アメリカ大統領選挙で、共和党の予備選挙が白熱しています。ニュースでは有権者がロムニー氏について「経営者として成功した人だったら、任せられそう」と述べていました。
たしかに「企業の経営の視点」から「国の経営」を見ると、いろいろやりようがあるでしょう。
ただ私が気になるのは、「企業経営に成功した」ことではなくて「その成功で幸福になったのは誰か」です。企業に関係する人間は大別して「顧客」「株主」「経営者」「従業員(と家族)」となるでしょう。「利益の分配」という点で、残念ながらその全員の最大幸福は実現できないはずです。誰かが(ときには全員が)不満を持つことになるはず。で、企業におけるロムニー氏の“成功”で、誰が幸福になり誰が幸福になれなかったのでしょう。
で、もしもロムニー氏がロムニー大統領になって「国の経営」を始めたら、誰が幸福になり誰が幸福になれないのでしょう?
【ただいま読書中】『アメリカ革命』ジョン・フランクリン・ジェイムソン 著、 久保芳和 訳、 未來社、1961年、200円
1925年に著者がプリンストン大学で行なった講演の記録です。
ちょっとどきっとする始まり方です。アメリカ独立戦争を讃え、そこに多数の「英雄」がいたことを述べた後、「英雄的行為」は本来だったら不必要だった(「英雄」ではない同朋が、無気力・無関心でさえなければそういった難局は生じなかった)、と言うのですから。
著者は、アメリカ革命を単に「政治的」「軍事的」側面から見るよりも広い面「社会的側面」から見る、と宣言します。そこで“対照”として持ち出されるのが「フランス革命」です。共通点と相違点を見ながら、アメリカ革命を分析しよう、というのが著者の立場です。
アメリカ革命は、若者の体制変革運動であり、それまでの「上流階級の没落(下層階級の上昇)」をもたらしました。また博愛の実践も行なわれます。「自分たちの自由」を求める以上、奴隷制には反対、というわけです。1774年の大陸会議では「奴隷輸入禁止、輸入された奴隷の購買禁止」が謳われました。諸州も奴隷制度廃止に動きます(州によって温度差はありましたが)。
イギリス国王は、アメリカ植民地の拡大を制限する布告を出していましたが、それも革命で無効となりました。「開拓するべき広大な土地」が植民者(アメリカ人)の目の前に広がったのです。また、富裕層が多かった王党派の財産が大量に没収されました。州はそれを分割して売り出します。これによって「土地所有」の形が大きく変わりました。結果として、アメリカは「自作農の国」になったのです。
産業も進歩しました。武器製造などは盛んになりましたが、意外なもの、たとえば、輸入がストップしたために製塩業がアメリカでは盛んになりました。
貧乏国が高価な戦争をするために、紙幣が大量に発行され、大陸紙幣の価値は1/20にまで減価していました。物価は急騰しました。さらに奴隷貿易(州法で禁じられているので、密貿易)が大々的に“復活”します。
著者の思考は、思想と感情に向かいます。それまでの文化は大西洋の向こうからやってきてアメリカ式に変形したもの、でした。しかし独立によって「アメリカ人」が「アメリカについて」考えるようになったのです。
独立前に、9つの植民地には「国教」がありました。もちろん“それ以外の信者”も多数いたのですが、それらの人も税金を払って「国教」を維持する義務がありました。革命はそういった「宗教の社会的枠組み」にも衝撃を与えます。英国教会に対する反感が噴き出たのです。独立下の立法議会が開催されるやいなや、「信教の自由」を求める請願が殺到しました。さらに、「人はすべて平等」に立脚したと思われる宗教(反カルヴィン派)が勢力を伸ばします。
「革命とは、単に政治と軍事の話ではない」という軸に貫かれた講義録ですが、読んでいてなかなか気持ちよくなれます。「知性のきらめき」は、時代を超えて輝き続けるんですね。