一年前のNHKの朝ドラ「梅ちゃん先生」は、焦点のぼけた学芸会でした。その次の「純と愛」は21世紀版の「おしん + 細腕繁盛記」の雰囲気でしたが、ちょっとキャラを作りすぎ。で、今の「あまちゃん」は、安心して見ていられるコメディーです。特に宮本信子さん、たとえば演じる年齢で起居動作発声をきちんと演じ分けているのは、役者だから当然とは言えますができていない役者がやたら多い現状では、見ていて嬉しくなります。
ただ、ドラマの時代設定が……アキの母親が家出したのが1984年で帰ってきたのが24年後ですから、ドラマの「今」は2008年なんですよね。ということはすぐに「2011年」がやってくることになります。あああ、なんだか、気楽に笑っていていいのか、と思ってしまいます。
【ただいま読書中】『七花、時跳び!』久住四季 著、 明星かがよ イラスト、アスキー・メディアワークス(電撃文庫)、2010年、590円(税別)
タイトルを見て私が連想するのは「時をかける少女」と「七瀬シリーズ」です。おや、どちらも筒井康隆。でもまあ、21世紀のライトノベルですからねえ、どんなものが出てくるやら、と興味半分好奇心半分で読んでみることにしました。(ちなみに、ライトノベルはこれが“初体験”かもしれません)
どこにでもあるような高校で、先のことを考えるのもかったるいと思っている(でもそれなりに切迫感も感じている)高校三年生の柊和泉は、クラブの後輩七花が「時を跳ぶ能力」を持っていることを知ります。そこで柊は「ちょっと試してみよう」というノリで、二人手をつないで過去に跳んでみることにします。で、本当に過去に戻ってびっくり。そこにもう一人「自分」がいるではありませんか。
……いや、いるのが当然なんですけど、柊君は、そこまで驚きますか?の反応をしてくれます。これまで死ぬほど退屈な人生をだらだらと生きてきたことの反動かな?
柊君はSFも含めて「20世紀(以前)の古い本」なんか明らかに一冊も読んでいません(著者は明らかに読んでいます。念のため)。柊君は21世紀の本も読んでいるかどうか、あやしいものです。しかもノリで行動するものだから「無知と若さゆえの過ち」がぼんぼん登場します。いやあ、青春だなあ。
それにしても「タイムパラドックス」をわざと起こしてみよう、という“勇気”にはこちらが引いてしまいます。結局やろうとして失敗するのですが、その後になってからタイムパラドックスのお勉強が始まります。これは20世紀の古いSFなんか読んでいない人のための「SF入門講座」ですか?
「美少女との全力での体当たりでの出会い」という定番シチュエーションで話は始まり、知的で巨乳の同級生とか身長コンプレックスを持っている女教師とか“定番のキャラ”も配置され、エロの雰囲気をちょいと匂わせつつ、ラブコメ未満というか未然の学園青春タイムリープドラマはぴょこぴょこ跳びはねながら元気いっぱい進行します。でも「時間軸に関する論理の整合性」は堅苦しいくらいきっちりと守られているので、ご安心を。しかも最後に出てくる「タイムパラドックスの“回避法”」では、量子論での観測問題を初めて知ったときに感じた心の震えを私は時を経て再現できたような気がします。ひたすら軽くて明るいけれど、私のようなすれっからしのSFファンでもけっこう楽しめる本でした。