夕方、シスターが笑顔でぼくの病室に入ってきた。何かあったのか、いつもとちよっと違う雰囲気が彼女の周りに漂っている。彼女はぼくの目を見ていたが悪戯っ子が我慢できないといった感じで
「ハッピー、パッピークリスマス」
と楽しそうに弾んだ声で笑った。
「パッピークリスマス」
彼女につられてぼくもつい、そう言ってしまった。ぼくはあまりハッピーな状態ではないが、彼女のからっとした明るさがそう言わせた。彼女はクリスマスの飾り付けをぼくに見せたかったのだろう、どうしても見に来てくれと言ってぼくの傍を離れない。インドはヒンズー教の国だからクリスマスに関心を示さない、この病院で誘えるのはぼくしかいない。
外には点滅する照明で飾られたクリスマス・ツリーがあった。シスター達がそれを囲んで楽しそうだ
「綺麗でしょう」
「うん、とても綺麗だ」
東京で見た飾りとはあまりにも細やかな灯りであるが、ぼくには彼女達の清らかな心の灯火のように見えた。事務室には手作りの色紙で飾らていた。1995年のクリスマス・イブは、彼女達の思い出に大切に記憶されていくのだろう。ハッピー・クリスマス。