徒然地獄編集日記OVER DRIVE

起こることはすべて起こる。/ただし、かならずしも発生順に起こるとは限らない。(ダグラス・アダムス『ほとんど無害』)

悪意のスパイラル/「激突!」

2011-01-08 07:28:38 | Movie/Theater
激突!
Duel
1971年/アメリカ
監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:デニス・ウィーヴァー、ジャクリーン・スコット、エディ・ファイアストーン、ルー・フリッゼル
<ごく普通の男が車でハイウェイを走行中、無謀運転する大型タンクローリーを少々強引に追い越す。だが、それを機に大型タンクローリーに執拗に追いかけ回され…。>(シネフィル・イマジカ)

今更説明無用な作品ではあるのだが、何回目かの鑑賞。
シンプルでスピーディーな構成故に40年の時を超えても、現在にも通じる悪意のあり方。普通のサラリーマン(借金の取り立てのためにカリフォルニアに向かう営業マン)と姿なきトラッカーが互いに煽り煽られながら悪意が積み重なっていく展開は圧巻。果てしなく続くかのように描かれる地獄のカーチェイス(しかも一方通行)、心理的に追い詰められたホワイトカラーがドライブインのブルーカラーやスクールバスの子供たちにも煽られていく姿。ここに描かれているのは1971年当時の「現代の恐怖」であると同時に、サディスティックなストーカーや安易に、そして無慈悲に<自己責任>や<自業自得>を叫ぶ心無い人々とのネットトラブルにも通じる、現在の恐怖、悪意のスパイラルでもある。
40年経っても、40年経ったなりに現代にフィードバックして感じ入ることができる名作。あ、まあ、通じる要因というのは構成にかなりゲームっぽいところがあるからかも。デニス・ウィーヴァーもチキンレースの序盤でPlay the game!って叫ぶしな…。しかしアクション映画としても、いつか劇場で観たい作品すな。

純度100%/「ザ・ローリング・ストーンズ SHINE A LIGHT」「マイケル・ジャクソン THIS IS IT」

2010-12-25 02:50:13 | Movie/Theater
昼から早稲田松竹へ行って『ザ・ローリング・ストーンズ SHINE A LIGHT』と『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』の二本立て。
特に『ザ・ローリング・ストーンズ SHINE A LIGHT』は湘南の番長こと大越さんから「スクリーンで観るように」と言われていたので、これが初見。いや確かにこれはスクリーンで観るべき作品で、特にバディ・ガイが出た後は怒涛の展開(正直、シャウトというよりも無理に大声を張り上げているだけにしか聴こえなかったクリスティーナ・アギレラが出たあたりは一瞬ダルい感じがしたんだけれども…)。自身の自虐的な演技も含めて、クリントンをもネタにして、ストーンズを「単なる」大御所に鎮座させない笑いを作り出す、冒頭とエンディングのスコセッシの演出も見事で、さすが音楽映画の名匠。劇場公開用の映画というフォーマットの中でいかに「ライブ」を再現していくか。煮え切らない音楽ドキュメンタリー流行の昨今、やはり元祖は違うのだった。
一方の『THIS IS IT』。マイケルが個人的な資料(?)としてリハを撮影していた(というのはにわかに信じ難いが、おそらくそれなりの「素材」として撮影していたのは間違いない)という「設定」なのだが、素材が素材だけにある種のドキュメンタリーのフォーマットに沿った構成ともいえる。個人的にはMJにはそれほど思い入れがないのだけれども、彼の最期を思い起こせば胸が熱くなる。

ただストーンズのライブはフロアがパーティーガールとパーティーピープルで埋まっていたのに対して、マイケルの場合はがらんとした客席を映しても、そこにはスタッフとキャストしかいない。しかも彼らはキャストでいながら、ほとんど信者と言ってもいいマイケルファンでもある。そこは純度100%のマイケルの世界なわけだ。作品には接点はないし、たまたま二本立てで観たというだけなんだけれども、それが物凄く対照的で、作品としての完成度は圧倒的にストーンズなんだけど、スクリーンから伝わってくる「THIS IS IT」のキャストの熱さには敵わない。
いろんな意味でそれもMTVぽいって言っちゃえばMTVぽい作品なんだけど。

ちなみにその夜に日テレで『THIS IS IT』が放送されていたりして。
まあスクリーンで観た方が感動が伝わりますよ。

せっかく高田馬場に来たんだからgateoneにも寄りたかったんだが、さすがに真っ直ぐ帰る。

浅草の

2010-09-07 01:47:31 | Movie/Theater

土曜日は<したまち演劇祭>、浅草見番でだるま食堂「浅草の女」。見番というのは芸者さんの控え室、案内所のようなで、博多で取材しているとよく耳にする言葉である。博多では勿論、博多見番と呼ぶ。ということで女芸人の公演としてはぴったりなのかもしれない。畳敷きの大広間で、天井も高く舞台も広い雰囲気のある空間。
仲見世通りの土産店のネタが良かったな。やっぱり歌モノがいいです。

来週からはしたまちコメディ映画祭が始まる。何か、行きたいなあ。

終わった後は煮込み通りの浩二で酒。
帰りは亀戸まで歩いて帰る。おそらくジョギングするぐらいには丁度いい距離なんだけれど。3、4キロぐらい。
自宅と浅草の中間ぐらいにスカイツリーがある。今が一番いい感じかもよ。

熱気と湿気/劇団若獅子「特攻の郷 知覧」「蛍火」

2010-08-25 00:14:40 | Movie/Theater

月曜日。
三越劇場で劇団若獅子公演「特攻の郷 知覧」「蛍火」。
袴田さんを通じて中洲通信でもたびたびお世話になった若獅子なのだが、数年前に浅草公会堂での<忠治>も観ているはずなのだけれども、その時は剣戟と祝祭的な雰囲気の印象が強く残っていて(それはそれで感激ではあったのだが)、今回はじっくり観る事ができた。さすがに「知覧」は周囲のご高齢者のお客さんも泣いていた模様。生で淡路恵子さんを観られたのもいい機会だった。お元気そうだった。最後の台詞は、あれは演じている方も快感だろうな…。
今度はまた剣戟を観てみたい。


終演後、三越屋上のビアガーデンにはサラリーマンやOLが続々とやってきていた。すごくいい風が吹き抜けていた。
で、下に降りて三越の暖簾をくぐった瞬間の猛烈な湿気といったら…とても同じ場所とは思えなかったな。

幸福の街からの逃亡/「厄介な男…からっぽな世界の生き方」

2010-05-11 06:26:28 | Movie/Theater
厄介な男…からっぽな世界の生き方
The Bothersome Man
2006/ノルウェー
監督:イエンス・リエン
出演:トロンド・ファウサ・アウルヴォーグ
<40歳のごく平凡な男アンドレアスは、自分が気付かぬ間に奇妙な世界に移っていた事に気付く。一体何が起きたのか、一切の記憶がないまま、恵まれた仕事と、居心地の良い住まいと、美しい妻が与えられる。彼が求めていた生活が、いとも簡単に叶えられる理想の世界…のはずだったが、親しい知人や家族には本当の感情がなく、会話は表層を上滑りして交わっていかない。食事には味がなく、モノには匂いがなく、街には無駄な音がない。全てが秩序の内側で流れていくだけの退屈な世界。(中略)彼は世界の出口を見つけて、”向こう側の世界”へ行くことが出来るのだろうか。2006年 カンヌ国際映画祭 批評家週間、ACID連盟賞>
シネフィル・イマジカ

浮世は厄介な人と厄介なことだらけで、誰しもが厄介で、厄介からは逃れられない無情の世界。

男が放り込まれた<幸福の街>は誰一人として厄介な人間もいず、厄介ごともない。部下への気遣いを忘れない上司と何でも受け入れてくれる女。しかしそれでも満足できないのが人間の厄介なところで男は、この<幸福の街>からの逃亡を図る。穴の向こうに何があるのかわからないまま。
厄介というのは人間関係を実に味わい深くさせているのであった。
ネット周辺で面倒くさい書き込みをスルーすれば何とかなると思い込んでいる連中や過剰にメディアリテラシーを主張(意識)する人たちが物足りないのは、そういうことなんだと思うのである。

設定がちょっと甘い感じもしないでもないが、同棲中の恋人と別れて駆けつけた新しい彼女の無感動に絶望して電車で轢かれまくる場面はまさに悪夢。

極悪面/草燃える#46

2010-04-22 21:37:09 | Movie/Theater
北条“小四郎”義時(松平健)と伊東“十郎”祐之(滝田栄)の最期の対峙が凄まじい。ピュアなの青年武士だった義時は時代を経て鉄面皮の政治家になっていく。松平健の極悪面がとてもいい。これなら鎌倉のピカレスク三浦“平六”義村(藤岡弘)にも対抗できる。いよいよ『草燃える』もラス5。

久々に大河完走しちゃうな、これ。『草燃える』が終わったら真田広之の『太平記』も観直すか…。

覚醒した小四郎/草燃える

2010-04-14 18:45:37 | Movie/Theater
時代劇専門チャンネルで放送中の「草燃える」もいよいよ終盤。
ここに至って、「反平家の旗揚げは(中略)我々坂東武者の旗揚げだった」と言い切る松平健演じる北条“小四郎”義時と、弱肉強食の時代の始まりに弱き者の立場を思いやり、詩歌に自分の思いを込める滝田栄演じる伊東“十郎”祐之が対の関係であり、すっかり“立場”が入れ替わってしまったことが明らかになる。
頼家と実朝、それぞれのスタンスもそうだが(てかそれは一応史実なんだが)、NHKのバランス的演出な感じもしないでもないが、小四郎と十郎の演出はさらに鮮明で爽快感すらある。松平“上様”健の本領発揮です。
ということですっかり覚醒した小四郎に対して、岩下志麻演じる政子は相変わらず鎌倉という台風の真ん中にいるくせにまったく孤独(つまり世間知らず)で、男たち(つまり、時代)に翻弄され続ける。
政子も間もなく覚醒する。
そして、やはり覚醒した人間というのは孤独なものなのだ。

それにしても三浦義村を演じる藤岡弘の謀略家っぷりが魅力的だ(義村自身が煮え湯を飲まされてきた義時より15年も長生きするというのがピカレスクっぽくて魅力的なキャラでもある)。「アッコにおまかせ」あたりでネタ扱いされているけれども、藤岡弘は本当に武士かもよ…。

謀略家といえば尾上辰之助の後鳥羽上皇もさすが。

若々しい粗野/草燃える

2010-03-04 00:57:10 | Movie/Theater
時代劇専門チャンネルで1979年の大河ドラマ「草燃える」コンプリート放送中(毎日)。現在は序盤で、4、5話まとまったところで観る。ちなみに「龍馬」は早々に断念…だって一週間に1話がかったるいんだもの。といいつつ、後からまとめて観たらわりと悪くなかったりするんだろうけど。

wikiによると原作者の永井路子は「喜劇にして欲しい」とリクエストしたそうだけれども、やはり金田龍之介と武田鉄矢がいい。特に武田鉄矢はその後の重宝ぶりを観るにつけ良くも悪くも大河男だと思う。

しかしエピソードを読めば読むほど、これって完全に北条一族版の「ゴッドファーザー」だよなあ。長男のソニーが中山仁で、マイケルが松平健(と晩年の岩下志麻)とか…。まあ政治とか歴史とかマフィアとか武将ってのはそういうもんだよね。

それにしても最近は仏師としても知られる滝田栄の若々しい粗野が見事。いくら伊豆の田舎者の坂東武者でも傍若無人すぎるっての。

70年代(末)の青春/「ヒポクラテスたち」

2010-02-06 08:38:36 | Movie/Theater
ヒポクラテスたち
1980/ATG
監督・脚本:大森一樹 
出演:古尾谷雅人、伊藤蘭、光田昌弘、柄本明、小倉一郎、阿藤海、内藤剛志
<医学生グループが臨床実習という具体的な医療の現場で出くわす、さまざまな当惑や驚きや失敗や珍事の数々。そんな折、愛作(古尾谷雅人)はガールフレンドから妊娠を告げられる…。>(日本映画専門チャンネル

公開は80年だけれども、70年代の青春群像劇。それも70年代末だからできたであろう、時代の残滓。だからおもろくてやがて哀しく、切ない。そして痛ましい。
古尾谷雅人のイメージはこの映画のイメージのままで、彼があんな凄絶な最期を遂げてしまったときもこの映画を思い出した。同級生とは頭3つぐらい抜けている猛烈にひょろ長い体躯に繊細と凶暴を秘めていて、さらに運動の挫折感を滲ませる複雑骨折な70年代の青春。派手なアクションがあるわけではないけれども彼が優作フォロワーであったことはよくわかる。
学生たちはそれぞれがそれぞれのもどかしさを抱えつつ、忙しなく煙草を呑み続ける。呑まなきゃ(飲まなきゃ)やってられないという、脱臭されていない青春の空気がここにはまだ残っている。

手塚治虫、鈴木清順、北山修など、これでもかというぐらいのゲストが、いかにもゲスト然として登場したり、さらにいかにも効果音の類は、やはり現在では古臭さを感じざるを得ないが、小倉一郎、阿藤海、内藤剛志の若さと勢いはとても魅力的だし、千野秀一の音楽が70年代ぽくてとてもいい。
エンディングにあるほろ苦さや誠実さや愚直さのリアリティを80年代以降の日本は徐々に喪っていく。

それにしても、やはり古尾谷雅人は惜しい役者だったと思う。

ハーモニー/「血と砂」

2010-02-04 20:52:47 | Movie/Theater
血と砂
1965年/モノクロ
監督:岡本喜八
原作:伊藤桂一「悲しき戦記」
脚本:佐治乾、岡本喜八
出演:三船敏郎、仲代達矢、佐藤允、伊藤雄之助
<昭和20年、敗戦直前の北支戦線。軍楽隊の少年兵13人を率いる曹長・小杉(三船)の部隊が、中国・八路軍と砦をめぐる熾烈な戦いを繰り広げる様を描いた反戦色の濃い戦争アクション>(日本映画専門チャンネル

<反戦色が濃い>といってもそこは喜八作品なのでしみったれた肌触りはない。ミュージカル的な要素を織り込みつつ、三船、佐藤充、団玲子、そして伊藤雄之助という違うタイプの役割を持った“大人”たちが、18歳、19歳という軍楽隊の童貞少年たちをいろんな意味で厳しく、優しく成長させていく(慰安婦の楽天的かつ感傷的な描写など今では考えられないけれども、やはり“それ”も教育だと思うのである)。軍隊というのは現実社会そのものである。少年たちは楽器を背負い、銃を手にして戦場に立つ。
しかし戦場という現実とジャズの自由は決して交わることはなく不協和音を響かせる。本隊に見捨てられ孤立無援となった砦の塹壕の中で、楽器を手にしてスイングする少年たちに八路軍の砲弾と塹壕の土砂が降り注ぐ。
そんな中、佐藤充は少年たちを励ますように「ハモっているか?」と声をかける。<ハモっている>ということは生きているということだから。
戦場でハモることなど許されない。しかし今日を生き抜き、明日に希望をつなぐために人間はハモるのだ。
盲目のトランペッターの少年が倒れたあとに残酷な事実を知らされる。傑作。

貧乏をこじらせる/「シッコ」

2010-01-19 05:58:26 | Movie/Theater
シッコ
Sicko/2007/アメリカ
監督・脚本・製作・出演:マイケル・ムーア
<超大国なのに保険充実度は、なんと先進国中最下位のアメリカ!!先進国で唯一、“国民健康保険”が存在しないアメリカでは、国民の6人に1人が無保険。毎年1.8万人が、医療費を払えないために治療を受けられずに死んでいく。(中略)この問題のシステムにより人々は高い保険料を払っていても、一度、大病を患えば治療費が支払えずに病死か破産を迎えるしかないのだ。「こんな医療制度はビョーキ(Sicko)だ!!」マイケル・ムーアがほえる>(amazon

キャピタリズム~マネーは踊る」の予習に未見の「シッコ」。
健康のためなら死んでもいいというぐらいの健康ジャンキーだらけの浮き世の裏側には膨大な貧乏な病人たちが行き倒れている。ダイエットも同様、所詮健康とは金でしかなく、「シッコ」後のマイケル・ムーアがその病巣である「キャピタリズム」へ猛然と突っ込んでいくのは至極当然の行動だろう。
まあ、そうは思いつつフランスの事例とか、いくらなんでも煽るためとはいえ露骨にやりすぎな感じが相変わらずで、あんまし笑えないんだな。
そりゃもう日本の国民皆保険が中途半端なアメリカ風へ振れかけてることに尽きる。

それを考えるとタケちゃん(ビートたけし)が20数年前にテレビやラジオで言っていた<貧乏こじらせちゃって>というフレーズは、やはり、実に深いものがあったのだなと思う(何となく)。
capitalismというのはやっぱしvirusだ。

ちなみ現在も国民皆保険問題で“恐怖”に踊る保守層、民間保険会社とオバマの攻防が続いている。
恐怖に踊りたい人は踊る気もない他人まで踊らせようとしますから気をつけましょう。これは日本の話。

世間/「嗚、無情」「噂の娘」

2010-01-17 10:57:35 | Movie/Theater
噂の娘
1935年/モノクロ
監督:成瀬巳喜男
出演:千葉早智子、梅園龍子、伊藤智子、汐見洋
<チェーホフの「桜の園」を下敷きにした成瀬巳喜男のオリジナル脚本による作品。凋落の影が差す老舗の酒屋・灘屋酒店を舞台に、家族とその周囲の人々の悲喜こもごもを綴った人間ドラマ。>(日本映画専門チャンネル

没落していく老舗酒屋に向けられるラストシーンの床屋の主人と客の会話が嗚、無情。世間ってそういうもんだよね。当時40歳前後のはずの汐見洋の老け役にやはり無理があるような。でも彼が演じる隠居の義父・啓作がいないとまるで救いがない。

遠まわしなくせに直接的/「ある日わたしは」「月給泥棒」

2010-01-16 04:34:42 | Movie/Theater
ある日わたしは
1959年/カラー
監督:岡本喜八
原作:石坂洋次郎「若い女性」
脚本:岡田達門、井手俊郎
出演:上原美佐、宝田明、水野久美、上原謙
<周りの男の子には物足りなさを感じていたゆり子(上原)。ある日、男らしい大助(宝田)と出会い恋に落ちる。母(三宅邦子)はなぜか二人の交際に大反対。何か特別な理由がありそうで…。>(日本映画専門チャンネル

現代的で積極な医学生・宝田明がこれでもかとお針子娘・上原美佐を虜にしていく青春恋愛ドラマが、中盤から一転ヘヴィな純愛物語に変わっていく展開。娘を苦悩させた古風で“罪深い”母親が亡くなった途端に、お墓の前で強引なまでにハッピーエンドに突入。
クロサワに見出され、本作の後「独立愚連隊」「大学の山賊たち」にも出演する上原美佐は自ら「才能がない」と引退を決意したそうだが、その堅物ぶりが映像からも(演技からも)伝わってきたりして、やはり正統派で可憐である。
<遠回しなくせに直接的>な台詞が最高に時代がかってますが。

月給泥棒
1962年/カラー
監督:岡本喜八
原作:庄野潤三「ダゴンさんの恋人」
脚本:松木ひろし
出演:宝田明、司葉子、横山道代、中丸忠雄
<カメラ会社の営業マン・吉本(宝田)は、出世のためなら何でもすることから"出世計算器"と異名を取るほど要領のいい男。ある日、石油王国からホセ・ダゴン(ジェリー伊藤)という富豪がやってきて、ライバル会社と商談を始める。吉本は負けじとダゴンと交渉するが、ダゴンは、吉本の愛するホステス・和子(司)と結婚させてくれれば商談をまとめてもいいと持ちかけてきて…。>(日本映画専門チャンネル

「ある日わたしは」から一転、軽薄なサラリーマンを演じる宝田明。相手の司葉子は豪邸のガレージに住む元令嬢のホステス。ラストシーンの司葉子が実にセクシィでかっちょいい。

最先端と軽薄/「殺人狂時代」「地獄の饗宴」

2010-01-15 02:53:18 | Movie/Theater
殺人狂時代 
1967/モノクロ
監督:岡本喜八
原作:都築道夫「飢えた遺産」
脚本:小川英/山崎忠昭/岡本喜八
出演:仲代達矢、団令子、砂塚秀夫、天本英世
<大学講師・桔梗(仲代)の背中の傷に埋め込まれているヒトラーのダイヤモンド"クレオパトラの涙"をめぐって、人口調節のため殺人を行う奇妙な団体"大日本人口調節審議会"と、講師の仲間たちが争奪戦を繰り広げていくスリリングで奇怪なコメディ。>(日本映画専門チャンネル

地獄の饗宴 
1961/モノクロ
監督:岡本喜八
原作:中村真一郎「黒い終点」
出演:三橋達也、団令子、池内淳子、田崎潤
<国際コールガールのポン引きをする一方、得意のカメラでエロ写真を客に売り付けている戸部修(三橋)は、あるネガを拾ったことから、1億5千万の横領事件に関わり、殺し屋に命を狙われるハメに陥る。>(日本映画専門チャンネル

喜八作品で一番繰り返し観たのが「殺人狂時代」だと思う。何回観ても古臭さをほとんど感じさせない、実にモダンでかっちょいい世界なのである。
「殺人狂時代」があまり古臭さを感じさせないのは、少ないキャストに加えて、当時まだ生々しい記憶が残っていたはずの第二次世界大戦のエピソード以外に、あまり当時の風俗を登場させていないこともあるのだろうが、「地獄の饗宴」は昭和30年代当時の東京の風俗や日本人をしっかり匂わせる世界になっている。それでもモダンに感じさせるのは、もちろんそもそも監督のセンスだろうし、風俗の描き方が巧いということもあるのだろうし、映画が“最先端”の表現だったということもあるだろうし、それを全部ひっくるめて昭和30年代=60年代という時代のモダンがあるのだと思う。
「地獄の饗宴」のラストシーンは結構ヘヴィなのだけれども、そこまでに至る三橋達也の軽薄さが実に心地良い。
軽薄さとは即ちモダンである。
そしてそれは、やはり今の時代には失われてしまったものでもある。

あ、あと2本ともヒロインの悪女役で出演している団玲子が最高。

日本映画専門チャンネルの<映画のすべて、ここにあり。-娯楽のアルチザン 監督 岡本喜八>特集はまだ続く。