金融不安のニュースが流れた瞬間、自民党の総裁選挙のニュースがみごとに吹っ飛んでしまいましたね。本当は投票日に向かって盛り上げていきたい時期のはずでしょうに。ま、しょせん、その程度の“価値”のニュースネタ、ということだったのでしょうが。
民主党も「サプライズ」で国民新党との合併を使おうと思っていたようですが、それもついでに尻すぼみになったのには笑ってしまいましたが。
【ただいま読書中】
『外注される戦争 ──民間軍事会社の正体』菅原出 著、 草思社、2007年、1600円(税別)
公教育では不十分だと国民が判断したらその国では塾が流行ります。では、警察官よりも武装警備員の方が多い国は? それは、国が安全を提供できなくなったと国民が判断したことを意味します。日本でも民間警備会社が繁盛していますが、欧米では民間人の警備だけではなくて戦争の一部を民間軍事会社(PMC)が請け負うことまで行われています。イラク戦争で派遣されたPMCの“社員”は各社合計で2万人を越えています(日本の自衛隊は600人)。3年前にイラクで安全コンサルタントをしていた斉藤さんが襲われた事件がありましたが、彼が雇われていたハート・セキュリティ社は、もともとはイギリスの特殊部隊員を多く集めたPMCで、従業員は2000人、売り上げは1億ドル以上です。仕事は、要人警護・施設や車列の警備が定番です。
アメリカの国防総省が民間委託を大々的に始めたのはベトナム戦争頃からです。逼迫した状況で、後方業務や航空機の整備などの非軍事的分野の民間委託が進みました。冷戦終了後、軍の縮小が行われます。1990年代に全世界で600万人の軍人が職を失いました。これによってマンパワー不足となった軍は業務の外部委託を進めます。そしてそれを受けたのが、軍を首になった元軍人たちでした。国防総省の委託を受けたヴィネル社がサウジアラビアの国歌防衛隊を訓練する契約を請け負ったのも(で、当時CIA長官だったジョージ・ブッシュは、サウジアラビア情報機関の近代化に尽力しているそうです)「国が表立ってできないことを民間会社が行う」例の一つです。誘拐犯との交渉やロイズ保険との関係など、PMCの面白い業務が紹介されますが、問題は直接的な軍事サービスです。アンゴラやシエラレオネで活動したEO社が知られていますが、国際法との関係(ジュネーブ条約では非戦闘員の扱いになる)やメディアの批判が強いことから、ここまでやる会社は少数派だそうです。
イラクの泥沼化は、PMCにとってはビジネスチャンスでした。ただし、契約を結ぶ側から見たら玉石混淆です。詐欺的な商法をする会社もあれば、エリート軍人をリクルートして質の高いサービスを提供する会社もあります。ただ、イラクでは様々な施設や車列が襲撃の対象となっていますが、そのためにPMCの本来の業務「防御」が不明瞭になる場合があります。さらに緊急時には正規軍と違って友軍の支援や救援を期待できません。一般の正規軍兵士より能力が高いPMCの社員にとってもきつい状況です。そのためイラクでは、米軍とPMC各社が情報を共有するシステムが稼働しています。
皮肉なのは、特殊部隊の人材不足です。テロ対策でいまこそ特殊部隊の活躍が望まれるのに、優秀な人材ほどPMCにヘッドハンティングされて軍を辞めてしまう動きが加速している、とのことです。その理由の一つはもちろん待遇(給料が数倍になる)ですが、もう一つは軍の訓練が時代遅れなこと。そのため米軍では特殊部隊の訓練プログラムを実践的で魅力のあるものに変更しています。
さらにPMCは「多国籍軍化」しています。フィジー・グルカ兵・フィリピン・コロンビアの人が本書では紹介されていますが、共通点は「アメリカ人より低コスト」(でも、彼らの現地での給与水準からはとんでもない高給)です。
CIAの秘密工作員の警護、なんてヘンテコな業務もありますが、本書に登場する中で一番印象的なのはレンドン・グループでしょう。この民間企業がホワイトハウスと組んで「イラクに大量破壊兵器が」のキャンペーンを“成功”させてしまったのです。(のちに世界中のメディアが引用したニューヨーク・タイムズの“スクープ”はレンドン・グループの“成果”でした) もちろん「軍事」の中には情報操作も含まれますから、そういった宣伝工作もPMCのお仕事の一つであることはわかりますが、なんだか世界が一つの会社の思うがままに操られてその結果血がたくさん流れるのには、釈然としない思いです。
テロリストは国境を越えた“戦争”を行います。正規軍が真っ向からそれを相手にしても勝つことは困難です。軍は戦闘に勝たなければいけませんが、テロリストはとにかく負けなければいいのですから。結局テロリストに対抗できるのは、正規軍ではなくて、「国」に縛られない、という点でテロリストと同じ土俵に立てる合法的な民間軍事会社になるのかもしれません。しかし、彼らがまだ「傭兵」でいてくれればいいのですが、独立して動き出すようだったら21世紀は軍事的にはどこもかしこも騒がしい時代になるのかもしれません。
民主党も「サプライズ」で国民新党との合併を使おうと思っていたようですが、それもついでに尻すぼみになったのには笑ってしまいましたが。
【ただいま読書中】
『外注される戦争 ──民間軍事会社の正体』菅原出 著、 草思社、2007年、1600円(税別)
公教育では不十分だと国民が判断したらその国では塾が流行ります。では、警察官よりも武装警備員の方が多い国は? それは、国が安全を提供できなくなったと国民が判断したことを意味します。日本でも民間警備会社が繁盛していますが、欧米では民間人の警備だけではなくて戦争の一部を民間軍事会社(PMC)が請け負うことまで行われています。イラク戦争で派遣されたPMCの“社員”は各社合計で2万人を越えています(日本の自衛隊は600人)。3年前にイラクで安全コンサルタントをしていた斉藤さんが襲われた事件がありましたが、彼が雇われていたハート・セキュリティ社は、もともとはイギリスの特殊部隊員を多く集めたPMCで、従業員は2000人、売り上げは1億ドル以上です。仕事は、要人警護・施設や車列の警備が定番です。
アメリカの国防総省が民間委託を大々的に始めたのはベトナム戦争頃からです。逼迫した状況で、後方業務や航空機の整備などの非軍事的分野の民間委託が進みました。冷戦終了後、軍の縮小が行われます。1990年代に全世界で600万人の軍人が職を失いました。これによってマンパワー不足となった軍は業務の外部委託を進めます。そしてそれを受けたのが、軍を首になった元軍人たちでした。国防総省の委託を受けたヴィネル社がサウジアラビアの国歌防衛隊を訓練する契約を請け負ったのも(で、当時CIA長官だったジョージ・ブッシュは、サウジアラビア情報機関の近代化に尽力しているそうです)「国が表立ってできないことを民間会社が行う」例の一つです。誘拐犯との交渉やロイズ保険との関係など、PMCの面白い業務が紹介されますが、問題は直接的な軍事サービスです。アンゴラやシエラレオネで活動したEO社が知られていますが、国際法との関係(ジュネーブ条約では非戦闘員の扱いになる)やメディアの批判が強いことから、ここまでやる会社は少数派だそうです。
イラクの泥沼化は、PMCにとってはビジネスチャンスでした。ただし、契約を結ぶ側から見たら玉石混淆です。詐欺的な商法をする会社もあれば、エリート軍人をリクルートして質の高いサービスを提供する会社もあります。ただ、イラクでは様々な施設や車列が襲撃の対象となっていますが、そのためにPMCの本来の業務「防御」が不明瞭になる場合があります。さらに緊急時には正規軍と違って友軍の支援や救援を期待できません。一般の正規軍兵士より能力が高いPMCの社員にとってもきつい状況です。そのためイラクでは、米軍とPMC各社が情報を共有するシステムが稼働しています。
皮肉なのは、特殊部隊の人材不足です。テロ対策でいまこそ特殊部隊の活躍が望まれるのに、優秀な人材ほどPMCにヘッドハンティングされて軍を辞めてしまう動きが加速している、とのことです。その理由の一つはもちろん待遇(給料が数倍になる)ですが、もう一つは軍の訓練が時代遅れなこと。そのため米軍では特殊部隊の訓練プログラムを実践的で魅力のあるものに変更しています。
さらにPMCは「多国籍軍化」しています。フィジー・グルカ兵・フィリピン・コロンビアの人が本書では紹介されていますが、共通点は「アメリカ人より低コスト」(でも、彼らの現地での給与水準からはとんでもない高給)です。
CIAの秘密工作員の警護、なんてヘンテコな業務もありますが、本書に登場する中で一番印象的なのはレンドン・グループでしょう。この民間企業がホワイトハウスと組んで「イラクに大量破壊兵器が」のキャンペーンを“成功”させてしまったのです。(のちに世界中のメディアが引用したニューヨーク・タイムズの“スクープ”はレンドン・グループの“成果”でした) もちろん「軍事」の中には情報操作も含まれますから、そういった宣伝工作もPMCのお仕事の一つであることはわかりますが、なんだか世界が一つの会社の思うがままに操られてその結果血がたくさん流れるのには、釈然としない思いです。
テロリストは国境を越えた“戦争”を行います。正規軍が真っ向からそれを相手にしても勝つことは困難です。軍は戦闘に勝たなければいけませんが、テロリストはとにかく負けなければいいのですから。結局テロリストに対抗できるのは、正規軍ではなくて、「国」に縛られない、という点でテロリストと同じ土俵に立てる合法的な民間軍事会社になるのかもしれません。しかし、彼らがまだ「傭兵」でいてくれればいいのですが、独立して動き出すようだったら21世紀は軍事的にはどこもかしこも騒がしい時代になるのかもしれません。