「投資顧問会社の監督を強化する」と政府が言っているそうです。
これで私が想起するのは、2005年の「耐震偽装問題」です。監督官庁がちゃんと“監督”せずに民間に丸投げで好きにさせていて、それで大問題が発生してからあたふたと「監督」を強化する、という点がそっくりですので。というか、官僚はあの事件からきちんと学んでいない、ということなのでしょうか。
ところで、日本の「監督官庁」の“監督”って、正直者を苦しめて、嘘つきは栄えさせる傾向がありません? 私自身、政府の監督を受ける業界に身を置いていますから“偏見”があるのかもしれませんが、監督官庁の一番の興味は「権限を振りかざすこと」であるようにしか見えないことがあるんですよねえ。非論理的で不合理な行政指導がはびこっていますから。「国民の利益」はだから、二の次。あ、違った。お役人様が大事にしているのは、「人事」が二番目、「自分の老後の確保(天下り)」が三番目のように見えるから、国民の利益は四の次だ。
【ただいま読書中】『アメリカにおける秋山真之(上)』島田謹二 著、 朝日新聞社(朝日選書52)、1975年、1200円
日清戦争が終わって1897年に米国留学を命じられた秋山真之は、素晴らしい論文を発表している退役大佐マハンのアドバイスを受けて、猛勉強を始めます。当時アメリカは近代海軍を作り始めたところでした。“後進国”だからこそ、新しい発想で合理的な海軍を構築しようとしている態度に、秋山は驚きます。用兵・戦術・人事・造船など知るべきことは豊富にありますが、さらには「報告の書き方」まで秋山は学びます。アメリカには“良いお手本”があったのです。
当時日米関係は「ハワイ合併」をめぐってごたごたしていました。しかし「国益」を見たら、ハワイよりはアメリカの方が重く、日本海軍は二等巡洋艦を二隻アメリカに発注します。それが、のちに日本海海戦で活躍する「笠置」と「千歳」です。
エスパニアが植民地としていたキューバでは独立運動が起きていました。「圧政からの自由」というスローガンはアメリカ人の心をくすぐります。アメリカの干渉を恐れるエスパニアは、多国間の外交による解決を試みますがヨーロッパはまとまらず、国内では保守党政権のカノバスが虚無主義者に暗殺されるなどの混乱があり、アメリカのマスコミは金切り声を上げ続けます。そして、ハバナ港に停泊していた戦艦メーンが爆沈。死傷者多数ですが、日本人もコックやボーイとして8人乗り組んでいてうち6名が死亡しています。アメリカのイエローペーパー(代表はハースト系の新聞)は「エスパニアの挑発」と憤激し、戦争を煽ります。「エスパニア艦隊」がやってきてアメリカの東海岸を砲撃して回るぞ、と。
本書には両国海軍力のデータも載せられていますが、戦艦部門ではアメリカが優位、エスパニアは装甲巡洋艦で優位、と言ったところで、紙の上ではそれほどの優劣は見えません。国内事情とか士気の点ではエスパニアは劣勢。補給や修理の点ではエスパニアは絶望的でしょう。
アメリカ議会は、キューバ独立を認め、キューバのエスパニア人を追放する権利をアメリカ大統領に認めます。エスパニアは当然それに反発。かくして米西戦争開始です。まずは極東。マニラ湾で両国のアジア艦隊が戦闘し、米国の圧勝。
次は大西洋です。スペインを出発したエスパニア艦隊の行方をアメリカは必死に探ります。大西洋を越えてきたエスパニア艦隊が石炭などの補給に立ち寄る第1候補はプエリト・リコのサン・ホワン港です。アメリカ艦隊がそこで待ちかまえていることはエスパニアも承知のはず。ではどうするか。お互いに、相手の出方を読み合い、給炭に苦労し、少しでも自分たちに有利なように状況を変えようとします。エスパニア艦隊はついにサンチャーゴに入港、アメリカ艦隊はその外側で封鎖線を敷きます。
秋山は「軍事視察」という名義で「観戦(文字通り、戦争を観る)」をすることになります。これも“勉強”なのです。各国の海軍武官は戦艦に泊まり込みます。
キューバのエスパニア陸軍は10万の大軍でした。それを降伏させるためには、アメリカ陸軍(数と武装ではエスパニアより劣勢)の力だけではなくて、制海権も必要です。サンチャーゴ港封鎖のために、給炭船を自沈させる作戦が行なわれました。
秋山大尉は、この戦争をその目で見ていたわけです。もちろん彼も、兵学校で学び英国に留学し日清戦争での戦闘体験を持っています。しかしアメリカで「戦争(全体像)」を掴むことができ、さらに作戦が「上手くいく場合」と「上手くいかなかった場合」の両方を見ることによって、秋山の才能が大きく開花したのではないでしょうか。なにしろ、のちの日露戦争での“予告”がたっぷりあちこちに散りばめられているのですから。
逆に言えば、「机上の空論」しか知らない人間が戦争の指揮を執るのは、とっても恐いことだと言えるでしょう。素早く損害が少ない勝利を得られる確率が減ってしまいますから。だからとしって、軍人の戦争体験を豊富に積ませる、というのは、つまりは「もっと戦争を」ということになってしまいます。う~む、これは困った。