電車の中で宮本輝の錦繍を読み終わった。後半、少しウルッとくる場面があって、涙を拭いているのを向かいに座っている人に見られてしまった。
感動が醒めないうちに、電車の中で感想を書こうと思う。
物語の結末は決してハッピーエンドではない。切なく哀しい。しかし、彼らは前に向かって前進している。そこには、過去の束縛から解き放たれた生の躍動が感じられる。何ともいえない不思議な結末である。
この小説に一貫して流れるテーマと共通するものに、モーツァルトの音楽がある。
作者はモーツァルトの音楽で表現されているものを小説で表現したかったのかなぁと勘ぐってしまう。
美しさと同時に存在する哀しみ。幸せの中にある哀しみ。
昔、「幸せすぎて怖い」という人がいた。その時はピンとこなかったが、今はわかる。今が最高なら、あとは下るしかないのである。人は知らないうちに気付いたらあっという間に下り落ちていくことがある
。それでも人は生きていかなくてはならない。
ああ、モーツァルトの交響曲聴きたいなぁ。帰ったら聴こう。
誰も来ないから一人きりで酉谷山避難小屋を使う。この小屋は小さいが、その分、室中は暖かい。気持ちがいいくらい快適だ。
静かに宮本輝の錦繍を読む。今ではめずらしい往復書簡形式の小説だ。想像以上におもしろい。この小説を持ってきてよかった。もし、このような筆を抑えながらも熱のこもった素敵な手紙をもらったら、あっという間に恋に落ちそうである。
手紙のもつ力強いメッセージ性について、改めて驚かされる。もしあなたが人の心を動かすだけの文章が書ければ、手紙を書くことをすすめる。手紙にはまだまだメールにはない可能性がある。
あんまり読むと、帰りの電車で読む分がなくなるので、我慢してやめる。
それにしても、物音ひとつしない静かな夜だ。今日はシーンとした穏やかな気持ちで寝れそうである。