【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

確定申告

2012-02-16 18:47:27 | Weblog

 確定申告のシーズンとなりました。昨年は相談会場に行ったらそこのパソコンで申告をしてみるように勧められて、やってみたら簡単だったので、今年は自宅でやってみようか、と思っています。ただ、小道具(住民基本台帳カードとICカードリードライタ)を揃えなければなりません。区役所と家電量販店に行かなくちゃいけないし、なにより心配なのはデータの安全性……って、昨年やっちゃってるから今さら心配しても始まらないか。

【ただいま読書中】『エンロン内部告発者』ミミ・シュワルツ/シェロン・ワトキンス 著、 酒井泰介 訳、 ダイヤモンド社、2003年、2800円(税別)

 天然ガスパイプライン会社としてスタートしたエンロン社は、規制緩和の波にうまく乗り「未来を創造する企業」として急速に発展していました。売り上げは40億ドルから600億ドルになり、経営は多角化され、成長目標は株価が年率20%の上昇! 優秀な若者たちがエンロンに集まります。仕事はきわめてハードですが、上手くいけば(上手くいったとアピールできれば)6桁以上のボーナスです。天然ガスや原油の取り引きから、「市場」はどんどん拡大します。エンロンの社員でさえ追いつけないくらいの速度で。ちょうど「金融」が大ブームとなった時代で、様々な手法が導入されるようになっており、エンロンもそのブームに乗ったのです。
 さらに会社の会計さえも、「金融」の手口が使われるようになりました。先物取引の利益を先に確定したりすることで、会社にとって都合の良い“数字”が“作られる”ようにさえなったのです。そういったことを「これぞ時代の最前線」と推進する人もいれば「危ういぞ」と思う人もいました。ただし「いけいけ」の企業には、後者の人間の居場所はありませんでした。
 1997年「フォーチュン」はエンロンを「国内で最も革新的な企業」としました。“我が世の春”です。マスコミは絶賛し、政治家や官僚はエンロンに群がりました。しかし……
 多くの人が登場しますが、軸になるのは著者であるシェロン・ワトキンスです。野心に燃え多額のボーナスに尻をひっぱたかれて成功を夢見る彼女は、様々な障害を乗りこえて出世をしていきます。順風満帆ではなかったからこそ、エンロン社内部での様々な矛盾点や欺瞞などを無視できなかったのでしょう。
 取り引きは複雑性を増します。ある試合に賭けるのに「どちらのチームが勝っても儲かる賭け方」があるかのような話が次々登場します。「未来の大儲け」が次々“先取り”されます。「曲芸のコマ」は回り続けます。上がり続ける株価・革新的な評判・気前の良い貸し手たち・好意的なマスコミ評。
 「そんな美味い話があるのか?」と疑問を持つ、社内の人間・監査法人・銀行などは次々“説得”されてしまいます。しかし、ここで描かれる、インサイダー取引・信用詐欺まがいのぼろ儲け・カリフォルニア州の電力危機を利用して(あるいは積極的に危機を起こすことで)の大儲け、などの話を読むと「醜いなあ」と感じます。こんな感想を持つから私は大儲けができないのかもしれませんが。
 なんとか副社長になったシェロン・ワトキンスですが、仕事に満足感はありません。さらに会社の資産を精査したところ、数億ドルの損失が隠されていることを発見してしまいます。特殊な会計処理ではなくて明らかな申告所得操作によって。シェロン・ワトキンスは事実を書いたメモをCEOケン・レイ宛てに書きます。このままではエンロンは終わってしまうから、まずは正直に告白し過去の決算を修正し、その上で少しでも助けられるものを助けるべきだ、そのために自分も貢献したい、と。しかし、社内の反応は冷ややかでした。彼女は騒ぎ立て屋・スキャンダルを起こす者・トラブルメイカー・会社を潰す者、と見なされます。彼女を首にした場合の社会的影響を考えて、かろうじて社内にとどまることは許されますが、シェロン・ワトキンスは“窓際族”になってしまいます。事実を糊塗しようとしますが、エンロンは「致死の連鎖」に陥っていました。株価と格付けと評判は下がり続けます。
 このときの“転落”の激しさ、人びとの“恩知らずの態度”には、ちょっと気分が悪くなります。敗戦で「天皇陛下万歳」から「民主主義万歳」にあっさり切り替えた日本人の行動は、ちっとも特異なものではなかったんだ、とも思えます。
 事件は「強欲な幹部が、真面目な社員や株主を欺して甘い汁を吸っていた」と俗受けされるように単純化され、シェロンは「内部告発者(ホイッスル・ブロワー)」の地位を与えられます。「ヒーロー」扱いです。しかし、彼女は(そして他の従業員も)それほど自体を単純には受けとめていませんでした。エンロンは複雑な会社で、そこにあるのは「暗黒面」だけではなかったのですから。
 「エンロン」は単純ではなく、「エンロン事件」も単純ではありませんでした。それをしっかり知るためにだけでも、読む価値のある本です。もちろん「エンロンの特異性」「強欲資本主義の実相」「内部告発者の辛さ」など読みどころはたくさんありますが。