ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

遠く霧笛が鳴っている

2010-03-21 07:40:43 | 寓話集まで
  
漁船が右舷に傾いて出港していく
船尾に網を巻き上げるローラーがある
どこかしら焦っている風情
商港の先
湾が
くの字に折れまがるところ
船尾に黒い船名が鮮明でない
記憶も鮮明でない

雨は降っていない
お日様も見えない
さきほどは激しい夕立があった
あまり暑くない
空気は澄んでいる
漁船はくっきり
右舷に傾いて出港していく
船名は
鮮明でない

ずいぶん久しぶりに亀山に登った
大島の西海岸と田中浜小田の浜と続く東海岸突端の竜舞崎までくっきりと眺望できた
西側対岸の岩井崎の潮吹きまで見えたといっては嘘になる
水平線はもやに隠されている
北側の大島瀬戸唐桑瀬戸早馬山さらにその北の広田湾を眼下に眺め
山頂東側のあずまやまで行った
唐桑半島御崎が左手に
右手は田中浜小田の浜の二つの弓なり
海に浮かぶ唐島大前見島小前見島
空が真っ青に晴れた日のように海がきらきらと光ってはいない
国民休暇村のキャンプ場がほんの少しだけ林間に見える
亀山を降りると雨が落ちて雷がなった

カーフェリーを商港で降りて後から降りてくる車を待つあいだ
雨の後の清澄な空気のなかで
右舷にかしいで出港していく漁船を見た何を急いでいるのだろうか
問うまでもない
鰹の漁場に向かっている
しかし
漁船自体が何かを焦っているように見える
あせる必要はない
一定のスピードで航行していけば良い
着実に進んで行けば良い
漁場はこの沖にある
三陸の沖に世界有数の漁場がある
燃料はたっぷりと積み込んだはず
しっかり仕事をして魚市場に戻ってくるはず
晴れ上がった空に大漁旗をなびかせて帰港するはずだ

港の鈍色の空に連凧が舞うこの日の
鉛色の波に天使が落ちた夏の日の情景は
センチメンタルではなく
長いアドレッセンスの終わり
歴史の始まり
砂漠への旅の始まり
のようなもの
だったか
違ったか

遠くで霧笛が鳴ってるぜ
竜舞崎からか
岩井崎からか
御崎からか
まさか
歌津半島泊崎からではあるまい


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