【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

定量・定性・反応の制御

2012-02-24 18:30:00 | Weblog

 台所での料理と、理科室での化学実験と、基本的には似ていません?

【ただいま読書中】『実況 料理生物学』小倉明彦 著、 大阪大学出版会、2011年、1700円(税別)

 「料理生物学入門」は正規の大学の基礎セミナーです(でした)。受講資格は「何でも食べられること」。15人くらいの小規模体験授業で“学んだ”ことの記録が本書です。
 まずは「カレー」。コロンブスが新大陸から持ち帰った様々なナス科の植物を材料に「心皮」「子房」と言った言葉を学びます。うらやましいことに、明治5年に出版された日本最初のカレーレシピどおりに作られたカレーの試食会があります。鶏・海老・鯛・牡蠣が入った豪華なカレーですが、もう一つ意外なタンパク源が。
 第2講は「手打ちインスタントラーメン」。班分けをして、うどんとスパゲッティも手打ちをします。粉をこねて寝かしている間の講義で、それぞれの麺でタンパク質のSS結合を行なうメカニズムが異なることがよくわかります。
 第3講は「ホットドッグ」。腸詰めを手作りします。しかし、挽肉をこねこね(混捏)したときに出てくる粘りは、細胞が壊れて出てきたDNAによる、って、ご存じでした? なるほど、だからちょっと水を加えて浸透圧で細胞が壊れやすくするんですね。(食品工業ではさまざまな増粘剤が使われますが、魚の白子も核酸系の増粘剤として使われるのだそうです。DNAがやたらとリッチな材料ですから)
 第4講は「お茶」。お茶とコーヒーの関係が生き生きと語られます。というか、著者は何でも生き生きと語るんですけどね。
 第5講は「焼き肉」。牛の第1胃から第4胃のそれぞれの機能と形態の関係、焼くと色が変わるのはメイラード反応、シュールストレミング体験記、キムチの効能……これが授業? いや、たしかに知らないことが次々出てきて楽しい“授業”です。
 あとはお酒とデザートで、みごとな“フルコース”が完成しています。
 料理を入り口として、生物学だけではなくて、歴史や文化や医学など、蘊蓄の限りを尽くした本です。この本自体を楽しむのも良し、この本を“入り口”として、興味を持った方向に少し深掘りをしてみるのも良し、様々な楽しみ方ができます。