前のイーライ・リードがまさかサム・カーからレッスンを受けていたなんて! でもイーライ君はサム・カーから何を習ってたんですかね?やっぱりドラムですか? 何はともあれ、イーライ君のあの熱き南部魂は、サム・カーから伝授されたものなのかもしれません。

それにしても今をときめくイーライ・リードのライナーにサム・カーが出てくるなんて! そんな予想外なサプライズに喜んでから間もなくの訃報でした。

サム・カーさん、安らかに。


*上写真はSAM CARR'S DELTA JUKESの07年作「LET THE GOOD TIMES ROLL」。おそらくサム・カー名義では最後の作品。DELTA JUKESというバンドでの録音ということだと思うのですが、バンド・メンバーをはじめ録音データの記載がいっさいないので、よく分かりません。写真もサム・カーだけですしね。サウンド的には妙に骨太すぎてサム・カーの魅力が若干損なわれているようにも思えますが、ふくよかなシャッフルビートは健在です。




FRANK FROST / HARP & SOUL
そしてこちらはフランク・フロストの66年ジュウェル・セッションを収めたアルバム「HARP&SOUL」。サザン・ブルースの聖典的な大名盤。色々な装釘で出されていると思いますが、これは90年にP-VINEからリリースされたもの。フロスト名義ではありますが既にジェリー・ロール・キングスの3人が揃っています。 何故かハーピストのフロストはほとんどハープを吹かず、ほぼヴォーカルに専念。代わりにこちらもサザン・ハープの代表格アーサー・ウィリアムスが土臭くも勢い満点のハープで歴史的な大熱演をしています。全編でドラムを叩くサム・カーのビートはまるで南部の風ようです。



JELLY ROLL KINGS / ROCKIN' THE JUKE JOINT DOWN
ジェリー・ロール・キングス名義での初アルバム「ROCKIN' THE JUKE JOINT DOWN」。79年の作品。驚異的なローカル色を全面に出した奇跡のトリオです。三者三様の個性が南部の臭気をまき散らします。特にフロストの弾くキーボードの音色とフレーズが恐ろしい程にチープで、これが絶妙な味わいを醸します。そのチープさと、サム・カーを中心にしたハネたリズムはまさに“ ROCKIN' "です! こちらも大名盤。



JELLY ROLL KINGS / OFF YONDER WALL
ファット・ポッサム入りしてエグ味がさらに増した97年作。ちょうど来日した頃にリリースされた作品で、私もよく聴きました。フロストはハープを吹かず、キーボードに専念。その分、ビッグ・ジャック・ジョンソンのギターがフューチャーされた作品。



FRANK FROST & SAM CARR / THE JELLY ROLL KINGS
ビッグ・ジャック・ジョンソンが抜けてバンドではなくなり、フランク・フロスト&サム・カー名義となりましたが、アルバムタイトルが「ザ・ジェリー・ロール・キングス」。ってどんだけこの名が好きなんでしょう?って感じですね。でもジャクソンが居ないせいか、フロストがハープを吹きまっくていて、サム・カーのドラムも軽快に走る、まさに痛快な作品。相当良いですよ! サザン・ブルースここにあり!


上原ひろみ@サントリーホール

2009-12-19 08:24:54 | ジャズ
上原ひろみ / PLACE TO BE

12月14日、サントリーホールへ上原ひろみを観に行ってきました。これはね~、ホント楽しみにしてました。サントリーホールってところが良いですよね。今回はバンドではなくソロ・ピアノ公演。でも正直、これが発表されたとき、なんでサントリーホール!?って思いました。サントリーホールと言えば、日本で最も権威のあるクラシック・ホール、という印象を私は持っています。実際、スケジュールを見てもほとんどクラシックで埋め尽くされています。ちなみに上原ひろみの前日は新日本フィル、さらにその前はホセ・カレーラスのクリスマス・コンサートです。もちろん、クラシック以外のコンサートが全く行われない訳ではありませんが、やっぱりそんじょそこらのホールとは違う特別感を感じます。ちなみに私にとってちゃんとチケットを買ってこのホールに来たのは、おそらく学生時代にソプラノ歌手のアプレーリ・ミッロを見に来て以来だと思います。

*ここからはコンサート内容に触れますので、これから観に行かれる方はご注意ください。


さて、上原ひろみです。ヴィンヤード形式と呼ばれる、ぶどうの段々畑を模した観客席に囲まれたステージ。その中央にグランドピアノが佇みます。開演前、主人を待つそのグランドピアノの静かな姿に、否応なく今夜のライヴへの期待値が高まっていきます。そしていよいよ主役の登場です。ピアノの妖精のような衣装に身を包んだ上原ひろみ。大歓声が巻き起こるなか、彼女がピアノの前に座ると水を打ったように静まり返る。シーンとした中、鍵盤を前に精神統一する彼女の姿がいつもより長いように感じる。そして始まったのが「I’ve Got Rhythm」。流石にサントリーホール、音が良いです。粒立ちがよい音色がホール全体に柔らかく広がる感じ。アコースティックな質感を最大限に響かせた音。それゆえにロック・コンサートに慣れた私の耳には音が小さくも感じましたが、繊細な音の表情全てを聞き逃すまいと、反って集中して上原ひろみに対峙することが出来たかもしれません。そんな中、上原ひろみは速射砲のような早弾きで鍵盤の高音部から低音部まで何度も一気に駆け抜けていきます。サントリーホールだからと言って別に特別なことをする訳ではありません。いつもの上原ひろみです。って言うよりいつも以上に上原ひろみな感じ。

とにかく曲への“入り”方が凄まじい。彼女が一心不乱にピアノを弾く姿はもうお馴染みですが、これまでのバンド活動や他アーティストとのコラボレーションでは、相手の音を聴いてそれに対してどうする?みたいな感覚が多々あったはずで、もちろんそこが面白くもあったのですが、ピアノ・ソロの場合は、対ピアノに没頭するより他はなく、ただひたすら鍵盤に全神経をぶつけ、曲に入り込んでいく。その凄まじさはある種の“狂気”すら感じさせる。もちろん表現者としてこの上なく魅力的で素敵な“狂気”です。

激しい曲では息つく暇もないほどに鍵盤の端から端までを叩きまくり、時には肘も使いながら、トリッキー且つ躍動感たっぷりなリズムやフレーズを次々に繰り出して来る。顔を歪めたかと思えば笑顔になったり、また恍惚とした表情を見せたり。そしてスローな曲で魅せる陶酔したかのような感情表現は、まるで完全に曲と一体化したエモーショナルのかたまりのよう。そして何より全ての曲で、一音目を弾き始めると同時に“入る”集中力が凄まじく、曲が進めば進むほどさらに“入って”いく感じはまさに鳥肌もの。

もちろんいつもの低い唸り声も聴こえてきます。曲によってはもう唸りっぱなし。そして「うん!」とか「あん!」とか気合いのかけ声! さらに珍しく高い声でしっかりメロディーを歌っちゃってる場面も何度かあったり。リズミカルな曲では足をドンドン!ドンドン!と踏みならしながら弾く。そして立ち上がる。さらにスローな曲でも立ち上がる。って言うかほとんど立ちっぱなし。沸き上がる感情に立ち上がらずにはいられないんでしょうね。踊るように体をくねくねさせながら繊細なフレーズを絞り出すように弾く。そんな姿にはなんかジャズよりブルースを感じさせられたり。

前半は「I’ve Got Rhythm」、「Sicilian Blue」、「BQE」、「Somewhere」、「Berne Baby Berne」、「Choux A La Creme」という流れでしたが、もちろんどの曲も素晴らしかったです! 特に最も“狂気”を感じた「BQE」、泣きそうなぐらい染みた「Somewhere」、ハネたリズムとベース・ソロで一気に観客を引き込んだ「Choux A La Creme」は最高でした。そしてそんな演奏とは真逆に、相変わらず脱力なMCも彼女のライヴには不可欠ですね。今回のツアーのテーマでもある「世界をめぐるピアノとの旅」にちなんだ曲の背景など、思いのほかよく喋ってくれているのが印象的でした。

そして15分の休憩を挟んで後半へ突入。

私のような後ろの方の席の人にはいまいち違いが分からない程の微妙な衣装チェンジをして登場。スロー・ナンバー「Green Tea Farm」から始まり、「Capecod Chips」、「Desert on the Moon」、「Pachelbel’s Canon」と続きます。新作中心の中で「Desert on the Moon」の選曲は光っていましたね。個人的には「Pachelbel’s Canon」を演ってくれたのが嬉しかったです。上原ひろみにしては恐ろしく音数の少ない曲ですが、いい“間”を持ってるんですよ!

そして「Viva! Vegas」の3部作! この曲はこのツアーのハイライトでしょう! 本人もMCで「この曲は運しだい」みたいなことを喋っていましたが、まさに運試しが観客を巻き込んでいきます。運が悪かったら第3部「The Gambler」は始まらないかもしれません! ま、そんなことはないでしょうけど、これから行かれる方はお楽しみに。“運”を呼び寄せた時の彼女の表情にも注目です。で、歓喜の中始まった「The Gambler」がまた最高でした! 目が回るような曲展開をアヴァンギャルド且つスピーディーに駆け抜け、終わった後は観客総立ちの大喝采。

アンコールは「Place to be」。そしてみんなが大好きな「The Tom & Jerry Show」。観客が一体となっての大手拍子が巻き起こります。その手拍子でピアノの音が聞こえない程。上原ひろみもそれに応えるべくアグレッシヴに弾きまくる。ステージをぐるりと観客席が取り巻いてる分、その一体感はいつも以上に高揚感を誘います。もちろん上原ひろみもこの一体感を体感していたことでしょう。弾き終わった後その充実感を表すように、立ち上がって両手を挙げてのガッツ・ポーズ。そしてピョン!と飛び跳ねました。ホント素敵な人です。

そして客電がつき、終演のアナウンスが流れ、観客達もホールを後にし始めるなか、私を含めた諦めの悪い観客は拍手を辞めない。もしやと思いましたけど、そこはやはり上原ひろみ、調律師の方を紹介するため再度ステージに登場。そしておもむろに鍵盤を叩く。曲は「Brain Training」。私もここぞとばかりにステージ前まで駆け寄りました。上原ひろみは弾きながら観客を煽る煽る。完全にロック・モード。痺れました! この最終曲を含めた終盤の盛り上がりは、まるでアーティストと観客の気持ちが一つになっていくドラマのようでもあり、上原ひろみが奏でる音楽の力を感じさせられました。

終わったあと時計を観たら22時! 開演が19時でしたから、3時間ですよ! ま、途中15分の休憩がありましたけどね。ピアノだけでこの長丁場。凄いエネルギーです。やはりある意味“狂気”です。そしてその“狂気”に乾杯です!!

次はブルーノート。あ~、クリスマス・コンサートも行きたかったな~。




~関連過去ブログ~ お時間有ったらぜひ!

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 07. 9.27 チック・コリア&上原ひろみ@ブルーノート東京 
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