C. J. CHENIER / MY BABY DON'T WEAR NO SHOES
5月19日、ブルーノート東京にて、クレオール・ジョー・バンドを観てまいりました。私が観たのは2ndショー。彼等のブルーノートにおける最終公演です。
中心人物はジョー・サンプル。かのクルセイダーズでの活躍でも知られるフュージョン界の大物鍵盤奏者。彼が自身のルーツでもあるクレオールの音楽をやるために12年もの構想を経て結成されたというのがこのクレオール・ジョー・バンド。クレオールとは、アメリカ南部のルイジアナに根付く独特の文化で、その期限は18世紀、その地方がまだフランス植民地だった頃に遡り、原住インディアンとフランスやスペインからの移民者、さらにはアフリカからの黒人奴隷など、様々な異文化が交合して作られたそうです。その文化は綿々と現在まで受け継がれ、その音楽はザディコと呼ばれています。
では何故ウエストコースト一派との印象が濃いジョー・サンプルがザディコを? 実はジョー・サンプルはテキサス州ヒューストンの生まれ。そのジョーが生まれる10数年前に当たる1927年、ルイジアナはミシシッピ川の氾濫による大洪水に襲われました。ランディー・ニューマンが「Louisiana 1927」で歌ったあの惨事です。住む家を失った多くのルイジアナの人達がヒューストンへ移り、その新天地にクレオールの文化を持ち込み、根付かせたようです。そんななかでジョー・サンプルは生まれ育ったのです。幼い頃、教会でザディコに親しみ(その頃にはまだザディコという言葉はなく、ララ・ミュージックと呼ばれていたそうですが)、ザディコの王様クリフトン・シェニエに入れこんだそうです。彼にとってクレオール・ミュージックはまさにルーツな訳なのです。
そんなジョー・サンプルがクレオール・ジョー・バンドを結成するにあたって集めたメンバーがこの夜の九人衆。まず真っ先に紹介したいのがC.J.シェニエ。今は亡きクリフトン・シェニエの息子さんです。父親同様にアコーディオンを弾きながら歌い、ザディコの第一線で活躍しています。ジョー・サンプルにとっては幼い頃に憧れた人の血を受け継ぐ人ですから、C.J.シェニエこそがこのバンドの象徴と言っても過言ではないでしょう。そしてザディコに欠かせないラブボード、いわゆる洗濯板ですが、それをかき鳴らすのがジェラルド・シェニエ。この人は
ブルース銀座さんのブログによりますと、C.J.シェニエの従兄弟だそうです。そしてドラムスには現在ジョン・クリアリーのバンドでも活躍するダグ・ベローテ。さらにギタリストには我らが山岸潤史と、ニューオーリンズ所縁の強者で固めています。さらに紅一点のヴォーカリスト、シャロン・マーティンもかの地のジャズ・フェスに名を連ねている人なのでニューオーリンズのシンガーなのでしょうね。そしてキーボーディストのスキップ・ナリア。この人はゲイトマウス・ブラウンなどのバックも務めていた方のようですが、おそらくジョー・サンプル陣営からの参加ですかね? ベースはジョー・サンプルの息子ニック・サンプル。最後にジョー・サンプルとの付き合いも長い、ゴースト・バスターズのレイ・パーカー・JR.!
*ここからはコンサート内容のネタバレになります。これからコンサートに行かれる方は読まれないことを推す勧めいたします。
さて、ほぼ開演時刻の9時半にメンバーが登場。ステージ中央に左からシャロン・マーティン、レイ・パーカー・JR.、C.J.シェニエと並びます。私の席は前から2列目、C.J.シェニエの正面。彼は真っ赤なスーツに真っ赤なズボン、真っ赤な靴に真っ赤な帽子と、目も覚めるような赤ずくめ。スーツの下のシャツだけが黒。そしてジャラジャラとしたネックレスにギラギラのバックル。ド派手です!濃いです! そしてオーバーオールを着込んだレイ・パーカー、頭をターバンのように白い布で巻いたシャロン・マーティンと、皆さんそれぞれ個性的。主役のジョー・サンプルは右端のキーボードの前に座ってアコーディオンを弾くという控えめな感じ。
1曲目はテーマ・ソング的な「Creole Joe」。この曲を含めた数曲はブルーノートのサイトで試聴出来たので、予想はしていましたがかなりポップで親しみやすい感じ。個人的にはもっとグラグラと煮立つような泥臭いザディコの方が好みなのですが、これはこれで文句無しに楽しい! セット・リストはオリジナル曲が中心だったようで、ほとんどが聴いたことのない曲でしたが、どの曲も一聴して耳に馴染じんでくるキュートな曲ばかり。「Louisiana Loving」「Zydeco Zoo」と続く序盤からメンバー紹介を兼ねたソロ回しへ。ギター、ベース、ドラムスとそれぞれ聴かせてくれましたが、ひときわ盛り上がったのがラブボードのジェラルド・シェニエ。それまで後方で地味にシャカシャカやっていた彼でしたが、紹介されるやいなやステージ前方へと躍り出る。観客にとっても一番馴染みが薄い楽器なせいもあり、その肩から下げた洗濯板をお腹のあたりでジャリジャリ擦る姿に拍手喝采!さらにステージから降りて客席を練り歩きながらジャリジャリ鳴らすジェラルド。なかなか魅せてくれます!
実はこの時、C.J.シェニエはアコーディオンを持たずに歌っていたんです。一通りソロを回した後、レイ・パーカーがおもむろに演奏を止めさせ、C.J.シェニエに「君はソロやらないのか?」みたいな突っ込みを入れる。そして「赤い帽子!赤いズボン!赤い靴!」みたいに囃される。それを受けてCJはモニター・スピーカーの上に自慢げに靴を乗せて見せびらかせてみたり。そして銀ピカのアコーディオンを持ち、満を持してのソロを披露。さすがに華麗な指捌きでしたね。今回のステージではジョー・サンプルもアコーディオンを弾きますが、ことアコーディオンに関しては、CJの方が一枚も二枚も上手な感じでしたね。でもジョー・サンプルのアコーディオンも独特のタイム感が良い味を出してて凄く良かったです。
それにしてもジョー・サンプルは終始控えめな感じでしたね。MCでこのバンドのことやクレオール・ミュージックについて色々語ってくれましたけど、ステージ場で目立ったのはフロントの3人でした。バンマス的に仕切っているのもC.J.シェニエのように見えましたし、レイ・パーカーがジョークを言いながら全体を引っ張っているようにも感じました。でもやっぱり底辺でジョー・サンプルが支えているという印象も受けましたし、それ以上にメンバーのジョー・サンプルに対するリスペクトを強く感じさせられました。ジョー・サンプルの元に集まったザディコ・バンドですからね。
そしてこの夜、最も熱きザディコのリズムを感じたのは「Zydeco Bugaloo」(ブルーノートに掲載されたセット・リストはこの綴りですが、本当は「Zydeco Boogaloo」?)。これはもう、ザディコ・スタンダードと言っても良い有名曲ですね。これは正直燃えました。やはりこういう曲を弾くC.J.シェニエのオーラは凄いものがありましたし、彼の鍵盤から繰り出されるガンボなリズムは濃密そのものでしたね。文句無しに格好良かったです。さらにハンク・ウィリアムスの曲ながらほぼニューオーリンズ・クラシックな「Jambalaya」。このメンバーでこの曲聴かされたら、思わず笑みがこぼれるというか、終始ニコニコ顔で聴くしかないですよね~!
そういったルイジアナなノリを堪能する一方で、メンバー個々の技も存分に楽しませてくれました。山岸潤史とレイ・パーカーのギター・バトルになったのは「Give Me One Good Reason」だったかな?シャロン・マーティンをフューチャーしたスロー・ナンバーでしたが、ブルージーに感情移入しまくる山岸潤史に対して、洗練されたキレで応えるレイ・パーカー。この二人の対比は面白かったですね~。
レイ・パーカーと言えば、ある曲でメンバー間の長尺ソロを回していた際、さあ、いよいよレイ・パーカーの番と言う時に、ギターを弾かず体をゆらゆら揺らして踊ってる。客から“ピーピー”言われると、”OK”みたいな表情をして今度は後ろにくるっと振り返る。そしてお尻をフリフリ振り始める。客席からは笑いが漏れつつ「いいからギター弾けよ!」的な雰囲気が充満。さすがにそれを悟ったレイ・パーカー。“やるぞ!”という目つきで指をペロペロ舐め、手のひらをすりすり揉み、結局なかなか弾かない…。しかし焦らしに焦らした挙げ句に繰り出したのは伝家の宝刀的なギター・カッティング!これはもう彼の独壇場ですよ! フォームを変えながらネチネチと軽快に刻むグルーヴは流石の一言!これでモータウンの時代から世を渡ってきたんですからね!流石ですよ!
さらに彼の見せ場はもう1曲「Please Forgive Me」。これは「Jambalaya」の次にやった曲で、あの和気あいあいな楽しい雰囲気が一気にアダルトな色へと変わったR&Bバラード。レイ・パーカー自ら歌いますが、まさに大人の時間な感じ。最前列に女性を見つけては語りかけるように歌う。しまいには観客席に降りていき、若くて奇麗な女性を見つけると、その目の前の席に腰掛け、ほぼマンツーマン状態で歌い続ける。さらに彼女の手を取り、立ち上がらせ、チークダンスを踊りだす。そして恍惚の表情で「アイ・ラヴ・トキオ~!」なんて口走って笑いを誘ったり。ちなみにこの曲でも山岸潤史が堪らなくブルージーなソロを披露して盛り上げたことを付け加えておきます。
それにしてもレイ・パーカーは良いキャラしてましたね。程よいエロさと言うか、お茶目なダンディズムと言うか。正直、バックに徹すると勝手に予想していたレイ・パーカーがこれほどのエンターテイナー振りを見せてくれるとは少々驚きでした。耳からかけるタイプのコードレス・マイクを使っていたこともポイントですね。
もちろん後半になるとジョー・サンプルの見せ場も有りましたよ!キーボードでラグタイム調からフリーキーに発展させブギウギへ展開したソロは流石でしたね。さらにアコーディオンでC.J.シェニエとの掛け合いも有りましたし。座ってるジョー・サンプルが立ち上がってCJへ挑むような姿勢を見せた時は盛り上がりましたね~!
本編ラストは「Creole Joe Groove」。1曲目にやった曲のリプライズのような感じでしょうか。これはもうダンス天国! 観客もみんな立ち上がって踊りまくりましたね。それまでわりとクールだったC.J.シェニエもハジケてました。笑顔でノリノリ。そしてアンコールは「Jambalaya」。こちらは先程のハンク・ウィリアムス曲とは違うおそらくオリジナル曲。やはり和やかで楽しい曲調。良いですね、こういう曲。この曲もブルーノートのサイトで少し試聴出来ます。そしてメンバー全員がステージ前に並んで一礼。やんやの拍手。なんか良い雰囲気でしたね。
やはりルイジアナのノリは良いですね~。ポップでしたがディープでした。本場のザディコを日本で観れる機会は滅多にないので、楽しくも貴重な一夜になりました。
終演後、客席後方でうろちょろしていたC.J.シェニエをつかまえてサインを頂きました。そして握手。いや、握手と言うより手を鷲掴みにされた感じ。デカイし、勢いがある。そして力強かった!
セットリスト
01. Creole Joe
02. Louisiana Loving
03. Zydeco Zoo
04. Boomti Boomti Boom Boom
05. Give Me One Good Reason
06. Zydeco Bugaloo
07. Louisiana Woman, Texas Man
08. Jambalaya (On The Bayou)
09. Please Forgive Me
10. Zydeco Train
11. Creole Joe Groove
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12. Jambalaya
*ほとんど知らない曲でしたが、ブルーノートのサイトに掲載されていた公演初日のセットリスト片手に観た結果、アンコール以外は一緒だったと思います。間違っていたらごめんなさいね。
*それと私、英語はさっぱり分からないので、本文の会話部分については雰囲気というか、そんなイメージです。すいません…。
*写真はサインを頂いたC.J.シェニエの「MY BABY DON'T WEAR NO SHOES」。バックに父親が率いたTHE RED HOT LOUISIANA BANDを従えた88年作。ラブボードは叔父(クリフトン・シェニエの兄)クリーヴランド・シェニエ。この人がラブボードを現在の形にしたとも言われています。