俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

デマ

2008-02-02 15:11:53 | Weblog
 「食い合わせ」という伝承がある。主なものは「鰻&梅干」「天麩羅&スイカ」「天麩羅&氷」「フグ&青葉」「蟹&柿」「トウモロコシ&ハマグリ」「蛸&梅」「松茸&アサリ」「鮎&ゴボウ」などだ。
 私はこれをある程度根拠のあるものだと思っていた。貝原益軒の「養生訓」の「同食の禁」に基づく、科学的ではないが経験に裏付けられた民間伝承だと思っていた。
 ところが実際に「養生訓」に当たってみたところ、これらは殆ど載っていない。唯一「蟹&柿」だけが掲載されていた。かの有名な「鰻&梅干」も載っておらず代わりに「鰻&銀杏」が載っていた。
 更に驚いたのはいの一番に「豚肉&ショウガ」が載っていることだ。定食屋の定番メニューが食い合わせとはどういうことだろうか?どうやら「養生訓」そのものが怪しげな本で、その「養生訓」の権威に頼る伝承はもっといい加減な代物だということが分かった。
 それにしても「食い合わせは養生訓に基づく」と話す人は原典に当たらずに聞きかじったことをそのまま伝えているのだろう。聞いたことをそのまま鸚鵡返しする人が何と多いことか。食い合わせの嘘以上に、このことに恐怖を感じた。

農薬入り中国製餃子

2008-02-02 14:57:15 | Weblog
 農薬入り餃子事件をきっかけに中国の天洋食品の商品が店頭から姿を消した。ここまでは正常な反応だ。天洋食品の製品からいつ次のメタミドホスが発見されるか分からないからだ。
 しかし中国製品や餃子を総て排斥しようとするなら困ったものだ。危険なのは天洋食品の一部の商品であって、中国製の全商品やあらゆる餃子が危険な訳ではない。
 昨日「餃子の王将」へ行った。風評被害で客が減っているかと思ったが、全然影響は無いようで空席待ちになるほど流行っていた。餃子については風評被害は無いようだった。
 中国製品はそうは行かない。一事が万事として排斥されつつある。中国製品がこんなに排斥されるのは前科があるからだろうか、それとも普段から「安かろう悪かろう」と思われているからだろうか。
 毎度繰り返されるこうした過剰反応は国民にとっての損失でしかない。マスコミと小売業者は事実よりも責任回避に向かう。「危なくない」と主張して1件でも事故が発生すれば責任を問われるからとりあえず「危ない」と主張する。危ない可能性が限りなくゼロに近くても「危ない」と主張したほうが「安全」だからだ。こうして多分99.999・・・%の中国製食品は安全でありながら廃棄されているだろう。一連の中国バッシングに基づく食品廃棄は貴重な食糧の無駄遣いにしかならない。
 廃棄する必要は無い。大きく「中国製」と書いて安く売れば良い。

改悛した死刑囚

2008-02-02 14:40:54 | Weblog
 死刑判決において「改悛の可能性が無い」ということを根拠にすることが多い。しかし実際にはほんの1・2割らしいが、改悛する死刑囚がいるそうだ。
 死刑囚の改悛は演技ではなく本物だ。模範囚になれば減刑される懲役囚とは違って減刑が無い死刑囚が改悛したフリをしても何のメリットも無い。それにも関わらず、毎日犠牲者の冥福を祈り続けたり、舎房内での内職で得たお金を遺族に送り続ける死刑囚がいるそうだ。
 改悛した死刑囚に出された「改悛の可能性が無い」という判決は明らかに間違っている。誤審だ。なぜ間違いを正さないのか。「改悛の可能性が無い」筈の死刑囚が改悛したのだから死刑判決は見直されなければならない。当然、再審することが必要だ。なぜ再審の道は閉ざされているのだろうか?
 せっかく改悛した死刑囚を死刑にする必要があるのだろうか。遺族の気持ちも尊重せねばならないだろうが、本当に改悛した死刑囚に対しては殺意を持つことはできないだろう。
 死刑の存廃の是非を問うより先に、改悛した死刑囚の扱いを検討すべきだろう。

償い

2008-02-02 14:25:44 | Weblog
 昨日日本で3人の死刑が執行されたが、世界では死刑制度のある国のほうが少数だ。死刑存続国78か国に対して廃止国は117か国だそうだ。ヨーロッパで死刑制度が残っている国はベラルーシただ1国だけだ。アメリカでも約半数の州が死刑を廃止しており、死刑制度が存続しているのは中東を含むアジアとアフリカと南米といった言わば後進国に偏っている。昨年末には国連総会で死刑執行の一時停止を求める決議案が採択された。国際的には死刑は残虐な刑罰と位置づけられつつある。
 イスラム教国にまだムチ打ちの刑があると知って日本人は「何と野蛮な」と驚くが、死刑がムチ打ち刑よりも残酷な刑であることは間違いあるまい。
 しかし日本で世論調査をすると約8割が死刑制度に賛成するらしい。私も死刑に賛成しているが、日本人は野蛮で残酷な民族なのだろうか?
 多分日本人は西洋人と全然違った理由で死刑制度を支持しているのだろう。西洋人は「罰を与える」ことが根拠だが日本人は「罪を償うべきだ」という考えに基づく。
 日本人の倫理観は西洋人より厳しい。他人に迷惑や損害を与えた場合に「償うべきだ」と考える。しかも「目には目を」よりも厳しく、相手に与えた以上の負担を加害者である自分は負わねばならないと考える。たかが借金を返せないだけで、たかが鳥インフルエンザを隠しただけで、たかが自動車で相手に重傷を負わせただけで・・・自殺してしまう。つまり自分で自分を死刑にしてしまう。償いは自分の負担のほうが大きくなければならないからだ。
 ボクシングで対戦相手を死なせてしまっても罪には問われない。法的には不慮の事故とされる。メキシコにはリングで2人も殺した世界チャンピオンがいた。彼は「殺人パンチャー」として人気があった。日本人なら死なせた相手に申し訳ないのでボクシングを続けられないだろう。
 被害者の遺族が加害者に「死んで詫びろ」と凄むのは気持ちの良い光景ではない。償いは自然な心情から生まれるべきであって、押し付けるべき性質のものではない。遺族の発言は単に復讐心に凝り固まってしまっている。加害者が死んでも被害者が生き返る訳ではない。
 「済んだこと」を謝る時に「済みません」と言うのは「私の贖罪はまだ済んでいません」という意志を表しているのではないかと私は勝手に考えている。