【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

通り魔事件多発/『空から兵隊がふってきた』

2008-09-09 19:08:48 | Weblog
 これで“商売繁盛”になるのは……弁護士、ガードマン、防護用品販売業、死刑反対論者……あと何があ考えられるでしょう。

【ただいま読書中】
空から兵隊がふってきた』ベン・ライス 著、 清水由貴子 訳、 アーティストハウスパブリッシャーズ、2002年、1000円(税別)

 生活能力がなく下品でだらしない父さんが家を出てから225日目、つぶれたラクダ牧場に空から落下傘兵が15人次々降りてきます。ピンクのパラシュートに赤いジャンプスーツ、白いヘルメットに黒いブーツ。背が高くハンサムな兵隊たちです。
 母さんと娘二人の一家は「なにごと?」と不審に思いますが、兵隊たちはそれどころではありません。一人足りないのです。きっと落下傘が開かず墜落死したのでしょう。兵隊たちはまず一家の仕事を手伝い、シャワーを浴び、それから消えた仲間を捜索に出かけます。
 本書の語り手は「あたしはライダー・ジャーヴィス、女の子」と自己紹介する、ショートカットの活発な子です。ライダーは兵隊たちに疑問を感じます。「機密」とやらで、自分たちの所属も出身地も民有地に降下した目的も一切秘密、あるいは述べた場合はウソ。ところがやたらと魅力的で女心がわかっていて軍事だけではなくて家事にも有能。無意味に過剰に格好良く、うさんくさいにおいがぷんぷんなのです。母さんは男やもめ(と自称する)隊長と惹かれあっている様子です。ライダーの姉(本物の美女)アイリーンも一人の兵隊に目を向けています。
 捜索隊が帰ってきます。手作りの棺桶に死体を詰めて。盛大な葬式が行われ、庭の片隅に掘られた穴に棺が収められようとした時……(ちなみに、穴を掘ったのは女たち、豪華な花輪を作ったのは兵隊たちでした)……棺が空であることが発覚します。捜索隊は死体を発見できず、それを誤魔化そうとしていたのです。隊長は激怒します。自分の権威を傷つけ、名誉ある隊の中で詐欺行為を働いた罪で……バン……死刑です。
 それをきっかけに惨劇が始まるのですが……ここまでずっと「これは寓話です」と念を押されているのでそれほどの残酷さは感じません。すべてが終わって、母さんと娘二人はラクダをつれて旅立つのですが……なんでラクダ? そんなことが気になります。

 昔々の童話には、子どもと死と希望が登場していましたが、その点で本書は「童話の正しい伝統を受け継いだ物語」と言えるのかもしれません。短い物語ですし、ちょっと不思議な気分になりたい人にお勧めします。