<アルバータはまず聴衆に、看護婦の仕事を心から愛していたこと、病院の規則で、七十歳で辞めさせられたときは本当に悲しかったことを話した。
「でも、騙されたのは、本当は彼らのほうなのさ。だって、あたしの本当の年齢は八十二歳だからね。あたしが彼らの裏をかいてやったことになるね。ハッハッハ!」
アルバータの本当の年齢を知らなかった看護婦たちは、驚きの声を上げた。(中略)
拍手はまるで、雷が落ちたようだった、とアルバータはいう。「みんなが、このおばあちゃんは歌えるんだ。このおまあちゃんはまだ現役だ。このおばあちゃんのおかげで、また感動というものがよみがえった、と思っていることが痛いほどわかった。涙をぬぐっている人もいた。うれし涙だ。バーニーは店の隅で満足そうに立ってたよ」
アルバータは、翔んだ。
「次の曲は、皆さんがまだ生まれていないころにあたしが作った曲で、曲名は『ダウン・ハーテッド・ブルース』と言います。この曲を書いてまもなく、あの憎らしいブルースシンガー、ベッシー・スミスがデビューして、デビュー曲にこの曲を使っちまった。それであたしはいまだに著作権を支払ってもらってるというわけ」
「男は女の心をズタズタにしたものさ。いまでもそうじゃないのかい?」
彼女は長い爪でピアノのふたをタタタと叩いて、ジミーに言った。
「さあ、たっぷりときかせてやろうじゃないか」>
(フランク・C・テイラー/ヤンソン由美子・訳「人生を三度生きた女 “魂のブルース”アルバータ・ハンターの生涯」筑摩書房)
「でも、騙されたのは、本当は彼らのほうなのさ。だって、あたしの本当の年齢は八十二歳だからね。あたしが彼らの裏をかいてやったことになるね。ハッハッハ!」
アルバータの本当の年齢を知らなかった看護婦たちは、驚きの声を上げた。(中略)
拍手はまるで、雷が落ちたようだった、とアルバータはいう。「みんなが、このおばあちゃんは歌えるんだ。このおまあちゃんはまだ現役だ。このおばあちゃんのおかげで、また感動というものがよみがえった、と思っていることが痛いほどわかった。涙をぬぐっている人もいた。うれし涙だ。バーニーは店の隅で満足そうに立ってたよ」
アルバータは、翔んだ。
「次の曲は、皆さんがまだ生まれていないころにあたしが作った曲で、曲名は『ダウン・ハーテッド・ブルース』と言います。この曲を書いてまもなく、あの憎らしいブルースシンガー、ベッシー・スミスがデビューして、デビュー曲にこの曲を使っちまった。それであたしはいまだに著作権を支払ってもらってるというわけ」
「男は女の心をズタズタにしたものさ。いまでもそうじゃないのかい?」
彼女は長い爪でピアノのふたをタタタと叩いて、ジミーに言った。
「さあ、たっぷりときかせてやろうじゃないか」>
(フランク・C・テイラー/ヤンソン由美子・訳「人生を三度生きた女 “魂のブルース”アルバータ・ハンターの生涯」筑摩書房)