ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

ジャンキーの旅・逃亡・・・・・13

2017-07-03 | 5章 ジャンキーの旅  逃亡



 インドラ・チョークに並んだ商店の建物の間にぼくが泊まっているホテルと同じようなトンネル通路がある。カトマンズではよくある建築形式だ。頭を屈めるようにして通ると中庭に出る。その真中に神の石像があるのだが、どうみても仏教の石像である。スノウリから西へ5㎞くらい行ったところにルンビニという村がある。昔、その地域はシャーカ族によって支配されていた。シャーカ族の王子として生まれたのが仏陀である。カトマンズ盆地には仏教が栄えていたが、その後ヒンズー教が入ってきた。仏教や土着宗教をとりこんでネパール王国は現在のヒンズー教を形づくっていった。カトマンズのあちらこちらに仏教の石像や建築物が残っている。イスラム教のように一神教ではないヒンズー教が入ってきた事で仏教遺跡の破壊は免れた。イスラム教が入ってこなかったのはネパールにとって幸いであったとぼくは思う。それはインドネシアのバリ島で仏教や土着宗教色を合わせ持ちながら独自な発展をしたバリ・ヒンディーが残っているのと同じではないだろうか。
 トンネル通路から出た正面にネパール人が利用する食堂を兼ねた飲み屋のような店がある。そこでスンダルと一杯飲みながら話し合った。ここには何度か来ているが食べ物のメニューが外国人相手のレストランとはちょっと違う。ネパール人が普段に食べているものだろう、ネパール人と一緒に行かないとメニューの内容が分からない。ここは飲み屋だがネパール人が日常的にアルコールを飲むようになった歴史は浅い。70年代ぼくが旅をしたとき畑に生えていたガンジャを彼等は吸っていた。飲み屋といえばどぶろくのように白く濁ったアルコール度数が低いチャンという酒があったぐらいだ。今では度数の高いアルコールを彼等は飲んでいる。飲み屋で悪酔いしたネパール人に絡まれている旅行者を見たことがある。スンダルと一緒だから飲みにくるが1人だけでは来ない。

いきなり暑くなった 26°~33°たまらん ついでのように明日 
台風3号九州北部接近の予報 ベランダのミニトマトは収穫をし残りは紐かけした
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ジャンキーの旅・逃亡・・・・・12

2017-06-29 | 5章 ジャンキーの旅  逃亡

 ぼくは今までの出来事をかいつまんで説明し今後の計画を話し合った。今日は祭日でどこも休みだと言う。ネパールはとにかく祭日が多い、計画どうりに進まないのは分かっていた。今週オフィスが開くのは明日12日の金曜日だけだ。その後2日間またクローズされる。良い情報が彼からもたらされた。ロイヤル・ネパール航空が週2便、火曜と土曜日にカトマンズ→上海→関空→羽田を飛ばしている、これは助かった。バンコクで乗り継ぎ待ちをしないですむ。時間が短縮されることもあるが料金も安い、羽田まで600ドルぐらいだろうとスンダルは言っている。それと彼の知り合いがカトマンズ警察署に勤務しているという、直ぐ連絡をとってもらった。これでパスポートの盗難証明書は明日には入手できる。警察官からのアドバイスで今日中にパスポートの盗難記事を掲載してもらうよう新聞社に依頼し、明日その記事が載っている新聞を持って警察署へ来るようにと言われた。彼は新聞社へも電話を入れ盗難記事の掲載を依頼した。スンダルは旧家の高カーストの出身者だ。彼等の同族意識は強くその繋がりは現在の社会の中において機能している。今日できることは全てやった。彼のバイクで日本大使館の様子を見に行ったがやはり休館だった。その足でぼくはホテルへ送ってもらった。疲れは抜けないがそんなこと言っている場合ではない、明日の行動予定を話し合うため夕方、彼と会う約束をして別れた。

毎日 雨の予報だが時々小雨程度 今 ちょっと雷が鳴っている 
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ジャンキーの旅・逃亡・・・・・11

2017-06-25 | 5章 ジャンキーの旅  逃亡

「スンダル、美味しいチャイが飲みたい」
そう言ってぼくはこの雰囲気を押しやった。 彼は近くのチャイ屋にチャイを頼んでぼく達は2階へ上がった。店に入ると彼は
「ここはトミーの店だよ」
と言う。壁際のショーケースにはシルバーを使ったリングやアクセサリーが並べてあった。棚にはウールのセーターやショールが整理して入れられている。ぼくと彼がやろうと思っていた店のイメージと合って納得はしたが、ぼくの店だと言う彼の言葉にちょっと引っ掛かるものを感じた。
 チャイを飲みながらスンダルはぼくの不在中の出来事を話し始めた。彼がぼくの逮捕を知ったのは外国語学校のぼくの友人Fさんからの知らせだった。Fさんはぼくの逮捕記事が載った新聞を持って来てスンダルに知らせてくれた。彼はホテルへ行きぼくが考えていたように鍵屋に頼んで鍵を開けぼくの荷物を保管してくれていた。その点では助かっている。インド警察が調べにきたと彼は言ったが、どうも信用が出来ない。ぼくもそれを1度は考えたが個人使用目的で120gのスメック所持程度でインド警察がカトマンズまで捜査にくるとは考えられない。スメック20㎏所持だとしたら話しは別だが。彼はぼくに面会する為にデリーへ飛行機で行ったらしい、面会は出来なかったと言う。その旅費やその他で彼が保管しているぼくの荷物の中にあったお金を少し使ったと言った。つまり彼はぼくのお金を使ったという事の正当性をぼくに言いたかったのだろう。これだけの商品を仕入れる資金を彼は持っていなかったはずだ。どこから出たのか、その点についてぼくは何も言わなかった。当面ぼくが解決しなければならない問題が最優先する。ぼく1人だけでは限られた日数で計画の目的は達成できない。カトマンズを良く知り人脈を持っているスンダルの手助けはどうしても必要だ。


キタサンブラック馬群に消える 「敗因は分からない」 武騎手
知っているのはキタサンブラックだけだ

梅雨前線北上 九州北部も梅雨らしい雨が降っている 釣りは秋までお休みだ
今シーズンの釣果はスズキ2(73㎝) チヌ3(45㎝) 穴子(73㎝)1 まあ々の釣りだった
竿 リール その他 塩抜きをして定位置に納めた 
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ジャンキーの旅・逃亡・・・10   スンダルとの再会

2017-06-17 | 5章 ジャンキーの旅  逃亡



 広場はロータリーのようになり数本の通りが放射状に延びている。この一角のどこかにぼく達が始める予定だった土産物店があるはずだ。アッサントーレから延びる1本の広い道を進むと王宮横を通る町の中心道路カンティプルに突き当たる。この通りの左側の2階であることは大体分かっている。2階を見上げながら行きつ戻りつしていると、2階から下を見ていたのだろう、スンダルがぼくに気づいた。
「ヘーイ、トミー。トミーここだ、上だよ」
きょろきょろと周りを見回すがスンダルの居る場所が見つからない。どの店も窓からセーター等の売り物をぶら下げている。声はするがどこからだか分からない
「ここだよ、ここ」
という声と同時に階段を駆け下りてくる足音がした。すぐ横の階段から出てきたスンダルはぼくの手を握って
「トミー心配したよ。トミー・・・」
それだけ言うと彼は言葉に詰まった。
「心配かけたな、スンダル」
ぼくは一瞬、目頭が熱くなった。やっとカトマンズに帰ってきた。ここでずっと生きていたい、だがそれは出来ない。感傷に心の緊張を緩めてはならない。
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ジャンキーの旅・逃亡・・・・・9

2017-06-10 | 5章 ジャンキーの旅  逃亡

 カトマンズに戻って来るとぼくはほっと気が抜ける。インドへ行く時は逆に気を引き締める、生き馬の目を抜くと言われるインドだ。それぞれに異なって楽しい旅をさせてくれる。ホテルを出るとすぐ左側に歴史を感じさせる旧王宮がある、その前の広い通りが高級宝石店等が並ぶニューロードだ。通りを渡り50mくらい先から右斜めに入る通りがある、インドラ・チョークと呼ばれる旧市街の中心商店街である。近在の村から祭礼の花などを持ってきた村人が歩いている。商店の2階は木彫を施した窓枠で飾られインセンスの香りが漂ってくる。寺院と商店が混然と一体化し生活と礼拝もまた同じく一体になる。通りには頭から白いショールをまとい花を持ち婦人達は寺院へ行き交う。商店の硬い木の開き戸があいて薄暗い店内に人が動く、カトマンズの朝はゆっくりと目覚めていく。
 空気と人の流れをすり抜けるようにぼくは急ぎ足で通り過ぎた。今日中にやらなければならない事が沢山ある。まずスンダルに会うことだ、彼に会わなければ逃亡計画は何も進まない。寒いせいもあるがぼくの気持ちは急でいた。アッサン・トーレの広場に着いた。広場の中にヒンズーの神が祭ってあり、すぐ横にはアンナプルナ寺院もある。ネパール人達の朝の礼拝が続いていた。ティカという額につける真っ赤な顔料とオレンジ色の花がくすんだ周囲の中で鮮やかだ。白檀の煙は押しころしたような祈りの声と融合し空に立ち昇る。その中にあってぼくはリアリティーを共有しえない人間のようにせわしない。
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ジャンキーの旅・逃亡・・・・・8

2016-11-24 | 5章 ジャンキーの旅  逃亡

 朝、起きて時計を見ると8時を過ぎている。インドとの時差15分は昨夜、調整したように思うがはっきりしない。吐く息が白い。素早く着替えを済ませ階段を下りた。久し振りに再会したマネージャーだが何かをぼくに問う事はない、のんびりしている。宿帳には盗難に遭ってパスポートはないと説明し、デリーの裁判所でコピーをとったパスポート番号を記入した。何かが起こる可能性も否定はできない、がもしインド警察から調査依頼がネパール・イミグレーションに入るとしても早くて2週間以上先のことだ、その前にトリブバン空港を離陸すればよい。大使館へ行って新しいパスポートを作ると言ってホテルを出た。4~5日宿代を溜めても何も言わないし誤魔化しもしない。こういうところはアーリア系インド人とは違う。ネパール人は日本人と人種的には同じモンゴロイドである。体型は大きくない。日本人は食生活の変化によって身長が高くなっている、その分だけネパール人より大きいと言えるだろう。性格は穏やかで大人しい、それは国民性だろう。インド人から見たネパール人はお人好しで軽く扱いやすい人間だと思われている。
 ネパールはインドと中国という超大国に挟まれた陸の孤島である。両国の思惑に翻弄されながらも独自の国家近代化を進めている。しかし時に政治的バランスを見失うことがある。ネパールは一時期、中国寄りの立場をとりインドの厳しい経済制裁をうけたことがある。日常生活で最も重要であるガソリンや軽油などの燃料が高騰しネパールの日常を直撃した。燃料用に木が伐採され山は疲弊した。現在、各国の支援を受けて植林を進めているが、その傷跡は深く肥沃の表土を失った山の回復は遅れている。

冷たい北風が吹いた 冬になる
Tさんから電話 明日どうする 晴れは明日だけ イカ釣りに行く
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ジャンキーの旅・逃亡・・・・・7     眠る

2016-11-18 | 5章 ジャンキーの旅  逃亡

フリーク・ストリートの建物は古く階段は狭い、3階左側の突き当たりにぼくがいつも泊まる部屋がある。ドアの1枚ガラスにカラーペイントで蓮華に座り印を結び瞑想する仏陀が描かれている。バッグをテーブルの上に置きベランダに立った。左右と前面はガラス張りで通りが見渡せる。布団を置いて出て行くクリシュナを見てドアをロックしカーテンを閉めベッドに座った。疲れた。精神的な緊張感からくる疲れだ。ぼくは1年3カ月振りにカトマンズに帰って来た。アシアナで禁断治療を受けていた時も、デリー中央刑務所に収監されている間も、精神病院に入院していた時もカトマンズへ早く帰りたいと思い続けていた。長かったのか、短かったのかぼくには分からない。後ろを振り返るな、まだ終ったわけじゃない。チェーシングでスタッフを吸うと冷えた身体の芯に小さな炎が燃える。睡眠薬を2錠飲んだ。眠ろう。今週末まで2日間ある、それまでにカトマンズ警察でパスポートの盗難証明書を発行してもらい在日本大使館で新たなパスポートの発給は無理だとしてもトラベル・ドキュメントだけは手に入れておきたい。
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ジャンキーの旅・逃亡・・・・・6     ホテル

2016-11-16 | 5章 ジャンキーの旅  逃亡

「こんな時間だがホテルへ入られるのか?」
ホテルの入口を見ると、夜遊びがすぎた一人のヨーロッパ人が繰り返しドアをノックしている。その様子からみてドアをノックし始めてある程度、時間が経っているようだがドアは開きそうにない。それを見てボスは心配しているのだろう。大丈夫だドアは開く、と言ってボスを車まで送った。彼を乗せると日本製の古いバンは動き出した。窓から顔を出し手を振るボス、彼を乗せた車は旧王宮の方へ走っていった。
 赤レンガ造りの古い5階建てのホテルだ。建物の中をトンネルのような通路があり奥の左側にホテル入口のドアがある。ぼくは荷物を持って入口へ行きドン、ドンと強くドアを叩き、
「クリシュナ、クリシュナ」
と大きな声でホテルの使用人クリシュナを呼んだ。寒い1月だというのに使用人のクリシュナには寝る部屋さえ与えられていない。受付け前の椅子で彼は寝ているはずだ。ぼくの声が聞えたのだろう、ドアの内側で人が動く音がする。暫らくすると入口のドアが開いた。クリシュナはぼくの声を憶えている、それでもこんな時間に戻って来たぼくを見て少し驚いたような顔をした。
「いつもの部屋、空いてるか?」
はい、と答えてキーをぼくに渡す
「冷える、布団を2枚部屋へ持って来てくれ」と彼に頼む。
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ジャンキーの旅・逃亡  カトマンズ・・・5

2016-06-30 | 5章 ジャンキーの旅  逃亡

 静かなカトマンズだ、対向車もない。ネパール銀行前から車は狭い道に入り徐行をしている。見慣れた通りだ、そう思い注意して見ていると既にフリーク・ストリートに入っていた。見回すとぼくの定宿モニュメンタル・ロッジの看板が目についた。
「ここで停めてくれ」
約10時間に及ぶ車での逃亡は終った。ヘッドライトがかすかに旧王宮の壁面を浮かび上がらせている。ドアを開け車外へ出る。懐かしいホテルをぼくは見上げた。15ヶ月前ここを出発したときと何も変わっていない。変わったのは逃亡者として帰ってきたぼくだ。座席からバッグを取り出すとボスが近寄ってきて右手を出す。その手をぼくは強く握り
「助かった、有り難うボス」
無口で良い奴だった。スノウリを出発してから、ぼくの事情を聞くことも詮索することもしなかった。カトマンズまで後どのくらいだ、何時頃に着く?ぼくが聞いた事だけ奴は答えた。ボスとの出会いがあったからぼくは国境を抜けられた。感謝しても感謝しきれない、そんなぼくにボスは何の報酬も要求しなかった。
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ジャンキーの旅・逃亡  カトマンズへ・・・4

2016-06-27 | 5章 ジャンキーの旅  逃亡

 今まで黙っていた2人のネパール人が言葉を交わした。峠のピークが近い、そう思ったとき前方に黒い家の形が浮ぶ。坂は緩やかな上りに変った。上り坂で沈んでいたリアーは車体の傾きが戻るにつれ浮いてきた。暗い家並みの真中を車のヘッドライトは切り裂くように峠の町へ入っていった。エンジン音が軽い、車は加速し町を走り抜ける。カトマンズ盆地に入る最後のピークをぼく達を乗せた車が超えた。眼下に広がるカトマンズ盆地は深い闇の中に佇んでいる。だがぼくには見える、カトマンズよぼくは帰って来た。
 もう上りはない、車は一気に坂を下りカトマンズ市街へ向かった。
「ジャパニー、どこへ着ける?」
「カトマンズの旧王宮の近くへやってくれ」
そうボスに伝えるとぼくはシートに身体をあずけ煙草に火をつけた。窓外に流れるカトマンズの夜景を見ながら煙草を深く吸いこんだ。何もかも上手くいった。何もかもだ。あらゆる偶然性だけがぼくを救ってくれた。
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