ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

みやぎミュージックフェスタ2008イン気仙沼 海によせて その2

2010-03-25 18:11:24 | 寓話集まで
第2部 古(いにしえ)の海辺

語り
 ひとりの老紳士とひとりのご婦人が、ひとりは、羽織袴の正装を整え、ひとりは、仕立ての良い、暖かそうなコートを着込んで、とある浜辺の近く、昔は、海水を汲んで塩を炊いたと伝えられるあたりを、こんなことを言いながら歩いておりました。

紳士
―ぜんたい、ここらの海は、怪しからん。白砂青松の美しき浜辺を遠目に眺め、ゆっくりと散歩をするのが、私たちの楽しみなのに、今日は、日も差さず、風はすこぶる冷たい

婦人
―本当に…

紳士
―松の緑もくすんでおる…

語り
 海の向こうに、仙台藩第五代藩主伊達吉村が、その風光を愛で、地獄崎の名を改めて名づけたと伝えられる岩井崎の潮吹き岩が、波の寄せるごと。高い潮を噴き上げております。

婦人
―あら、今日は、潮の上がり具合が見事。風も強く、波も荒いようですね。

紳士
―うう、寒っ!

婦人
―そのお姿ではね… だから、コートも着込んでと申し上げたのに…

語り
 風がどうと吹いてきて、松の葉はざわざわ、かさかさ、枝はごとんごとんと鳴りました。曇り空が、また、一段と厚く黒く、あたりは、にわかに暗くなってきました。

婦人
―あら、あれは…。

紳士
―やや!

語り
 見ると、潮吹き岩の先。白大丸・黒大丸の岩礁の上、はるか中空を、まばゆいばかりの光輪を背負って、やんごとなき平安朝の貴人が、幼い女の子の手を引き、お伊勢浜の方角へスーッと滑り降りてゆきます。

紳士
―おお、光源氏か、融の大臣(とおるのおとど)か…

婦人
―いたいけな子のまばゆいばかりの美しさ!

語り
 風がどうと吹き、松の葉はざわざわ、かさかさ、枝はごとんごとんと鳴りました。あたりは、少し明るさを取り戻します。
 二人は、我にかえると、きびすを取って返し、

紳士
―まてえ…

婦人
―まってえ!

(と、3人、袖にハケル)


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