「悪い知らせ」を宴曲に言ったり遠回しに言うと、まったく理解してくれない人がいます。ところがそういった人にわかるようにストレートに言ったら、「知らせの悪さ」を理解できた瞬間、そういった人は「悪い報せをもたらした使者」を憎むことに全力を尽くします。結局、そういった人の場合、「悪い知らせ」は、無視されるか対策を取るのが遅れてずっと放置されたまま、ということになってしまいます。困ったものです。
【ただいま読書中】『組織事故とレジリエンス ──人間は事故を起こすのか、危機を救うのか』ジェームズ・リーズン 著、 佐相邦英 監訳、 (財)電力中央研究所ヒューマンファクター研究センター 訳、 日科技連、2010年、4000円(税別)
30年以上「組織事故」について研究してきて、著者は「人間の不完全さ」にちょっと食傷してしまったのでしょうか。本書では「人間の驚異的なリカバリー」にも注目してみよう、とのことです。著者は本書を「複雑で潜在的な危険性を有するシステムの管理における哲学書」と定義づけます。内容は「リスクを合理的に実行可能な限りできるだけ低く保って、そのうえでビジネスを継続できるように、潜在的に危険性を有するシステムのなかで生じる問題への対処方法について述べる」こと。
まずは「エラー」と「違反」を「不安全行動」とまとめて著者は扱います。ただし、「不安全」かどうかは結果論です。結果として「安全」になる場合もあるものですから。
「スイスチーズモデル」の時代変遷は、私には興味深いものでした。私が知っているのは一つだけでしたので。
直接観察によって、航空機の操縦室内では年間1億件のエラーが生じている、と推測されました。しかし実際に起きる事故は機体損傷事故が毎年25~30件です。イギリスで165件の新生児の心臓の大手術の直接観察から、手術1件当たり平均7個のエラーが見つかりました。しかしそれはすぐにリカバーされ子供の死亡率には影響を与えていませんでした。では、どうやって「エラー」がリカバーされていたのでしょう。
本書の後半では、まず「スペイン独立戦争での撤退戦」「朝鮮戦争での撤退戦」「タイタニック号沈没に急行して生存者救助を行なったカルバチア号の行動」「アポロ13」「ブリティッシュ・エアウェイズ09便(飛行中に火山灰によって全エンジンが停止)」……などの実例が挙げられます。「ヒーロー」たちの紹介です。さらに外科手術の分析から「優秀な外科医」とは「正常から逸脱した事象に対して上手く対応できる能力を持っている」ことがわかります。それと「柔軟な楽観性」も。そういった外科医個人の資質だけではなくて、「チーム」もまた重要であることが本書では述べられます。そういえば、本書で挙げられている航空機の事例でも「ヒーロー」は基本的に一人ではありませんでした。
「驚異的なリカバリー」の源泉は何でしょう。言い換えると「生まれてからこれまで出会ったことがない突発事に、短時間で最適の回答を出す秘訣」とは何か、です。それを簡単に述べることは困難ですが、著者は二つの要因を抽出します。「現実的楽観主義」「古いことと新しいことのバランス」。それによって「起ってしまった悪いことからのリカバリー」が生まれるようです。
さて「組織事故」については「個人を責める」から「組織で事故を予防するようにする」に社会は少しずつ変化しています(まだ「個人を責めればいい」と思っている人も多くいますが)。しかし著者はそこからもう一歩先に行っています。「レジリエンスを高めればいい」と。ただ、そのためには具体的にどうすればいいのでしょう。著者の次の著作を待つか、自分で考えるか、でしょうか。