あんなに、初夏を告げるように、うるさかった春ゼミのグェ、グェという声は、今や、その天下を、ニイニイ蝉と蜩に、取って代わられてしまったようである。子供の頃、蜩のカナカナという声を聴くと、居ても立ってもおられず、その透明な羽と、オレンジ色したお腹の昆虫を、探しに、近所の庭へ、早速、お邪魔したものである。行く夏を惜しむかのようなその声は、その人生の場面、場面で、聴いても、なかなか、趣のある音色である。昔の人も、夕暮れ時、人生の夕暮れ時に、差し掛かったときに、そういう風に、なぞらえながら、聴いたのであろうか?いつまでも、そのカナカナという音色とニイニイという声が、交互に、薄暮れの中から、今日も、聞こえてくる。