【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

神仏の監視

2014-07-08 06:47:03 | Weblog

 子供時代にお寺の講話で「仏様はいつでも見てらっしゃいます」と言われたことがあります。教会の日曜学校では「神様はあなたがたをいつでも見ておられます」とも言われました。
 私がイメージしたのは、(白黒の)ブラウン管テレビがずらりと並んだ部屋で神仏がじっと地上を監視している姿でした。
 ところで「私」って、神様にも仏様にも注目されるような大物でしたっけ? こんなものにどうして神仏は興味を持つのでしょう?

【ただいま読書中】『空の黄金時代 ──音の壁への挑戦』加藤寛一郎 著、 東京大学出版会、2013年、2800円(税別)

 本書の“主人公”は、フローレンス・ロー(のちにパンチョ・バーンズと自称)、ジェームズ・ジミー・ドゥリットル、ジャッキー、そしてチャールズ・チャック・イェーガーです。ドゥリットルは42年の東京爆撃、のちのヨーロッパ爆撃で有名ですし、イェーガーは人類で初めて音速を突破したパイロットです。しかしパンチョとジャッキーについて私は知りません。本書ではこの4人の男女の人生とそれぞれの密接な関係、そして「空の黄金時代」について述べようという盛りだくさんな本です。
 フローレンス・ローは金持ちの子供として1901年に生まれました。ジャッキーは貧乏な里親の家庭で育てられていました。生年は不明ですが著者は1906年ころと推定しています。
 第一次世界大戦、陸軍少尉のドゥリットルは航空隊に応募し複葉機で飛び始めます。ジャッキーは子供時代からずっときびしい労働を続け、少しずつ最底辺からのし上がっていきます。1922年ドゥリットルは24時間以内アメリカ大陸横断に成功。MITに国内留学し、飛行機の破壊実験(飛行中にどのくらいの加速度を加えたら飛行機が破壊されるか)を加速度計を搭載して自ら研究し論文にまとめます。「良家の子女」におさまりきれないフローレンスは、映画と乗馬に興味を持ちます。さらに「パンチョ・バーンズ」と名乗るようになり、飛行機の操縦を習い、夢中になります。
 大恐慌直前、アメリカではエア・レースが盛んになります。「空の黄金時代」の到来です。スピードだけではなくて正確性も向上します。飛行機の計器開発にもかかわっていたドゥリットルは、完全計器飛行(離陸~飛行~旋回~着陸)を成功させます。
 せっかく巨額の遺産相続をしたのにそれを贅沢三昧で食いつぶしたパンチョは、沙漠の農場を本拠地とします。すぐ隣に乾湖があり、そこが天然の飛行場として使えたのです。第二次世界大戦が始まり、ドゥリットルは軍務に復帰、ジャッキーは(官僚主義と性差別主義者の妨害を乗り越え)イギリスに爆撃機を運ぶ初の女性パイロットになります。
 この頃、やっとイェーガーが“歴史”に登場します。イギリスに派遣され、「エース」として大活躍します。パンチョの農場の“隣”ではミューロック陸軍空軍基地が大拡充されます。パンチョは最初は私的に軍人を接待していましたが、やがて農場を有料の社交場にします。
 終戦後、ミューロック基地はジェット機のテストセンターとなります。パンチョの農場は会員制の飛行宿となりますが、会員番号1はパンチョの旧友ドゥリットルに与えられました。イェーガーは高卒のハンディを乗り越えてテスト・パイロットとなりついに音速を突破し、パンチョの店の常連となります。「飛ぶ人々」にとって「良い時代」でした。
 しかし、良い時代はいつかは終わります。基地の拡張で周囲の土地は収用されますが、パンチョはそれに抵抗します。そして、パンチョの店は不審火で全焼。
 ドゥリットルの自伝には、とても親しかったジャッキーもパンチョも登場しません。著者はそこに注目して、ある推理を立てています。それが当たっているかどうかはわかりませんが、当時のアメリカにはいろいろ“大人の事情”があったのかもしれません。「当時」「アメリカ」と限定する必要もないことでしょうけれど。