【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

三輪は二輪か四輪か

2014-07-04 06:56:52 | Weblog

 「トライク」という乗り物があります。横から見たらオートバイなのですが、よくよく見たら三輪車。二輪だから「バイク」、三輪だから「トライク」です。
 ところがこれが日本の官僚が大好きな「細かい規制」の隙間にぽっこりと落ちてしまいました。普通の人が持つ運転免許は「普通免許(自動車用で原付も運転できる)」と「自動二輪」です。ところが「トライク」は「二輪」ではないから乗るために「自動二輪免許」は必要としません。だって「三輪」という文字列は「二輪」とはちがうでしょ? だから「トライク」は官僚の解釈では「オート三輪と同じ」となって、普通免許で乗れることになっていました。ところが「普通免許で乗る物」は乗るときにヘルメットが要りません。
 え?と思います。それだと事故の時に危ないでしょう? だけど官僚の目からは「条文を守っているから大丈夫」だったようです。で、事故が起きてノーヘルの人が犠牲になってから、やっと道路交通法の改正に動いた、ということなのですが……(アメリカはたしかバイクでもノーヘルOKだったと思いますが(『イージーライダー』もノーヘルでしたね)、転ける可能性が高いものは(官僚が「かぶらなくて良い」と言っても)ヘルメットを着用した方が安全度ははるかに高まると私は考えます)
 そういえば、普通免許で原付に乗れるのも、危なくないです? 二輪には二輪の乗り方があるのですから、それをきちんと学んでいた方が良いと思うのですが。「原付」は原動機付き「自転車」で「自転車」には免許制度がない、だから実技試験がなくても大丈夫、と文字列だけ読んで官僚は判断しているのでしょうが、それで本当に大丈夫なのかなあ。それだったらむしろ自転車免許を作ってその延長線上に原付免許をおいた方が日本の交通の安全度は高まるのではないかしら。

【ただいま読書中】『日本の文化と乗り物』澤喜司郎 著、 成山堂書店、2013年、2800円(税別)

 日本文化の“内側”にいると当たり前のことが、外から見たら興味深い、ということはある意味当たり前のことでしょう。本書は「交通文化」の本です。「乗り物」と関連して取り上げられる「日本文化」は「マンガ文化」「宗教」「自然との共生」「食文化」「キャラクター文化」「遊びの文化」「伝承文化」「観光旅行文化」「郷土文化」「官僚文化」「企業の『和』文化」「技術文化」……ちょっと意外な切り口ですね。文化は「生き方」や「人のあり方」ですが、それが目に見える形で存在するのが「日本的な物」です。本書ではそれを「乗り物」という、文化によって発生しそれがまた逆に文化を支えている「物」を見つめることで具体的に日本文化に迫っていくわけで、読む前から「さて、どこに乗せていってくれるのだろう」と私の期待は高まります。
 四国では、JRや土佐くろしお鉄道で特急「アンパンマン号」が走っています。JR西日本境線では、普通定期列車として「妖怪列車」が走っています。車外にも車内にも「ゲゲゲの鬼太郎」のキャラクターが描かれているのです。「銀河鉄道999」は全国あちこちで走っています。ポケットモンスターは飛行機にもラッピングされています。
 参詣や初詣に参るための鉄道もあります。江戸時代の「恵方参り(氏神または恵方にある社寺に初詣をする)」は庶民の手軽な観光旅行でしたが、その延長線上に宗教と関連する鉄道(やロープウェイなど)が存在しています。ただ宗教心が変化した戦後、そういった鉄道は存続が苦しくなっています。
 「自然との共生」で扱われているのは、たとえば急流下りの船・オープントップのバス・トロッコ列車などです。
 「食文化」では、駅弁や車内販売、屋形船での食事、レストラン船など。食堂車が出てこないなあ、と思ったら、今の日本では食堂車はほとんど絶滅危惧種だったんですね。
 「キャラクターと乗り物の融合」の例は豊富です。これってたぶんきわめて「日本的」なのでしょうね。神話や昔話やおとぎ話の登場人物(動物)、ご当地キャラ、ご当地ヒーローなどが、実に様々な乗り物にくっついています。写真を見るだけで非常に楽しめます。
 ちょっと意外な「文化」が「官僚文化」です。日本人の無自覚的で諦観的な現状肯定(「仕方ない」)によって官僚文化が肥大している、と著者は辛辣です。たとえば新交通システムのがちがちの法規制。もっと「官僚」のにおいがぷんぷんするのは、第三セクター鉄道です。ともかく、官僚文化の特徴は「多様性の否定(画一化)」です。そのため乗り物の自由な競争や発展や新しい試みは片っ端から阻害されます。ああ、たしかに「日本的」。
 「乗り物」とは「人が乗る物」と思っていましたし、それは間違いないのですが、人だけではなくて「文化」も運んでいたようです。一度客観的に「乗り物に乗っている自分」を見つめてみても良さそうです。