「エディ、ここの灯りはまぶしすぎるわ。」
神明崎浮見堂の欄干に身をもたせ、エリカは、傍らのエディにささやく。
トレンチコートの襟を立てて、エリカの肩を抱き寄せ、「ああ、もう少し柔らかな光が、俺たちには似合う。大人の恋には、明るすぎる光はかえって邪魔だ。」
対岸の岬のうえのプラザホテルのコンベンションホールは、ガラスの壁面から、にぎやかなパーティーの灯りがあたりを照らし出す。大勢の着飾った婦人たちと紳士たちが、グラスを手に、談笑している。
「華やかな光と社交は、向こう岸に、穏やかな光とぬくもりはこの岸に。」
「エディ、管弦窟にまわって、私たちの恋のためにお祈りしましょう。」
「許してくれ、エリカ、成就する恋は、俺には似合わない。俺の恋は、いつもつかの間さ。」
注)気仙沼プラザホテルのチャペルルームは、内湾側と外洋に続く魚市場側の両側面が全面ガラスの壁面で、朝には外洋の大島の方向から日が昇り漁船の立ち並ぶ岸壁のすぐ先の海に光の道が現れ、夜には内と外と両方向にハーバーライトが灯る。ライトアップされた浮見堂など夜の港の眺望を眼下にする夜のパーティーは格別である。催しのない日は、コーヒー・ラウンジとして一般客の利用もできた。今は、内湾に面したカフェもいくつかオープンしたが、当時は、コーヒーを飲みながら気仙沼らしい景観を満喫できる数少ないスポットであった。
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