【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

泉の女神

2010-05-04 18:49:17 | Weblog
ある政治家が泉に斧の落とし物をしました。嘆いていると女神が現われて「お前が落としたのは……」と聞いてくれました。嬉しさに驚いて政治家が女神を見つめると「……この『志』と書いてある斧か? それとも『お志』と書いてある斧か?」。政治家はためらわずに答えました。「両方です」。

【ただいま読書中】『王狼たちの戦旗(下) 氷と炎の歌2』ジョージ・R・R・マーティン 著、 岡部宏之 訳、 早川書房、2004年、2800円(税別)

四人の王を仮に甲乙丙丁と名付けましょう。ともに丁を敵としている乙と丙は、それなのに共闘をせず劣勢の丙が乙を殺します。丙は乙の大戦力をつぎつぎ併合していきます。いくつも小競り合いがあり、城がいくつも持ち主の旗の色を変えていきます。本書の流れの中で、名前のある剣がいくつもその持ち主を変えるように。ただし、派手な攻城戦は行なわれません。奇襲や暗殺など、あまりぱっとしない戦いによって城は落きます。正面切っての対決は大軍同士でなかなか動きづらく、大軍を率いて出たあとの“空き家”には盗人が忍び込みやすいのです。
これは著者の技巧です。戦いがあるぞあるぞとちょいと盛り上げてすかします。またちょいと盛り上げてまたすかします。そしてその合間に王都の混乱ぶりが詳細に述べられます。国内で高まっていく圧力は、王都に向かって集中していきます。まるでそこがはけ口であるかのように。ところが王都の内部でも圧力が高まっています。謀反の気配があちこちにあるのです。
〈壁〉の北方では、スターク家と野生人との間に意外な関係があることが示唆されます。海外ではドラゴンが順調に育っています。それにつれて、ドラゴンが滅びることによって弱まっていた魔法の力が世界にまた復活し始めます。
何人もの視点人物(女・子ども・障害者などの、ふつうだったら社会的弱者に分類される人たち)によってバラバラに進行していく大きな物語です。視点人物に見えるのは自分の回りだけ。そして遠くからの不完全な情報。当然欠落部分は大きく、それは読者が自分の想像力(と物語の細部を見落とさない注意力)で補っていかなければなりません。さらに、複雑な人物は複雑に描写されますが、単純に描写されている人物が単純であるとは限らないことが、こちらの頭を混乱させます。ある人の行動(たとえば、王の命令で王の婚約者を殴る騎士)が本当に見たままのもの以上の意味があるのかないのか、時に読者は深読みを強いられます。もちろん、単純にストーリーの流れに乗っかってその表面の模様を楽しむだけでも十分面白い物語ですが、本書では「読者の“読む”努力」によってその面白さは倍増する、と言えるでしょう。その努力の方向を示す著者のほのめかしが、これまた絶妙なんです。
ただ、そういった深読みをしていると、ある視点人物が殺された、という報せまで疑いの目で見ることになります。まだその人は“退場”の時期ではないだろう?と。
なんてぐずぐず思っていると、ついに大合戦が始まりました。まずは海戦。圧倒的な軍事力を誇っていたはずの「丁」も内情は火の車。圧倒的な敵に対して頭を使って戦いますが、そこで当然ティリオンの出番です。但し彼の“出番”はとんでもない形になってしまいますが。
大虐殺で終わった海戦に続いて、王都の攻囲戦。陥落寸前の所で意外な援軍が。
そしてそれと同時に北部でも戦いがあり……というところで次巻に続く、ですか。うわあ、図書館に予約をしなくては。