テアトル新宿で
『不滅の男 エンケン対日本武道館』のレイトショー。台本付きのパンフレットとエンケン祭りで買っていなかったポスター(2種類ある)を購入して、最前列付近に座る。やはりスクリーンで観るとギターをアップにしたエンドロールの余韻がまったく違う。連日上映後は拍手が起こるという話だったけれども、この日ももちろん拍手が起こる。
この日はオールナイトイベントで「エンケン映画特集+トークショー」。『ヘリウッド』と『アイデン&ティティ』も上映される。1時間ほど時間があったのでしょんべん横丁まで歩いて、パンフを読みながら酒。
テアトル新宿に戻り、アルタミラのTさん、Sさんに挨拶。場内は満員、かといって立ち見が出るほどでもなくいい感じ。まずは遠藤賢司、
田口トモロヲ、みうらじゅん、
大友良英によるトークショー。もちろんトーク内容はエンケンさんが音楽を担当した『アイデン&ティティ』の製作エピソードへ。『アイデン&ティティ』の重要なパートを担う音楽の神様(ディラン)のハープ&ギターの演奏をエンケンさんに依頼した時の話で盛り上がる。
サウンドプロデュースの大友さんと田口監督が深夜エンケン宅へ行き、ハープの演奏を依頼。「ディランのように」というお二人に対して「オレはディランじゃないから」とエンケンさん。「じゃあエンケンさんからディランに依頼できないか、と」「できるわけがない(笑)」。この間ずっとお二人はエンケンさんの前で正座だったそうだ。この日のみうらさんはちょっとトークに切れがなかったか。まああまり話が振られなかったということもあるけれども。
休憩を挟んで、エンケンさん主演の映画『ヘリウッド』の
長嶺高文監督とエンケンさんのトーク。『東京ワッショイ』『宇宙防衛軍』にインスパイアされた長嶺監督。この映画を作ったことで「深い部分」でエンケンさんとつながることができた(もしくは再確認?)と言う。
そして『ヘリウッド』の上映。これが80年前後のサブカル的状況がとてもよく出ているアナーキーな内容で、ストーリーはほとんど説明不能(公開は82年)。ちなみに
こんな映画解説もあるけれども、こんなの読んでもちっともわからないっての。
しかし隣に座っていたお兄ちゃんはあっと言う間に寝てしまったが、ストーリーが追えないにも係わらず、観ていて少しも眠くはない。斉藤とも子、青地公美、羽仁未央(!)による美少女探偵倶楽部も時間が経つほどに、懐かしさよりもその美少女ぶりに感動する。
前年には鈴木清順監督と共に『ツィゴイネルワイゼン』『陽炎座』という作品を残し、この数年後には『どついたるねん』でも高い評価を得た
荒戸源次郎氏のプロデュース、移動型ドームシアター、
シネマ・プラセットの製作。混沌としたパンクでアナーキーな雰囲気が、この時代の東京にはあったと言うことか(ちなみに後年、この状況を橋本治は“80年安保”と呼んでいた)。
上映後、再び長嶺監督とエンケンさんのトーク。お客さんの「この映画のメッセージは?」の質問に長嶺監督は「映画の自由」と答える。それを意味する「メッセージを押し付けたくない」というスタンスは長嶺監督もエンケンさんも共通しているようだ。確かに前向きで具体的なメッセージを読み取ろうと言うのも無理な内容だ。
ただ何か『不滅の男』と共通している部分も感じた。それはある意味の「過剰さ」である。エンケン監督も長嶺監督もおそらく浮かんで来るさまざまなアイデアをすべて撮影している。しかしエンケン監督は編集段階でそれらをすべてカットして武道館のライブだけに収斂したのに対して、長嶺監督の『ヘリウッド』の場合は(おそらく)すべての要素を詰め込んだ印象がある。同じアプローチなのだろうけれども、作品としてはまったく別の構成になっていると感じた。その辺を踏まえて長嶺監督は編集者・監督としてのエンケンさんをどう見ているのだろうか。司会を務めていたアルタミラのTさんが客席に質問を求めていたので、こんな質問をしようと思ったのだけれども、あまりにも面倒臭い質問なので止めておいた。
そして休憩後、田口トモロヲ監督の
『アイデン&ティティ』上映。これもスクリーンで観るのは初めてだ。『ヘリウッド』でぐったりしていた若い観客のモチベーションも上がる。ラストシーン、中島役の峯田和伸がギターのボディーでカウントを打ち、ディランの『ライク・ア・ローリングストーン』が流れると鳥肌が立つ。ちょうど2年前、この映画の試写が行われていた時期にみうらじゅんさんを
取材をしていたのだけれども、このラストシーンを激賞していた事を思い出した。
もちろんこの映画も上映後、拍手が起こった。
午前5時過ぎ、映画館を出るとき、すっかり気分は峯田かみうらさん(もちろん“白みうら”の方)のようになっていた。女子の言うように麻生久美子演じる彼女役は、男子にとって都合の良い女かもしれないけれども、何回見てもとっても元気の出る映画だ。