【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

一流から三流までの区別

2010-05-14 18:47:20 | Weblog
三流のものしかわからない人間には、一流も二流もきちんとした区別はつきません。「少なくとも三流ではない」と言えるだけ。一流のものしか知らない人間も同様に、二流と三流のきちんとした区別はつきません。しかし、二流のものしか知らない人間は、一流と三流の区別を明確につけることができます。

【ただいま読書中】『積分の歴史 ──アルキメデスからコーシー、リーマンまで』ニキフォロフスキー 著、 馬場良和 訳、 現代数学社、1993年、2446

アルキメデスは紀元前287年生まれ、防衛用器機の設計・建築をし、数学だけではなくて、静力学、水力学、天文学、工学の研究を行ないました。彼が行なった円錐の体積や円の表面積の計算は、積分そのものは用いていませんでしたが、積分の基礎を築いています。
ローマころから西欧で数学は衰退しますが、アラビア数学者はアルキメデスの方法(取りつくし法)を習得し放物線の求積などを行ないました。
大きな進歩は16~17世紀に活動したケプラーによってもたらされました。ケプラーは自分の第二法則(惑星の運動に要する時間はその動径ベクトルによって掃かれる面積に比例する)を立証するためには、楕円の扇型の面積を計算しなければなりませんでした(当時それは未解決の問題でした)。17世紀カヴァリエリは「不可分法」で積分の方法論の一般化を試みます。ガリレオの死の直前にその助手を務めたトリチェリは、不可分法を改良しました。
フェルマーは、デカルトとは解析幾何学の、パスカルとは確率論の基礎を築きました。また、フェルマーが発見した接線を引く方法は「微分」の応用です(ここからニュートンが微分を着想したのです)。フェルマーの光学の原理「光が二点間を通過する際には、最短時間で行けるような経路を通る」は20世紀にルイ・ドブロイとシュレディンガーによる物質の波動性の研究に繋がります。
そして、ロベスヴァール、パスカル、ウォリス、バローと積分の概念は発展していき、さらに微分と積分が逆演算であることが明らかにされます。そしてそれを受け継いだのがニュートンとライプニッツ。この二人によって17世紀の数学者たちの基礎的な課題「曲線に接線を引くこと(→微分)」と「求積問題(→積分)」に明確な関連づけがされたのです。ニュートンの業績は有名ですが、ライプニッツもこの分野ではニュートンに負けてはいません。積分記号を導入し、演算子のレベルで微分と積分の効果が逆であることを明確にしています。なお「積分」ということばは、ライプニッツの協力者となったヨハン・ベルヌーイが導入しています。
18~19世紀に、数学(だけではなくて科学や社会)は大きく変化しました。数学は、力学だけではなくて、物理学や経済学やテクノロジーでも大きく働くようになります。そこで登場するのが、コーシーとリーマンです。しかし本書は、そこでぷつんと閉じられます。リーマンより後はわざと触れられないのです。それにはまた別の一冊が必要になるのでしょう。
本書では単に「積分」が説明されるだけではありません。社会と数学の関係についても熱心に語られます。社会の中に数学があること(社会でどのように数学が認識され使われたか)と、数学の中にも社会があること(数学者同士の人間関係)がきちんと示され、それが本書の特徴となっています。
私自身は本書に載っている数式でゲップが出る程度の素養しかありませんので、一度高校の教科書に戻って基礎から勉強し直したくなりました。そういえばこの前本屋をうろうろしたら、大人のために高校の勉強をもう一度、とかいった本が並んでいましたっけ。