越川芳明のカフェ・ノマド Cafe Nomad, Yoshiaki Koshikawa

世界と日本のボーダー文化

The Border Culture of the World and Japan

第1回 幻のキューバ  サンティアゴのブルへリア(14)

2011年11月22日 | キューバ紀行

 

    人の良さそうなガブリエルの顔つきに気を許して、私はホルヘのことを訊いてみる。

    ホルヘは去年の夏に知り合いになった地元の男だ。

 年齢は三十代半ばぐらいだろうか。

 肌は黒光りしたような光沢を放ち、背もプロバスケットボールの選手のように高い。

 ゆっくりと噛み砕くように説明する話しぶりに私は好感を抱いていた。

 私はホルヘのおかげで、生まれて初めてキューバのアフロ信仰の世界に足を踏み入れることができた。

 ベンベイと呼ばれる儀式に招き入れてくれたのだ。

(つづく) 


 


第1回 幻のキューバ  サンティアゴのブルへリア(13)

2011年11月22日 | キューバ紀行

 私はカミオネッタと呼ばれる小型トラックの荷台を改造した乗り合いバスに乗って、

 エル・コブレに向かう。

 エル・コブレの町は、サンティアゴから内陸に二十キロほど入ったところにあり、

 キューバの守護神である「慈悲の聖母」が祀られているカトリック教会がある。

  サンティアゴの街なかを出ると、ただちに道路の両脇は山や畑に囲まれて、緑豊かな田園が広がる。

 三十分ほどでエル・コブレに着き、乗り合いバスをおりると、

 ロウソクやヒマワリを売りつけようとする者が寄ってくるが、私は首を振っていらないと言い、

 カトリック教会に通じる幅広いコンクリートの坂道を登っていく。

 半分ほど登ったところに三叉路があり、その一角にブルヘリアをしているエディタの家がある。

 家の前のポーチの土台にガブリエルがのんびりと腰をかけている。のんびりと見えて、実は通行人を物色しているのだ。

 (つづく)

 

 


第1回 幻のキューバ  サンティアゴのブルへリア(12)

2011年11月22日 | キューバ紀行

 

 米国とメキシコの国境地帯では、ブルへリアではなく、クランデラとかクランデロと呼ばれている。

   民間療法の専門家で、きのこや薬草に詳しく、ときには堕胎を施したりもする。

 新大陸の先住民の知識を継承したものだろう。

 ヨーロッパからきたキリスト教徒から見れば、東洋医学にも通じるそうした民間療法は、

 異教徒の信仰や儀礼に深く結びついているので、「呪術」と映ったのだろう。

 だが、こうした薬草の知識や民間療法は、

 「未開」の文明の現地調査を行なった文化人類学の先人たちから「呪術」と呼ばれているわけではない。

 レヴィ=ストロースは、自然科学とは違うもう一つの世界認識の方法であるとして、

 「具体の科学」とか「第一の科学」と名づけている(『野生の思考』)。 

(つづく) 

 

 


第1回 幻のキューバ  サンティアゴのブルへリア(11)

2011年11月22日 | キューバ紀行

 

    パロと呼ばれる木の枝や根は、ヒヨバン、フババン、フアバナ、フリバン(ライ・デ・ヒバ)、

   フルバナ、ライセス・デ・ベラコ、ギラ、ペンカ・デ・セイバ、マングレ・ロホ、

   ハボンシジョ、フルバノ、ライセス・デ・チナ、ライセス・デ・ガニュオン、ペンカ・デ・サビラなどで、

 それぞれほぼ均等に二、三十センチに切り揃えられている。

 ちょうどキューバのスポーツ省のスカウトが将来オリンピック競技やワールド杯に出るような

 身体能力に優れた児童を全国から選びぬいてくるように、

 これらの根っこや枝たちも、そんな選びぬかれたちびっ子みたいに、莚の上にきちんと整列している。

(つづく)