ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

特権的な場所特権的な時間

2008-12-31 15:48:46 | 寓話集まで
一九九三年
アヴァンギャルド(前衛)は価値あることばだろうか
変革に理はあるようだが
この変革は理念に基づきながら
生活に根づいた
ラジカルでありつつ
ソフィスティケイティドな
進歩するというより
生活を保守する変革である
拡大する生産力を信仰する革命でなく
地球と人間の限界を明晰に認識する変革である
理想を遠い未来に実現しようとする革命でなく
いま・ここでできることから始める変革である

三月二一日
気仙沼市南町ヴァンガード
六時三〇分から九時三〇分まで
普段は二六〇円という時代後れ(店の名に合わないというのか合いすぎるというのか)の値段で濃くて美味いサイフォンの珈琲飲ませる喫茶店だが
二〇年前には街唯一のジャズ喫茶だったが
この日この時この場所で
三〇年前からのあるいは一〇年前からのロックスターたちが
アンプラグド・のようなもの
と題して
演奏付きパーティーを開いた
演奏する人間が過半を占め
そうじゃないひとびとも
配偶者であったり
配偶者にしたいひとだったり
長男や次女であったり
古くからの友人であったり
密かに愛するひとであったり
恋を予感するひとびとであったり
純粋に音楽のファンであったり
踊って騒ぎたいひとびとであったり
気心の知れた打ち解けた雰囲気のなかで
しかし
適度の緊張をともない
パーティーはここちよく進行した

バンドはそれぞれの意図をもち表現をもちひとつとして同じでない
オリジナルに作られた曲はそれほどないが
このときこの場の演奏は一回限りのオリジナルである
このときこの場をぼくたちは共有した

遠く一八世紀のパリのサロンはごく狭い範囲の人々が集まり文化を享受し育てた特権的な場所であった
特権的な場所で相当の蓄積を持つ人々が芸術を享受し批評し葬り去り育て上げた

一九九三年三月二一日
南町ヴァンガードに集まった人々は
文化の生成するスリリングな現場に立ち会った

テカピンのパパ・ショージはジャンプしながら
この夜
すべてのマスターベーションする男たちに向けて
精子を無駄にするな
とメッセージを発した
これは歴史的なアジテーションであった
(発達心理学ないし教育学的な正当性は別である)
ジャンプするレゲエに乗せて
精子を無駄にするな
とうたった

アルカロイドのボーカリストは突っ立って
ファムファタール(運命の女)を想定して
せつない思い
つかのまの幸福
沈んだ色の
おまえの目が
おれを狂わせる(Pale blue eyes by Velvet Underground)
とささやくようにしぼりだすようにうたった
うたいおえた途端客席のパパ・ショージはこのスケベと野次を飛ばした

スプリンクラーのキイチはガットギター抱え
哀愁のバラード
河原田メインストリートを
切々たる情感込めてうたい
河原田生まれで河原田育ちの男たちを泣かせた

特権的な場所特権的な時間
文化はそこで生成する
一九九三年三月二一日
気仙沼市南町ヴァンガードのその名のとおりアヴァンギャルドな夜

※河原田は、気仙沼の地名。南町の南隣。作者の生まれ育った場所。
 ヴァンガードのコーヒーは、いまだ260円。
 ちなみに、写真は無関係。東京、浅草です。


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1 コメント

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この詩のこと ()
2009-01-14 23:06:27
 前衛。芸術的な前衛。政治的な前衛。あ、そもそもは、スポーツの前衛か。
 しかし、なんか、こうして、ブログに掲載して、改めてまとめて作品を読んでみると、書いている思想は、ずっと一貫している、のかもしれないな。
 今夜、テレビで、東大安田講堂の攻防戦のこと放映していた。
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