ルーツな日記

ルーツっぽい音楽をルーズに語るブログ。
現在、 フジロック ブログ と化しています。

@六本木

2010-11-13 16:44:20 | ルーツ・ロック
今日は六本木umuへ、ボブ・ディランの絵画展を見に来ています。89年から92年のツアー中に書き溜めた作品達だそうです。まあ、正直、絵の良し悪しはよく解りませんが、独特の迫力はありましたね。自画像なんかがあったらもっと面白かったのに…。なんて思いながら。でもこれらを、あのディランが描いたと思うと感慨深かったですね。

そしてこれから、渋谷タワーレコードで、ボブ・ディランに関するトークショーがあるので、そちらへ移動中。今日はディランのハシゴです。

アーロン・ネヴィルの新作

2010-11-13 12:20:51 | ゴスペル
AARON NEVILLE / I KNOW I'V BEEN CHANGED

ニューオーリンズの至宝、アーロン・ネヴィルの最新作「I KNOW I'V BEEN CHANGED」。プロデュースはあのジョー・ヘンリー。

アーロン・ネヴィルのソロ作というと、極上カントリー&ソウルなサウンドに麗しのヴェルヴェット・ヴォイスが乗るというイメージがありますが、ジョー・ヘンリーは近年、独特の陰影に富んだルーツ解釈で数々の名盤を演出してきた奇才。この二人の組み合わせどんな作品を生み出したのか?しかもその内容はゴスペル・アルバムと言いますから、これは期待するなと言う方が無理な話ですよね~。

ジョー・ヘンリーがバックに集めたのは、ジェイ・ベルローズ(ds)、デヴィッド・ピルチ(b)、パトリック・ウォレン(kbd)、グレッグ・リーズ(Dobro & Weissenborn)、クリス・ブルース(g)という、まさにジョー・ヘンリー・バンドと言っても良いような布陣。さらにここへアラン・トゥーサン(p)が加わる。アラン・トゥーサンと言えば、言わずと知れたニューオーリンズ・レジェンドですし、アーロン・ネヴィルの初期シングルのプロデュースも手がけてきた人。その一方で、最新作「THE BRIGHT MISSISSIPPI」やエルヴィス・コステロとの共演作「THE RIVER IN REVERSE」はジョー・ヘンリーのプロデュースで製作されるなど、両者と深い繋がりがあったり。まあ、とにかくここでのアラン・トゥーサンの存在というのは相当大きいい。

今作は、あくまでもアーロン・ネヴィルのソロ作である一方で、ジョー・ヘンリーによる米ルーツ・ミュージック解釈の旅路の一つという見方も出来ます。ランブリン・ジャック・エリオットの「A STRAGER HERE」でブルースを、アラン・トゥーサンの「THE BRIGHT MISSISSIPPI」ではニューオーリンズ・ジャズを、キャロライナ・チョコレート・ドロップスの「GENUINE NEGRO JIG」ではオールド・タイムな黒人ストリング・バンドを。そして今作ではゴスペルな訳です。しかもアーロン・ネヴィルと共にゴスペル作を作るにあたって、自身のサウンドの中にアラン・トゥーサンを加えるというこのさじ加減。やはりジョー・ヘンリーですよ!

1曲目「Stand By Me」のオープニングからジョー・ヘンリー・ワールドが炸裂します。チャールズ・アルバート・ティンドレイの古~いゴスペル。スピリチュアルなアーロンのゴールデン・ヴォイスから始まり、そこにアラン・トゥーサンの特徴的なピアノが絡む、コーラスが低く唸り、グレッグ・リーズのリゾネーター・ギターがグワワワ~ンと響く。素晴らしい!!! この独特の深い陰影を感じさせるアンサンブルはさすがジョー・ヘンリー。アーロンは神への救いをファルセットに込める。それはこれまでにない程に土っぽいフィーリングを感じさせ、アーロンでしかあり得ない小節回しが聴くものを異次元へ誘います。テンポが速くなってからのアーロンとコーラス隊との歯切れの良いコール&レスポンスも良いですね~。

ジョー・ヘンリーがプロデュースということで、ちょっと暗い感じになるかと思いきや、意外と陽性な曲が多いですね。「I Done Made Up My Mind」や「Don't Let Him Ride」など、アップ・テンポな曲が目立ちます。トラディショナルな息吹と、ジョー・ヘンリーらしいミクスチャーなルーツ指向がいい具合にブレンドされています。そしてこれまでにないほど生々しく響くアーロンの歌声にはうっとりですよ!まさにゴールデン・ヴォイス。全盛期に比べたら衰えたかもしれませんが、それすらも繊細な味わいとして響かせている。歳を重ねてまた新たな輝きを増しています。

そしてベルローズ&ピルチとアラン・トゥーサンが奏でる表情豊かなリズムが良いですね~! ここでのこの組み合わせはトゥーサンのソロ作とはまた違うふくよかな魅力を感じさせてくれます。特にアラン・トゥーサンは全体を通してフューチャーされてまして、なんとも言えない愛らしいピアノを披露してくれてます。タイトル・トラックの「I Know I've Been Changed」なんて、間奏になると急にトゥーサン流R&Bな世界になってニヤけてしまいます。「I Want To Live So God Can Use Me」もイントロからそんなトゥーサン流が炸裂していて最高!

選曲もゴスペル集でありながらなかなかひねりが利いていて興味深いです。黒人フォーク歌手、オデッタの名唱で知られる「Meetin' At The Building」。オデッタは有名なカーネギーホールでのライヴ盤で、ただベースと手拍子のみをバックにこの曲を歌っていますが、今作でも序盤、アーロンのバックはベースと手拍子のみ。途中からギターが入ってきますけどね。でもこれはあきらかにオデッタへのオマージュでしょうね。飾り気のないフォーキーなアーロンの歌声が堪らなく滲みます。

ローリング・ストーンズがカヴァーしたことでも知られるフレッド・マクダウェルの「You've Got To Move」。マクダウェルはデルタ・ブルースの大物ですが、この曲は彼のスピリチュアルズ作品にも収録されている曲なので、ブルースでありながら、ゴスペルと共通する部分もあるんでしょうね。悪魔の音楽と神の音楽とは言え、スピリチュアルズ、ブルース、ゴスペル、この辺の線引きは結構微妙だったりしますし、そんな微妙な境界線を行ったり来たりするあたり、流石はジョー・ヘンリー! で、この「You've Got To Move」、雰囲気やメロディーは原曲とは全然違い、もっと明るい感じ。アラン・トゥーサンのピアノが良いんですよ!遊び心を感じさせる変わったソロを弾いていて。もちろん 跳ねる伴奏も素晴らしいです!

カントリー・ギターの巨匠マール・トラヴィスの「I Am A Pilgrim」。バーズがロデオでカヴァーしてるのでロック・ファンにも同じみの曲ですね。やっぱりカントリーを歌うアーロンは良いですね。暖かい地声の響きと、ここぞというタイミングで切り替わるフワッとしたファルセット。グレッグ・リーズのスライドもまろやかで良い感じですね。ゴスペル作品にカントリーなリゾネーター・ギターという味わいは、この曲に限らず、今作全体で独特なムードを醸しています。ビッグ・ビル・ブルーンジーの「Tell Me What Kind Of Man Jesus Is」なんかも良いですね~。

必殺のスロー・ナンバー「Oh Freedom」。これも古い黒人霊歌なんでしょうけど、なんとなくプロテストソング的なイメージもありますよね。 私なんかは60年代にオデッタやジョーン・バエスなんかが歌ってた曲という印象なんですけど。アーロンは過去にボブ・ディランの曲も歌ってますし、なんかそんなことを考えたり。まあ、どちらにしろ大スタンダードですよね。言葉一つ一つに深い感情を込めるかのようなアーロンの歌声が素晴らしいですね。トゥーサンのピアノソロも良いし、グレッグ・リーズのスライドも効いてます。

ソウル・スターラーズでも知られる「I'm So Glad (Trouble Don't Last)」。アーロンはサム・クックが好きなんでしょうね。カントリー曲「I Am A Pilgrim」についてもライナーで「サム・クックが昔この曲を歌っているのを聴いた」的なことを語ってますし。で、いかにもゴスペルな高揚感たっぷりな「I'm So Glad (Trouble Don't Last)」で盛り上がった後、ラストを締める「There's A God Somewhere」。これはもうソウルフル!素晴らし過ぎるトゥーサンのピアノと、もうほとんど神がかってるとしか言えないアーロンのゴールデン・ヴォイス。最高です!

嗚呼、このメンバーで来日してくれないですかね~。