今日の話は「恐怖」ついてである。
心の働きは脳にあるから、恐怖と脳の関係について分析する。
本能的行動と快・不快・喜怒哀楽のような情動は、主に大脳辺縁系が関与する。
大脳辺縁系のうち、記憶は「海馬」で、情動は「扁桃体」で処理される。
つまり、ある出来事を海馬で記憶し、それが快か不快かを扁桃体で判断することになる。
恐怖についての実験は簡単で、まず、動物に音・光のようなものを条件刺激として与える。それに続いてすぐに電気ショックを与える。数日後、条件刺激を与えるだけで、動物は電気ショックを恐れてすくみ上がるようになる。
音や光のような条件刺激とそれに関連した電気ショックの情報が海馬に送られ、長期的に記憶される。他方、それが扁桃体にも送られ、生存にとって有利であるかどうかの評価、価値判断がおこなわれる。
恐怖を感じると、自律神経が反応して心臓の拍動が早くなり、胃腸の動きも変化する。また、すくみ上がるといった行動が引き起こされる。
恐怖は、身体とも連動している。
このように恐怖は、私たちの生存にとって有利か不利かに深く関わる出来事について、感じるようにシステム化されている。だから、恐怖は人を素早く行動させる強力なきっかけになる。
したがって、人をコントロールするためには、恐怖をうまく扱うことが重要になってくるのである。
詐欺などで使われる典型的なものは、「霊的なものに取り憑かれているから、これをやりなさい」というものである。人が霊的なものに恐怖することをたくみに利用する。
ポイントは、漠然とした不安を煽ることである。その程度の恐怖がちょうどいい。
というのも、あまりに恐怖が強すぎると、人は逃避行動をとってしまうからだ。脳と体が、この場から逃げろと命令を下す。だから、あまりに強すぎる恐怖は、詐欺のように、人を引きつけながらコントロールするといった状況にそぐわない。
一番有効な「恐怖」の使い方は、「失う恐怖」である。
人間は、安定を好み、保守的で、今の心地良い状態を維持したいというインセンティヴが強く働く。だから、その安定した状態を作り、それを失うように働きかけることで、コントロールしやすくなる。
例えば、綺麗な女性といい信頼関係ができたところで、「あなたのこういうところにすこしがっかりしちゃったなぁ」と言われたら、 そこを直そうとする。それは、その信頼関係を失いたくないからである。
また、一定の利益を与えられていてそれを打ち切るなども、そうである。
だから、コントロールしようとする側は、まず、心地の良い依存関係をつくろうとする。そして、その依存を利用し、コントロールするのである。
恐怖は、重要な生体反応である。状況の違和感である。
強い恐怖はすぐに分かる。即行動に移せる。戦うか逃げるか。
しかし、恐怖が小さいと、すぐにそれだと分からない。不安だったり嫌な感じという違和感として現れる。だから、そこにつけこまれてしまう。
私たちは自分の感覚を信じなければならない。自分の微妙な心の動きに敏感にならなければならない。それによって見えない危険を回避できる。