私が生まれた頃には森永ヒ素ミルク事件がありました。幼児期にはサリドマイド事件。小児期には米ぬか油事件。交通戦争が激化したのもあの頃からです。
サリドマイドはともかく、よくもまあ、生き延びてこられたものだ、と我が身の幸運に感謝します。
【ただいま読書中】『日本の薬害事件 ──薬事規制と社会的要因からの考察』医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団 企画・編集、薬事日報社、2013年、10000円(税別)
本書で取り上げられているのは、以下の15の日本の薬害事件です。「ジフテリア予防接種」「ペニシリンショック」「サリドマイド」「アンプル入り風邪薬」「スモン」「筋短縮症」「ダイアライザーによる眼障害」「エイズ」「血液製剤(フィブリノゲン製剤)によるHCV感染」「陣痛促進剤」「MMRワクチン」「ソリブジン」「人乾燥硬膜によるプリオン感染(CJD)」「牛心嚢膜抗酸菌様感染」「ゲフィチニブ」。
さて、この中でいくつご存じです? 私も全部を詳しく述べることはできませんが半数以上は知っています。ほかにも、クロロキンとか最近だったらイレッサやプロポフォールとかを私はすぐに思いますが、上げていたらキリがないでしょうから、とりあえず一冊分、ということなのでしょう。
本書で面白いのは、見開きで左側が日本語、右側が英語で構成されていることです。世界中に発信しようという意図でしょうか。
それぞれの事件は、まず「概要」が述べられてから「事件から学んだこと」が書かれています。
それぞれの被害者はお気の毒ですし、それを行政の怠慢などで被害を人為的に拡大させているのを見ると、「厚労省」は昔から「厚生省」だったんだな、とも思います。
印象的なのは「アンプル入り風邪薬」です。高度成長期に、風邪ぐらいで休めるか、と薬局でアンプルに入った総合感冒剤(ほとんどにピリン系の薬物を配合)をくいっと飲んで出勤する、という“ブーム”だったのだそうです。「アンプル」って注射のための容器ですから、そこから飲むとよく効く気がするのでしょう。ところが爆発的に売れたものだから「ピリンアレルギー(ショック)」も多発して死者が多発。様子を見ていた厚生省はまず販売停止にしますが市場からの回収をしなかったため死者が続発。とうとう各製薬企業に市場からの回収を“要請”し、各社は「回収及び返品に伴う損失を補填する優遇措置」を条件に回収に応じました。これでやっと市場から3000万本のアンプルが回収されています。さらに厚生省は「会社に損害を与えたこと(自分で販売許可を出しておいて、あとから回収させたこと)」を各企業に陳謝しました。
厚生省がどこを向いて仕事をしているか、よくわかる事例だと私には思えます。企業の方には配慮をする、ということです。では「被害者(国民)」の方へは?
厚生労働省設置法にはこの役所の「任務」を「経済の発展に寄与するため」とされていますから、「企業重視」は不思議ではないのですが、この姿勢を貫く限り、これからも「薬害事件」は起き続けることでしょう。「薬害」は「薬」と「人体」の相互作用で、必ず一定の確率で発生します。しかしそれを「事件」に育てるのは「行政の不手際」ですから。