ジャック・ロンドンの「火を熾す」を読んだ。この短編集が好きで、何回も読んでいる。
今日は、その中の「メキシコ人」という短編について、書いてみようと思う。
ボクシング小説だ。読むと体温が1℃上昇するような熱い小説である。弱ったときに読んでみるといい。魂が揺さぶられ勇気が出てくる。
内容と主人公のキャラはまったく違うが、基本的な構成はロッキーと同じである。圧倒的人気を誇るボクサーに挑み、執念でそのボクサーに打ち勝つ。
時代は、1910年頃のメキシコである。
当時のメキシコでは革命が進行していた。
メキシコ革命は、ポルフィリオ・ディアス政権を倒すことを目的としていた。ディアスは先住民から農地を力ずくで奪った。それ故、先住民は貧しい農業労働者の地位に甘んじなければならなかった。
そこで先住民たちは、奪われた土地を取り戻そうとする。しかし、政府、大農園主、資本家たちによって弾圧される。
主人公は、18歳の若者、フェリべ・リベラ。貧しくて厳しい生活だったが、優しい両親の下で、幸せにくらしていた。
リベラがまだ小さかった頃、工場勤務をしていた両親は、政府・資本家に虐殺される。それ以来、彼はディアス政権を倒すことに、命をかけることになる。
彼は、ボクシングを好んでやっているわけではない。むしろ憎んでいる。しかし、彼には他に資金を稼ぐ方法がない。だから、革命組織の資金を調達するために、ボクシングやる。
物語はこのように始まる。
フェリペ・リベラと名乗り、革命のために働きたいと言った。ただそれだけだった。無駄な言葉はひとつもなく、それ以上の説明も無し。ただそこに立って待っていた。唇に笑みはなく、目には少しの愛想もなかった。威勢のいい大男パウリーノ・ベラでさえ、内心寒気を感じた。若者には何か近寄りがたい、恐ろしい、不可解なところがあった。黒い目には毒々しい、蛇を思わせるものがあった。目は冷たい炎のように燃え、とてつもない、凝縮された憎悪をたたえているように見えた。
革命組織は、もう一歩のところで、武器購入の資金が尽きてしまう。武器が購入できなければ、革命を達成できない。
そこで、リベラは武器購入の資金を調達するため、明らかに格上のボクサーと、命をかけて戦うことを決意する。
彼の原動力は、圧倒的な怒りである。それは愛するものを理不尽に奪われたことによる怒りである。
革命は、明らかに力の弱いものが力の強い支配者に対して、挑んでいくものである。まともな神経では達成できない。狂っていなければならない。
有り余るエネルギーを爆発させ、自分の命でさえゴミのように捨てることのできる狂った若者だけが、革命を達成できる。
そのクレイジーな熱さに、心が揺さぶられる。私の中にある戦闘本能を呼び起こす。
この小説を読むと、私も狂ったように生を全うしたいなぁと思ってしまう。