有力な地方豪族が、朝廷に帰順して(あるいは帰順したふりをして)そのまま領地をいわば“安堵”され、中央には税を送ったらあとは自分のやりたい放題、といった感じの官職が国造ですが、大化の改新で郡県制が採用され、その後おかれた国司によって国造はその立場を失うことになりました。wikipediaには「国造(くにのみやつこ・こくぞう・こくそう)は、古代日本の行政機構において地方を治める官職のこと。また、その官職に就いた人のこと。軍事権、裁判権などを持つその地方の支配者であったが、大化の改新以降は主に祭祀を司る世襲制の名誉職となった。」とあります。
あら、これって、かつては武力を伴う最有力豪族だった天皇家がいつのまにか「主に祭祀を司る世襲制の名誉職」となってしまったことと重なります。
歴史は繰り返す?
【ただいま読書中】『職人力! ──トシ・ヨロイヅカのパティシエ哲学』鎧塚俊彦 著、 朝日新聞出版、2011年、1500円(税別)
高校の時に始めたバイトに夢中になりすぎて、高校に4年間通った著者は、22歳の時一念発起して辻製菓専門学校に入学、その後菓子職人として働きます。ここまででもう「一つの人生」ですが、本書はまだ数ページ。
無我夢中で働いた著者は6年でホテルのパティシエ2番手にまで到達します。しかし、著者はそれに満足しません。一からやり直そう、と渡欧するのです。しかし持っているのは観光ビザ。3箇月で帰国しなければなりません。そこで労働ビザを得るために見せる著者のガッツは、本当に大したものです。
それにしても、著者が働いた店は朝6時からやっていたり、元旦も営業していたり、文化というのは違うものなんですね。ついでに、スイスの通勤電車では居眠りしている人はいないそうです。「スイス人は、ベッドで眠る」のだそうで。
最先端のフランス菓子を学ぶ前に伝統的なウィーン菓子を学ぼうと著者が次に向かうのは、ウィーン。人との出会いの連鎖と仕事や勉強を熱心にすることで、著者には次々“新しい扉”が開きます。いや、著者が扉を開いていきます。ウィーンでも充実した日々を過ごした著者は、次は念願のフランスを目指しますが、良い職場が見つからずそこでかかった口はベルギーでのショコラティエ。これはこれで良い経験、と思いますが、条件はなんと「月に10万円支払え」。著者は怒って、飛込みで就職先を探します。それにしても「朝5時に来い」とか「朝6時に来い」と言って、それで一日一緒に働いて採用するかどうかを決めるとは、パリのやり方はきわめて“実戦的”です。
レストランデザートを学ぶために入ったベルギーの三つ星レストランでは、著者が作ったバースデイケーキを見て、客は感極まって涙を流します。そんな思いをしてみたいものですし、させてみたいものです。
美しくて美味しいお菓子が「たった一つの味」や「たった一つの色」からできていることは普通ありません。様々な材料を菓子職人が様々な工夫をして「一つのお菓子」を仕上げます。そしてその菓子職人も、様々な人生経験や修行や出会いから“仕上げ”られています。さらに、お菓子も菓子職人も、変化(または進歩)を続けていきます。本書を読んでもお菓子作りは上手にはなりませんが、お菓子とお菓子職人との美味しい関係を読み取ることはできました。私が上京して著者のお店の行列に並ぶことがあるかどうかはわかりませんが、美味しいお菓子が食べられる世の中が続いてほしいものだ、とは思います。